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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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新しい朝、まだ戻らない日常

 激闘を終えた翌日、物語なら平和になった世界を見て回っていざエンディングへ……なんてことになるのかもしれないが、残念ながら現実はそう甘くはない。


「きゅ~ん……」

「よしよし、痛かったな」


 回復魔法による治療を終え、弱気な声で「痛いよ」と泣きついてくるロキの体を、俺は濡らした布で丁寧に拭いてやる。


「ロキがこんなに汗をかくなんて……そんなに痛いんだ」

「それはそうだ。折れた骨が内臓に刺さっていたんだ。人間ならとうに死んでいる大怪我だ」


 回復魔法をかけてくれた精霊たちを労いながら、ラヴァンダさんがロキを見て微笑む。


「これだけの怪我を負って尚、コーイチのために体を張って戦ったんだ。こんなロキに想われて、コーイチは果報者だな」

「ええ、本当に……だからロキが回復するまでは、俺が全力で面倒を見ますよ」

「ミーファもだよ!」


 俺の声に、ロキの背中から小さな影が飛び出して、ぴょんぴょんと跳ねながら手を上げる。


「ミーファも、ミーファもロキのおせわするの!」

「うん、ミーファも頑張ってて偉いぞ」

「えへへ~」


 褒められたミーファは嬉しそうにはにかむと、一生懸命にロキの汗を拭くのを手伝ってくれる。


「ロキ、がんばってはやくよくなってね」

「……わふっ」


 ミーファからの激励に、ロキも「頑張る」と精一杯の返事をして眠るために伏せる。


 今のロキは、先程ラヴァンダさんが言った通り、内蔵を酷く損傷してしまったのと、足の骨折でまともに動くことができない。


 食事も摂ることができないが、そこはエルフの魔法という常識を覆すとっておきの方法がある。

 詳しくは聞いてもわからなかったが、回復魔法をかける時に、ロキの体が衰弱しないように、体を動かすための力を点滴のように与えてくれているそうだ。


「わんわん」

「ああ、そうだね。喉乾いたよね」


 ロキから「喉乾いた」というリクエストに、俺は水の入った桶を差し出してやる。


「急がなくていいからな。ゆっくり、少しずつ飲むんだよ」

「わふっ」


 ロキは「わかった」と言うと、舌を伸ばしてピチャピチャと水を舐めていく。


 栄養補給の心配はなくても喉は乾くみたいで、定期的に内臓に負担を賭けない程度に水を与えなければならない。


 他にも、筋肉が硬くならないようにマッサージをしたり、寝る姿勢を変えてやったり、トイレの補助もしたりと、やらなければならないことは無限にあるのだが、それぐらいの世話なら喜んでやらせてもらうつもりだ


「わふ」


 水を飲んで満足したのか、ロキがうとうとし出したので、俺は彼女の顔を優しく撫でながら話しかける。


「眠るまでこうしているから、安心して寝ていいからな」

「……わん」


 ロキは「ありがとう」と小さな声で鳴くと、俺の手に身を委ねるように体重を乗せて来る。


 ロキの頭を落とさないように支えながらゆっくりと撫で続けると、やがて巨大狼から穏やかな寝息が聞こえて来る。


「……寝た?」

「うむ、ご苦労だったな」


 ロキを触って状態を確認したラヴァンダさんが、小さく頷く。


「次に目覚めたら使いの精霊を送るから、それまでは自由にしてていいぞ」

「はい、ありがとうございます」


 ロキが起きないようにそっと身を離した俺は、心配そうに巨大狼の背中を撫でているミーファに話しかける。


「ミーファ、ロキが眠るのを邪魔しちゃ悪いから行くよ」

「……うん」


 小さく頷いたミーファは、とてとてと歩いて俺が差し出した手を取る。


「それじゃあ、ラヴァンダさん」

「ああ、コーイチもしっかり飯を食べて休めよ。お前が倒れたら、ロキが心配して治りが悪くなるからな」

「わかってます。今のうちにちゃんと休んでおきます」

「頼むよ。コーイチとミーファ、お前たちの存在がロキの回復に何より大事だからな」

「はい、ありがとうございます」


 他の怪我人の治療へ向かうラヴァンダさんにお礼をして、俺はミーファと一緒に診療所を後にした。



 診療所を出た俺たちは、その足で集落の真ん中にある広場へと向かう。


「皆さん。食事の準備ができましたよ!」

「量は十分あるから、焦らずゆっくり並んでください!」


 すると、タイミングよく昼食の準備ができたようで。広場からネイさんとレンリさんの声が聞こえて来る。


 現在、エルフの集落にはカナート王国の獣人たちが避難してきているので、食事は決まった時間に全員でとった方が効率がいいということで、料理が得意な人を中心に炊き出しを行っている。


 俺たちの中で料理が得意なのはソラとネイさん、そして意外なことにレンリさんの腕もかなりということで、彼女たちが率先して炊き出しに参加していた。


「おにーちゃん」


 食事という単語を聞いた途端、尻尾がわさわさと忙しなく動き出したミーファが、期待に満ちた目で俺の服を引っ張る。


「ごはんだって。はやくいかないと、いっぱいになっちゃうよ」


 既にエルフの集落の復旧に向けた工事が始まっており、早くいかないと作業員が大挙して押し寄せて長蛇の列になる。

 次にロキが起きるまでに診療所に戻らなければならないので、確かに急いだほうがよさそうだ。


「そうだね。それじゃあ、急いでご飯をもらいに行こう」

「うん!」


 元気に頷いたミーファに引かれながら、俺たちは食事をもらいに行くために広場へと急いだ。

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