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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第三章 砂漠に架ける想い

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石橋を叩いて渡る主義?

「うっ……ぐっ……」


 次に俺が目を開けた時、目の前に突き抜けるほどの真っ青な青空が広がっていた。


 何が、どうしたかなんて考えるまでもない。

 俺がヘマをして無理にフロストマインを拾おうとしたから、クリミナルバッドによる怪音波の攻撃をまともに受けてしまったのだ。


 あの強力な攻撃を受けてバラバラにならずにこうして生きていられるのは、一体どんな幸運が働いたのだろうか?



 だが、


「………………あれ?」


 そこで俺は、体の痛みが思ったほどではないことに気付く。


 決して痛くない、というわけではない。

 痛みはそれなりにはあるが、それでも全身を強かに叩かれた程度の痛みであり、この程度なら鍛錬中に受けることも珍しくないので、むしろ全然平気だったりする。


 何故? どうして? 頭の中は疑問符だらけだが、ゆっくりと考える余裕はない。

 何故なら、これまで決して地上に降りて来ることはなかったクリミナルバッドが、空中に放り出された俺目掛けて突進して来ているのが見えたからだ。


 こんなまともに身動きも取れない空中で襲われたら、絶対に回避なんてできるはずがない。


「わっ、わわっ……」


 それでも俺はどうにかしてクリミナルバッドの射線から逃れようと手足を必死に動かしてもがくが、そんなことで宙を自在に動くことができたら苦労なんてない。


 その間にも、仮面を付けたライダーの必殺キックみたいな恰好で、クリミナルバッドが空を切り裂きながら迫って来る。

 かぎ爪だけで俺の上半身ほどの大きさがあるので、かなりの速度に達しているあれが直撃したら俺の体なんてバラバラになるどころか、血潮だけ残して跡形すら残らないかもしれない。


「何とか……何とかしないと…………」


 もうクリミナルバッドがすぐそこまで迫って来ているので、猶予はもうないに等しい。

 だからといって、このまま何もせずになます斬りにされてやるつもりはない。


「こうなったらっ!」


 俺は腰のポーチに乱暴に手を突っ込むと、ありったけの瓶を取り出して中身をぶちまける。

 瞬間、俺の周囲に灰と唐辛子の粉による赤い華がバッ、と咲く。


「まだまだ!」


 これだけでクリミナルバッドが止まるとは思えないので、俺は火炎瓶を取り出し、ベルトに擦り付けて摩擦熱で発火させると、奴に向かって放る。


「――っ!?」


 すると、俺が空中で反撃してくると思わなかったのか、それとも火が弱点だったりするのか、とにかくクリミナルバッドは羽を広げて軌道変化させると、再び上空へと舞い戻っていく。



 あっという間に遠ざかっていく異形の背中を見ながら、俺は安堵の溜息を吐こうとするが……、


「た、助かっ…………ってないっ!」


 考えてみれば、俺の体は上空に飛ばされている最中なので、このまま地面に墜落したら五体満足でいられる保証はない。


 ヤバイ、ヤバイヤバイ…………、


 俺は再び手足をバタバタさせながらどうにかして助かる道を探す。

 すると、


「わんわん!」

「ぐえええぇぇ!」


 ロキの「助ける」という声が聞こえたと思ったら、俺の首がギュッ、と締まり、視界がグルグルと激しく回り出す。


「――っ!?」


 まともに呼吸もできない中、意識が飛びかけるが、そんな死のジェットコースターは一瞬で終わり、俺の背中が砂の柔らかい感触を捉える。


「かはっ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「わふぅ?」


 荒い呼吸を繰り返しながら顔を上げると、ロキが「大丈夫?」と言いながら心配するように顔を舐めてくれる。


「わん!」

「あ、ああ、大丈夫。ありがとう、ロキ……」


 俺はまだ早鐘を打つ胸を押さえながら立ち上がると、上空のクリミナルバッドを見る。

 俺が隙を晒した瞬間、迷うことなく突っ込んできたクリミナルバッドであったが、今は再び安全圏へと逃げてこちらを睨むように佇んでいる。



 ただ、これまでとは違って無差別に怪音波を打つような真似はせず、ジッと俺たちの動向を眺めている。


「な、何だ? どうしてさっきみたいに攻撃を仕掛けて来ないんだ?」

『どうやらあの魔物、コーイチのことを脅威と捉えて、恐れているようですね』

「俺をですか?」


 ライハ師匠からいきなり通信が来たのも驚いたが、その発言内容にも驚かされた。

 あのイビルバッドよりも圧倒的に強いクリミナルバッドが、俺を恐れるなんて……、


「いやいや、流石にそんなわけないですよ」

『そうですか? 必殺の一撃を受けてほぼ無傷でいたこと、空中でも反撃を仕掛けてきたこと、何も知らずに目の当たりにしたら充分に脅威になると思いますがね』

「そ、そんなわけ……」


 ない……と、言いたいところだったが、そこで俺は、かつてグランドの街の地下、地下墓所(カタコンベ)の最奥で戦ったキングリザードマンのことを思い出す。


 キングリザードマンはその存在に至るまでに、数え切れないほどの同族を共喰いをして最強へと至ったはずなのに、必要以上に慎重に行動するきらいがあった。


「もしかしてこの世界のボスって……」


 強さに反比例して、メンタルは弱い……いや、必要以上に慎重を期すのか?

 そう考えれば、俺たちの足が完全に止まっているにも拘らず、安全圏からの攻撃をしてこない理由も説明がつく。



 なら、そんな臆病者を俺たちの戦場へと引き摺り下ろす方法は…………ある。


 あれだけ慎重な姿を見せていたクリミナルバッドが、どうしてあの一瞬だけ突撃してきたかを読み切れれば、そこに勝機が生まれるはずだ。



 だが、その前に一つ確認したいことがあった。


 俺は再びロキの背に乗り、クリミナルバッドの動きに注視しながらライハ師匠に尋ねる。


「あ、あの師匠、一ついいですか?」

『何でしょう?』

「さっきの俺、あいつの攻撃をまともに受けたはずですが、どうして無事で済んだのでしょう?」

『ああ、それですか。それは……』


 離れた場所で一部始終を見ていたライハ師匠は、あの時の俺に何が起きたのかを説明してくれる。


『……というわけです。わかりましたか?』

「は、はい、にわかには信じられませんが……」


 だけど、これで勝つための準備は整った。


「あの、ライハ師匠、セシリオに伝言を頼みたいのですが……」


 勝利を手繰り寄せる道筋を立てた俺は、ライハ師匠にもう一人の要となるセシリオ王子への作戦の伝達をお願いした。

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