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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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進む復興、それぞれの選択

 混沌勢との死闘から一ヶ月が過ぎた。


 回復魔法の効果もあってロキは一週間も経たずに寝たきり状態から立ち上がり、外でのリハビリに切り替えた。


 とはいえ、回復魔法によって急激に回復させたことへの体への負担は大きく、いつ容体が急変するかわからないので、リハビリは薄氷を踏むようにゆっくりと丁寧に行われた。



「ほら、ロキ。もう少しだから頑張れ」

「ロキ、がんばって!」

「……わふっ」


 俺とミーファの励ましの声に、ロキは小さな声で「頑張る」と答えて、荒い息を吐きながら坂道をよたよたとゆっくりと歩く。


 リハビリは診療所の周りをぐるぐると歩くところからはじめ、徐々に距離を伸ばして集落内を満遍なく歩けるようになり、今日初めて集落の外まで出てみることにした。


 場所はかつてミーファがレド様と再会を約束したという丘の上、この場所が選ばれた理由は集落からそれなりに距離があるのと、なにより高低差があって足腰への調子を確かめるのに最適だからということだ。


「ロキ、がんばれ……がんばれ……」


 荒い息を吐きながら必死に坂道を上るロキに、ミーファは涙目になって必死に応援する。


 ゴールである丘の頂上が見えたところで、俺たちだけ先に進んでロキを迎えるために見守っているのだが、俺もミーファもさっきから全身に力が入りっぱなしだ。


「あっ!?」


 疲れからか体がぐらりと傾くのを見て思わず飛び出しかけるが、ラヴァンダさんが俺たちの前に割って入ってゆっくりとかぶりを振る。


 せっかくロキが頑張ろうとしているのだから、簡単には手を出しなということだ。


「……わかってますよ」


 俺は同じように飛び出そうとしているミーファを抱き上げ、二人でハラハラしながら必死に歩くロキを見守る。


 毎日マッサージを続けていたからわかるが、ロキの体はこの一か月で随分と細くなった。

 体重もかなり落ちただろうが、だからといって生きるために必要なエネルギーが減るわけではないし、体を動かさないとさらに全身が弱ってますます動けなくなってしまう。


 特にロキのような大きな体を持つ動物は、心肺機能が低下すると即命の危険に繋がってしまうらしいので、これは元の体に戻るために絶対に必要な行為なのだ。


「ロキ……」


 俺たちが見守る中、ロキは一歩一歩自分の足の調子を確かめるように、何度も休みながらも必死に四本の足を動かし続け、ようやく坂道を上り終える。


「ロキ!」

「やった! やったロキ、やったよ!」


 坂道を上り切って大きく息を吐くロキに、俺とミーファが駆け寄って全力で褒めてやる。


「……わふぅ」


 俺たちにもみくちゃにされながらロキは「疲れた」と言うと、その場に座って深呼吸を繰り返す。


「……わん」

「ああ、そうだな。お腹空いたよな」


 せっかく景色のいいところまで来たのだから、やることは一つだろう。


「あの先に行って、皆でお弁当を食べようか」


 丘の先を指差しながら弁当を掲げると、ロキとミーファの嬉しそうな声が重なった。




 今日のお弁当は、ソラが作ってくれた俺とミーファの大好物、ホットドッグに似た料理のサブラージだった。


「……ああ、おいしい」


 久しぶりに食べる甘酸っぱいマスタードソースの味と腸詰めの香ばしさに、俺は自然と笑みが零れるのを自覚する。


「これを食べると、グランドの街を思い出すな」

「うん、おじさんのサブラージ……またたべたいな」

「そうだね。帰ったら一緒に食べような」

「うん!」


 笑顔で頷いてサブラージに豪快にかぶり付くミーファの頭を撫でながら、俺は目の前に広がる景色へと目を向ける。


「それにしても……たった一ヶ月で随分復旧したよな」


 丘の上から見えるエルフの集落は、混沌なる者との戦いで村の半分の家が焼け落ちてしまったのだが、今ではそれが殆ど元通りになっているし、それどころか間借りしている獣人用のアパートまでできている。


 重機なんてなくともこれだけのスピードで建物が建てられるのは、獣人たちの膂力が凄いというのもあるが、エルフたちの木の扱いが凄まじく、木材の加工から建築まで魔法を駆使することで、たったの二日ほどで立派な一軒家を建ててしまうのだから驚きだ。


「もりがおわったら、つぎはすなのおうちだね」

「うん、そうだな」


 想定以上の速さでエルフの集落の復興は進んでいるので、カナート王国の復興もそう遠くない内に着手されるだろう。


 実はカナート王国は、森の中でなく元あった場所に再建されるという。


 フィーロ様からは森の中に移住してはどうかと打診されたそうだが、フリージア様をはじめカナート王国民は、満場一致で元の位置に再建すると言ったそうだ。


 砂漠では木材で家を造るわけにはいかないので、エルフの魔法による高速建築は期待できそうにないが、そんないばらの道でも、獣人たちは花で溢れたカナート王国を取り戻してみせると息巻いていた。


 流石にそれを見届けるまでこの地に留まるつもりはないが、いつか砂漠に花で溢れる国が蘇ったら、その時は再びこの地に戻ってきたいと思う。



 そんな遠い未来のことに思いを馳せながら、皆でのんびり昼食を食べていると、


「浩一君、ここにいたんですね」

「……泰三?」


 毎日土木作業に従事して、すっかり日焼けした泰三が駆け寄って来るのが見える。


「何だ。泰三もここに昼食を食べに来たのか?」

「それもありますが、今日は浩一君に報告があって来ました」

「報告?」


 思わず聞き返す俺に、泰三は神妙な顔で頷く。


「ええ、もう間もなくエルフの集落が元に戻ります。そしたら僕たちは一足早く帰ろうと……今日の夜にでも()とうと思います」


 それは泰三からの別れの挨拶だった。

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