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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第三章 砂漠に架ける想い

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過去の遺物

『さあ、コーイチ。セシリオがやってくれましたよ』

「はい、セシリオはやる時はやる男ですよ」


 耳元から聞こえるライハ師匠の声に、俺は頷きながら表情が緩むのを抑えられなかった。


『……どうしました? 顔がだらしないですよ』

「だ、だらしなくはないと思いますよ」


 ライハ師匠の手厳しい言葉に、俺は確かに笑っている場合ではないと表情を引き締める。

 目に見える範囲にはライハ師匠はいないのだが、彼女の声が聞こえるのは耳に秘密があった。


 今の俺の耳には、通信機能を兼ね備えた耳栓が入っている。


 俺とセシリオの二人でクリミナルバッドを倒すと宣言した時、ライハ師匠から最初に受けたアドバイスは、奴が使うという声を使った怪音波による対処法だった。

 クリミナルバッドの声はただ単にデカい声というわけではなく、その声が両方の耳から入ると、脳を激しく揺らされて行動不能になるという。


 それは、どの物体も持っている「共振周波数」というものらしく、ライハ師匠から説明を聞いたがよくわからなかった。


 簡単に言えば、声でグラスを割るようなものだと思ってもらえばいい。


 そんなことが本当に可能なのか? と思うかもしれないが、それも共振周波数に音程を合わせることで、手を振れなくても対象を揺らして割ることができるものらしいし、実際に映像も見ることができるので確かめて欲しい。



 ……とまあ、少し話は逸れたが、要するにクリミナルバッドの声には、生き物の脳を揺らして行動不能にする効果があるということだ。


 過去にはこれに対抗するため、戦士たちは耳を切り落とすか、焼いて潰して戦ったというが、ライハ師匠はそんな俺たちに特別な耳栓を貸してくれた。

 その機能は地下のモニター前で戦況を見守っているライハ師匠との通信機能、そしてもう一つが、クリミナルバッドの怪音波を完全に防いでくれるノイズキャンセリング機能だ。


 知っている人も多いと思うが、ノイズキャンセリング機能とは耳に届く音の波とは逆位相の音の波をぶつけて、音の波をプラマイゼロにして打ち消すというものだ。


 ただ、クリミナルバッドの音の波の逆位相だけを用意することは難しいので、今はライハ師匠の通信以外、全ての音がシャットダウンするようになっている。

 それ故に、先程はシドへの対応がちょっと冷たいものになってしまったが、俺と彼女の間はその程度で揺らぐものではないので大丈夫だろう。



 そしてライハ師匠が授けてくれたもう一つの秘策が、セシリオがメリルさんを守るために使ったあの指輪だ。


 あの指輪は『守護の指輪(リフレクトリング)と呼ばれる指輪で、自由騎士のスキルの一つ、リフレクトシールドと同じ力を持つ壁を目の前に貼ることができる指輪だ。

 ただし、その効果は本来のリフレクトシールドと比べるとかなり脆く、効果は一度きり、攻撃を受けると同時に指輪ごと砕け散ってしまう。


 しかし、その代わりに本家のリフレクトシールドのような相手の衝撃をまともに受けるという必要はなく、セシリオ王子のような非力な者でも確実に相手の攻撃を受け止めることができる代物だった。



 つまり何が言いたいかというと、今はイビルバッドを仕留める絶好の機会ということだ。


「……イギッ…………ギィー……」


 攻撃をセシリオ王子に受け止められたイビルバッドは、何が起きたのかわからず、その場で硬直して動けないでいた。



 俺は腰に吊るしたポーチからナイフを引き抜くと、固まっているイビルバッドの背中を睨むと、インクが滲み出るように黒いシミが浮かび上がる。


「うおおおおおおおぉぉ!」


 俺は気合の雄叫びを上げながら、イビルバッドに体当たりするようにナイフを黒いシミへと突き立てた。




「…………」


 俺にナイフと突き立てられたイビルバッドだったが、まだリフレクトシールドの効果が続いているのか、激しく暴れることはなく、徐々に力を失っていきそのまま絶命した。


「…………ふぅ」


 イビルバッドの死を確認した俺は、ナイフを引き抜いて大きく息を吐き、ナイフにべったりと付いた紫色の血を拭き取る。


「コーイチさん!」


 すると俺の元へ、満面の笑みを浮かべたセシリオ王子がやって来る。


「やりましたね。流石です」

「ああ、これも全てセシリオが体を張って奴の攻撃を防いでくれたお蔭だ」

「フフッ、僕にもメリルさんを守ることができました」


 そう言ってセシリオ王子は、両耳を押さえたまま唖然とこちらを見ているメリルさんを見やる。


「本当なら、あの苦しみから今すぐ解放してあげたいのですが……」


 そう言うセシリオ王子の耳には、俺と同じ通信機能が付いた耳栓が入っている。


 この耳栓は、管理しているライハ師匠だけでなく、耳栓をしている者同士でも会話できるので、俺たちはクリミナルバッドの叫び声を気にすることなく会話することができるのだ。


 何度も耳に手を伸ばすセシリオ王子は、きっと自分の耳栓をメリルさんに渡したいと思っているのだろうが、生憎とまだその時ではない。



『二人共、まだ喜ぶのは早いですよ』


 すると俺たちの耳元に、ライハ師匠からの通信が入る。


『まだ、メインディッシュが残っています。それとも、ここで他者に役割を委ねますか?』

「いえ……」

「大丈夫です。やれます」

『よろしい』


 俺たちの決意が変わらないことを告げると、スピーカーの向こうでライハ師匠が小さく笑う気配がする。


『それでは各々、手筈通りに動くように……まずはコーイチ』

「はい、機動力の確保……ですね」


 ライハ師匠の指示にしかと頷いた俺は、クリミナルバッドを倒すための協力者を起こすために行動を開始する。

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