やっぱり辛い回復魔法
シドに支えられながら進み、今日の朝に決起集会を行った集落の広場へと向かう。
その途中、
「おや、コーイチじゃないか」
「ラヴァンダさん?」
集落でも非常に珍しい眼鏡をかけたエルフ、ラヴァンダさんと出会う。
「ようやくお目覚めか。もしあのまま起きなかったら回復魔法を施すところだったぞ」
「そ、それはどうも……」
さらりと恐ろしいことを言うラヴァンダさんに苦笑しながら、俺は気になったことを話す。
「あの、ラヴァンダさんは宴会に参加しないのですか?」
シド曰く、明日からは大変な復興の日々が待っているので、今日だけは全てを忘れて全員参加で飲めや歌えの大宴会をしていると聞いていた。
だが、ラヴァンダさんは、かつて俺が回復魔法を受けた家から出て来たように見える。
それはつまり、
「もしかして、今の今まで治療をしていたのですか?」
「ん? まあ、な。急遽治療を施す必要のある子ができたからね」
「急遽……ですか?」
「ああ、コーイチもよく知ってる子だよ」
「えっ……」
俺がよく知っている子……そう聞かされたら気が気でなくなってくる。
「フフッ、本当にコーイチは顔によく出るな」
呆れたように笑ったラヴァンダさんは「見ていくかい?」と顎で示すので、
「お願いします」
俺はすぐさま頷いて、まだ苦い思い出が残るラヴァンダさんの職場である集落の診療所へと向かった。
診療所内は入口付近に小さなランタンの光が一つあるだけで、中の様子は薄暗くてよく見えなかった。
いくつかある病室の前で立ち止まったラヴァンダさんが、無言で室内を示すので、俺は恐縮しながら室内へと足を踏み入れる。
「……お邪魔します」
果たして怪我人がいる部屋に入るのにその言葉でいいのかどうか不明だが、今はそんなことを気にするより、誰が怪我したのか気になるので真っ暗な室内に恐る恐る声をかける。
「あ、あの……大丈夫?」
「く~ん」
「その声、ロキか?」
室内から弱弱しい「痛いよ」という声を聞いた俺は、シドにお願いしてロキの近くまで連れて行ってもらう。
すると部屋の奥、ベッド代わりに山と積まれた干し草の上で、ロキが辛そうに突っ伏していた。
急遽治療が必要になった俺がよく知る子とは、ロキのことだったようだ。
狭間の世界では普通に喋っていたロキだったが、もうあの時のようにボクっ子口調で話すことはできないようだ。
俺はロキの顔の前で膝を付くと、辛そうに「痛い」と鳴くロキの頭を抱えて優しく撫でながらラヴァンダさんに尋ねる。
「ラヴァンダさん、ロキの症状はどうなんですか?」
「正直に言うと、中々に深刻だな」
入口で壁に寄り掛かったラヴァンダさんが、静かな声で話す。
「主な怪我は前脚と肋骨の骨折だが、折れた肋骨が内部をあちこち痛めていて、下手したら死んでいたぞ」
「だ、大丈夫なんですよね?」
「幸運なことにな。だが、リハビリも含めると回復には数か月はかかるだろうな」
「そう……ですか」
狭間の世界でロキはかなり弱気になっていたが、やはりそれだけの怪我だったというわけだ。
これも全て、俺とソラをロキが体を張って守ってくれたからだ。
だから今度は、俺がロキに受けた恩を返す番だ。
「ロキ、君が回復するまで俺が徹底的にサポートするからな」
「く~ん、く~ん……」
まだ痛むのか、ロキは弱気な声で「痛いの」と言ってくるので、俺は慰めるように優しく頭を撫でる。
「よしよし、かわいそうに……しかも一人で寂しかったよな」
「……一応、言っておくが治療の間、ずっとソラが付いてくれていたよ」
ロキを慰める俺に、ラヴァンダさんがフォローを入れる。
「ただ、ソラはロキの言葉がわからないし、召喚した人間を戻す作業があったからな。治療に目処がついたところで私が出ていくように言ったんだ」
「そう……だったんですね」
きっとソラのことだからロキのことが心配で仕方なかっただろうが、自分の最後の務めを果たすために断腸の思いで出ていったのだろう。
「じゃあ、ミーファは?」
「ミーファなら戦いが終わってからあの黒猫に乗ってどっかに行ったきりだ」
俺の質問に、シドが苛立ちを露にするように頭をガシガシと掻く。
「全く……夜までには戻るように言ったのに、こりゃあ、後でお仕置きだな」
「……お手柔らかにね」
せっかくめでたいのに、ミーファの泣き叫ぶ姿なんかみたくないしね。
ミーファの行方も気になるが、今はとにかくロキに休んでもらおうと思った俺は、ロキの頭を撫でながら優しく話しかける。
「回復には寝るのが一番だよ。寝るまでこうしててあげるから今日はゆっくり休んで」
「……わふっ」
ロキは「わかった」と小さく頷くと、俺に体重を預けて来る。
頭だけでもロキの重さはかなりのもので、ずっしりとした重さが疲労困憊の体にはかなり辛い。
「コーイチ、大丈夫か?」
すると、俺の体を心配したシドが背中を支えてくれる。
「お前も相当疲れているだろう? だから、あたしが変わろうか?」
「いや、いいよ」
俺はかぶりを振ってシドの提案を拒否すると、ロキの頭を優しく撫で続ける。
確かにシドの言う通り、今の体でロキの頭を支えるのは大変だ。
だけど、今回のロキの頑張りと、献身を思えば、こんなぐらいでは受けた恩の十分の一も返せていない。
だから、
「俺にやらせてくれ。俺が……やりたいんだ」
「そうか……」
シドは小さく嘆息して俺の背中に自分の背中をピタリと寄せる。
「だったらロキが眠るまで、あたしがコーイチを支えてやるよ。これぐらいなら、問題ないだろ?」
「うん、ありがとう」
俺はシドの優しさに感謝しながら、ロキが少しでも早く良くなるようにと願いながら優しく頭を撫で続ける。
程なくして、ロキの安らかな寝息が聞こえて来て、ラヴァンダさんから「もう大丈夫」と太鼓判を押してもらった俺は、
「ロキ、本当にありがとう。これからも、よろしくな」
心からの謝意を伝えて頬擦りをすると、今度こそ広場に向かうために病室を後にした。




