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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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強くなるもん

 暫くの間、声の限り泣き続けたミーファであったが、やがて体力の限界が来たのか声量は徐々に小さくなり、最後は心配そうに寄り添ってきた黒猫に抱き着き、首に縋り付く。


「うぅ……クロクロ……」


 そう言えば、あの黒猫、クロクロという名前だったと思い出していると、


「ガウゥ」


 黒猫は低い声で「泣かないで」とミーファを慰め、彼女の頬をペロペロと舐める。


「……ガウ」

「わかってるよ」


 困った様子のクロクロから「助けて」と助けを求められた俺は、ゆっくりとミーファに近付いて小さく震えている背中に話しかける。


「ミーファ、俺の話を聞いてくれないか?」

「…………」


 だが、俺の声に応えることなくミーファはクロクロの毛皮に顔を埋めたまま首をふるふると横に振る。


 このまま根気よく待ち続けてもいいのだが、俺もシドも本当に限界だし、困った様子のクロクロのためにも、俺はミーファの意思を無視してさらに話しかける。


「レド様はミーファのことが本当に大好きなんだよ」

「…………」

「ミーファだけじゃない。シドもソラも大好きで、皆に会いたくて……その手で抱き締めてあげたいのにできなくてごめんね、って泣いていたんだ」

「……ママが?」


 おっ、ミーファがようやくこっち向いてくれた。

 赤く鳴き腫らした目でこちらを見るミーファに、俺は微笑を浮かべて手を伸ばす。


「おいで、レド様からミーファへの話を聞かせてあげるよ」

「…………うん」


 おずおずと頷いたミーファは、クロクロから身を離して俺の手に収まる。


「よっと……」


 ミーファを抱き上げた俺は、ふわふわの彼女の頭を撫でながらレド様からの伝言を伝える。


「私の可愛いミーファ、あなたは動物とお話ができるとっても優しい子。だからその優しさで、動物たちを……皆をたくさん愛してあげてってさ」

「みんなを?」

「うん、皆ミーファが大好きだから、ミーファも皆に優しくしてねってことだよ」


 ミーファの涙の跡が残る目元を拭ってやると、


「ぷぷぅ」

「ガウガウ」


 うどんとクロクロが自分たちも「大好きだよ」というのを伝えるように、彼女にスリスリと頬擦りする。


「ミーファ、レド様に会えなくて辛いだろうけど、俺たちがいるから、これからもずっと一緒にいるから泣かないでおくれ」

「ぷぅ」

「ガウ」


 俺たちが揃ってミーファに一緒にいる旨を伝えると、


「……うん」


 彼女は小さく頷いてくれる。


「おにーちゃん、うどん、クロクロ、みんなずっといっしょにいてね」

「ああ、勿論だ」


 力強く頷いてみせると、ミーファは俺の胸に飛び込んできてスリスリと頬擦りしてくる。


 ……ここまで来たら、もう話してもいいだろう。


 俺はシドに頷くと、ミーファの背を優しく撫でながらこれからの話をする。


「ミーファ、実はね。レド様にもう会えないわけじゃないんだよ」

「ママに会えるの!?」

「簡単ではないけどね」


 嬉しそうに顔を上げるミーファに、俺はあまり期待を持たせないように静かに話す。


「ミーファにレド様と会わせてあげられるまでどれくらい時間がかかるかわからないんだ。何年……ひょっとしたら十年以上かかるかもしれない」


 レド様を助けるということは、混沌なる者を完全に倒す必要があるからだ。


「だけど、絶対に諦めることはしない。どれだけ時間がかかっても必ず約束を果たしてみせるから、俺のことを信じてくれないか?」

「……わかった」


 ミーファはコクリと頷くと、


「じゃあ、ミーファもおにーちゃんたちのおてつだいする」


 思わぬことを言ってくる。


「ミーファ、もっともっとつよくなって、おにーちゃんたちといっしょにママさがす」

「で、でもだな……」


 ミーファの気持ちは嬉しいが、強くなるという言葉には素直には頷けない。


 できることなら、ミーファには危ない橋は渡ってもらいたくないのだが、


「わかった。ならミーファにもコーイチと同じようにたくさん努力してもらうからな」


 黙って話を聞いていたシドから、思わぬ提案が入る。


「言っておくが、強くなるのは簡単じゃないぞ。たくさん痛い目に遭うし、泣いても助けてやれないが、それでもいいのか?」

「うん!」


 シドの脅しにも屈することなく、ミーファは目に光を宿して姉のことを真っ直ぐ見つめる。


「ミーファ、やるもん。ママとあうために、がんばるもん」

「そうか」


 シドは諦めたように嘆息すると、俺の目を見て薄く笑う。


「というわけだ。帰ったらミーファのことも本気で鍛えるぞ」

「本気?」

「本気も何も、これからの度にミーファを連れていくのなら当然だろう。母様を探すのに年単位の時間がかかるなら当然だ」

「そうか……」


 これからも一緒に旅をするなら、ミーファにも自分を守る術を身に着けてもらった方がいいだろう。


 流石に今日明日から特訓を始めることはなさそうだが、ミーファのためにも俺ももっともっと強くなる必要がありそうだ。


 俺は覚悟を決めると、鼻息を荒くしているミーファに話しかける。


「それじゃあミーファ、俺も頑張るから一緒に強くなろうな」

「うん!」


 嬉しそうに頷くミーファを見ながら、俺は密かにある懸念を抱いていた。


 もし、ミーファが本気で特訓して、俺よりあっさり強くなったらどうしよう、と。


 なんて情けないことを考えながら、何としても大人の威厳を守るためにこれからも頑張ろうと思う俺であった。

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