空からくる脅威
ハッと目を開けて飛び込んできたのは、ここまで苦楽を共にしてきた異世界での友の顔だった。
「…………セシリオ」
「ああ、コーイチさん、ようやく起きて下さいましたね」
心底安堵するように嘆息するセシリオ王子を見て、俺は自分がいつの間にか深い眠りに落ちていたことを知る。
「セシリオ……俺、どれだけ寝ていた」
「寝ていた時間は、一時間ほどです。ただ、メディポッド自体は十分程度で止まったのですが、コーイチさんが余りにも気持ちよさそうに寝ていたので……」
「そうか……」
どうやら治療自体はすぐに終わったようだが、セシリオ王子は寝ている俺を気遣ってそのままにしておいてくれたようだ。
治療が完了したということで、俺は体の上に残った拘束していたベルトをどかして立ち上がる。
「おっ……」
あれだけ全身が酷く痛み、鉛を背負ったかのように思ったからだ体が、すっかり元に戻っていることに俺は驚く。
「凄い……本当に傷が回復している」
「はい、僕の切り傷も、すっかりなくなっています」
そう言ってセシリオ王子は、服をめくって綺麗になったお腹を見せてくる。
「ねっ、凄いですよね?」
「そ、そうだな……」
あれだけ嫌がっていたはずなのに、いきなり無防備にお腹を見せてくるセシリオ王子に、俺は思わず視線を逸らす。
だからそういうのは、メリルさん相手にやってくれ。
頭ではセシリオ王子は男であることは認識しているのだが、エリモス王妃に似た中世的な顔立ちでそれをやられると、ちょっとだけドキッ、としてしまう。
……まあ、そんな俺の個人的な感想はともかく、今は気になっていることをハッキリとさせておくべきだろう。
「そういやセシリオ、何か不測の事態が起きたんだって?」
「あっ、そうでした」
その一言で、俺を呼びに来た理由を思い出したセシリオ王子は、真剣な表情になって話を切り出す。
「どうやら我が王国に、大型の魔物が現れたようなんです」
「うおっ!?」
セシリオ王子に連れられて遺跡の最奥だという部屋へと辿り着いた俺は、そこに広がる景色を見て思わず声を漏らす。
いくつものモニターが並ぶ机と、宙に浮かぶ何処かの天体と思われる球体、そして一番奥には映画館のスクリーンかと思うほどの巨大なモニターがあるこの部屋は、間違いなくこの宇宙船のブリッジだと思われた。
「こ、これは……凄いな」
「ですよね、僕も最初に来た時は、驚きで開いた口が塞がりませんでした」
『……来ましたね』
俺とセシリオ王子が揃って感嘆の声を上げると、巨大なモニターの前で匠仁王立ちしていたライハ師匠が振り返る。
『寝ているコーイチを起こすだけなのに、随分と時間がかかったのですね』
「うっ、すみません……」
『ん? どうしてそこでコーイチが謝るのですか?』
「それは……その、本当にすみません」
これに関しては全面的に俺が悪いので、返す言葉がなかった。
とりあえずセシリオ王子は何も悪くないことをライハ師匠に説明した俺は、彼女の背後にある巨大モニターへと目を向ける。
「これは……外の様子を映した映像ですね」
『ええ、流石は自由騎士、話が早くて助かります』
ということは、セシリオ王子はさぞ驚いたことだろうな。
そんなことを思いながらセシリオ王子へと目を向けると、彼は困ったように苦笑を浮かべていた。
まあ、セシリオ王子がどんなリアクションをしたかは置いておいて……俺はライハ師匠に本題を切り出す。
「セシリオから聞きましたが、大型の魔物が現れたとか?」
『ええ、全く厄介な魔物が現れたものです』
そう言ってライハ師匠が巨大モニター近くの操作盤に指を走らせると、映像が切り替わって巨大な影が映る。
「これは……」
そうして映し出された巨大な人影の空飛ぶ一つ目の魔物に、俺は見覚えがあった。
「これは、イビルバッドですか?」
『いいえ、似ていますが違います。こいつはクリミナルバッドと呼ばれるイビルバッドの上位種です。見てみなさい』
そう言いながらライハ師匠がカメラを操作して、クリミナルバッドの近くに映る小さな同じフォルムの魔物を映す。
『こっちがイビルバッドです。見ての通りクリミナルバッドの方が倍近く大きい』
「ほ、本当だ……」
他に違いがあるとすれば、イビルバッドのフォルムは手が翼に代わっただけの人影に近い形をしているが、クリミナルバッドは顔が極めて大きく、ギョロリとした目も一際大きくて化物感が段違いだった。
そしてクリミナルバッドと四体ものイビルバッドが、もう間もなくエリモス王国に到達しようとする様は確かに非常事態といえた。
まだ直接戦ったことはないが、イビルバッドの脅威は十分過ぎるほど身に染みている俺は、不安そうにモニターを眺めているセシリオ王子に尋ねる。
「セシリオ、この国にはイビルバッドの襲撃はそれなりにあるのか?」
「い、いえ……ないです。僕としてもこんな大きな魔物、初めて見ました」
「そう……か」
どうやらエリモス王国は砂漠の中にあるということだけあり、魔物の襲撃そのものが非常に少ないという。
そして、その多くは国に辿り着く前にメリルさんをはじめとする部隊の活躍によって、国に辿り着く前に倒されているのだという。
「なら、どうして急にこれだけの魔物が……」
『おそらく、コーイチたちがここに入ったから、でしょうね』
俺の疑問に、腕を組んだままのライハ師匠が静かに答える。
『この艦が起動した時に漏れ出た力を、連中が察知して様子を探りに来たというところですね』
「えっ? ど、どうして魔物たちが?」
『単純な話です。この艦の動力となっている力は、魔物たちにとって格好の餌だからですよ』




