空元気も元気の内
フィーロ様が立ち去ると、ここに残るのは必然的に俺とミーファ、そしてフリージア様だけになる。
「えっ……と」
フリージア様と話をして励ます。
レンリさんに言われて来たものの、一体何を話せばいいのだろう?
かけがえのない家族だけでなく、国と住む場所、そして国民の多くを失い、それでも必死に立ち上がろうとしているフリージア様に何と声をかけるべきか。
話題としてはレオン王子の最期があるが、今のフリージア様にその話をしていいものか?
それとも無難に、復興計画について当たり障りのない話をするべきだろうか?
色々と考えているのだが、結論の出ない堂々巡り状態になってしまっている。
一体どうしたものかと思っていると、くいくいと袖を引かれる。
「おにーちゃん、ごはん」
「えっ? あ、そ、そうだね……」
何はともあれ、今は空腹を満たすべきだろう。
「すみません、ちょっと考えごとしてました」
俺は謝罪の言葉を口にしながら、手早く食事の準備をする。
といっても、パイを皿代わりの大きな葉に乗せるだけなので、一つをミーファに、もう一つをフリージア様に差し出す。
「どうぞ、フリージア様」
「ありがとうございます」
礼を言って恭しく頭を下げたフリージア様は、両手でパイを掴んで小さく口を開けて上品に頬張る。
「……おいしい」
「むふ~、ほひひい」
「それはよかったです。後、ミーファは口にものを入れたまま喋るのは止めような」
早くも口の周りにパイの破片を付けているミーファの口を拭いてやった後、自分の分のパイを手に取って噛り付く。
サクッ、と小気味のいい音と共に、口の中に炒ったクルミをはじめとする木の実の香ばしい味と香りが広がる。
形が崩れないように分厚くなっているパイと、それに負けないくらいたっぷり入った木の実のパイは、一口だけでもボリューム感は凄く、少量でも腹を満たすには十分だと思えた。
「えへへ、おいしかった」
一口をのんびり堪能していると、最初の一つをあっという間に食べ終えたミーファが二つ目へと手を伸ばす。
「いただきま~す。あむ……う~ん、おいしい!」
小さな体の何処にそれだけのパイが入るのかと思うが、幸せそうに笑って食べるミーファの様子は、それだけで元気がもらえるような気がする。
「フフフ……本当、ミーファちゃんは元気ですね」
俺と同じ感想を抱いたのか、フリージア様が口元を隠しながらクスクスと上品に笑う。
「このパイ……お兄様も大好きで、今のミーファちゃんと同じような顔をして食べていました」
「レオンも?」
「はい、大好きでした……とっても」
そう言ってフリージア様は一口だけ齧ったパイをそっと置くと、こちらを真っ直ぐ見て来る。
「コーイチ様、お兄様について知っていることをお聞かせ願えますか?」
「……いいんですか?」
「はい、わたくしはお兄様について何も知らないのです。どうしてわたくしたちと敵対することになったのかも、何を考え、どうして大好きだったクラーラ様を裏切り、あのような結末を迎えたのかも……」
「そうですね……」
レオン王子は、自分を犠牲にすることで、カナート王国の暗部をフリージア様に見せないよう徹底してきた。
だから本当なら彼の遺志を尊重して、その秘密は墓まで持っていくという手もある。
だけど、カナート王国の暗部を知る人間は軒並みいなくなった今、同じ過ちを繰り返さないためにも、国家元首であるフリージア様には知らせた方がいいという側面もある。
レオン……俺は……、
俺は心の中で親友に自分のすることを告げると、顔を上げてフリージア様を見る。
「わかりました。少し長い話になりますが、いいですか?」
「はい、お願いします」
覚悟を決めたように頷くフリージア様に、俺も応えることにする。
「では、レオンが変わるきっかけになったことについてから話しますね」
そう前置きして、俺はレオン王子について知っていることをフリージア様に話していった。
途中でお茶を淹れて来てくれたフィーロ様を加え、俺は自分が知る限りのレオン王子の情報、そしてカナート王国が裏で抱えていた暗部について二人に話した。
「……というわけです。最後にレオンは俺たちを助けてくれました」
「お兄様が……」
「ええ、俺とソラがここにいるのは全てレオンのお陰なんです。本当に、いくら感謝してもし足りないぐらいです」
「そう……ですか」
レオン王子の最期を聞いたフリージア様は、小さな声で返事してそっと顔を伏せる。
「…………」
てっきり泣き出してしまうのかと思ったフリージア様は、取り乱すこともなく、ジッと一点を見つめたまま何かを考えるように黙り込む。
「…………フリージア」
「フィーロ、私は大丈夫です」
心配するように寄り添ってきたフィーロ様に、フリージア様は問題ないと笑って見せた後、こちらに顔を向けて深々と頭を下げる。
「コーイチ様、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございます」
「少しはお役に立てたでしょうか?」
「はい、同時に私がいかに世間知らずだったかを思い知りました」
そう言ってフリージア様は、昼食を取るために集まって来た獣人たちを見やる。
「わたくしが王となったからには、もう二度と同じ悲劇は繰り返させないと……混沌の甘言に惑わされない国づくりをしていくと誓います」
「そうしてください。それをきっとレオンも望んでいるはずですから」
「はい、頑張ります!」
大きく頷いたフリージア様は、食べかけのパイを手に取って大口を開けて一気の頬張る。
「わあ、おねーちゃん。すごい!」
「フリージア……」
驚くミーファたちを尻目に豪快にパイを食べきったフリージア様は、続けて二つ目のパイへと手を伸ばす。
「もっともっと頑張るためにも、いっぱい栄養を付けていかないと……」
「フリージア様……」
本当は「そこまで頑張らなくていいよ」と声をかけたい衝動に駆られるが、今はそれが生きるための原動力になるのなら、無理して止める必要はないだろう。
「……コーイチ」
「はい、わかってます」
きっと同じことを考えているフィーロ様の視線に、頷いて応える。
頑張るフリージア様を応援しながらも、彼女が倒れてしまわないように共に支え合おう、と。
その後もモリモリとパイを食べていくフリージア様を見て、俺たちも腹を満たすために残りのパイへ手を伸ばしていった。




