「ごめん」じゃなくて「ありがとう」
「レ、レオン……」
死んでいるとは思えない快活な笑みを浮かべるレオン王子に、俺は震える手を伸ばして正面から抱き締める。
「…………ごめん」
「おいおい、何謝ってんだよ。そこは、ありがとうだろ?」
抱き着く俺を引き剥がしたレオン王子は、呆れたように嘆息する。
「全く、戦う時は頼りになるのに、それ以外の時は相変わらずだらしないな」
「ご、ごべん……」
「あ~あ、顔が涙と鼻水でグッチャグチャじゃねぇか」
レオン王子は手を伸ばして俺の目と鼻を拭うと、地面に伏せているロキの体に押し付ける。
「ほれ、嬢ちゃんと一緒にワンころの背中に乗ってろ。後は俺がまとめて送ってやるから」
「ガルルル……ボクはワンころなんかじゃない!」
「ハハハ、俺にとっておきの出番を盗られたからって怒るなよ」
レオン王子は不貞腐れるロキの頭をそっと撫でると、ニヤリと白い歯を見せて笑う。
「ロキ、だっけか? お前は俺の代わりに生きて、コーイチたちを守ってやれ」
「フン、言われなくても。これからもずっと大好きな皆と一緒に生きてやるんだ」
「おう、頑張れよ」
ロキの生きる宣言を聞いたレオン王子は、微笑を浮かべてロキの顎下を撫でる。
「ただ、ここから帰ったら待ってるのは地獄のような痛みと戦う日々だからな。精々、コーイチたちに慰めてもらえよ」
「……へ、へっちゃらだよ。皆といられるなら、それぐらい耐えて見せるよ」
「そうか、頑張れよ」
ロキの頭をポンポン、と叩いたレオン王子は、ゆっくりと立ち上がって背後を振り返る。
「さて、そろそろ本気でヤバくなってきたな」
その声にレオン王子の見る先に視線を送ると、いつの間にか白の世界の床が端からボロボロと崩れていくのが見える。
「レオン……」
「おっと、湿っぽいのはなしだぜ。最後ぐらいは笑って別れようぜ」
こっちを向いたレオン王子は、腰に手を当てて仁王立ちする。
「コーイチ、お前と出会えて……お前に救ってもらえて本当に助かった。ありがとうな」
「こっちこそ、レオンは俺にとってかけがえのない……最高の親友だよ」
「第一印象は最悪だったけどな」
「お互いにね」
そう言って俺たちは顔を見合わせて笑い合う。
最初の出会いを思い返せば、レオン王子とこんなに心を通わせる時が来るなんて思わなかったが、俺たちの関係は間違いなく親友だ。
俺は涙を拭いて大きく深呼吸を一つすると、レオン王子に向かってどうにか笑って見せる。
「レオン……最後の最後まで、本当にありがとう」
「おう、いいってことよ……どれ」
レオン王子は、ロキの体の下に手を入れると、そのまま一気に持ち上げる。
「わふっ!?」
「おい、動くなって。すぐ済ませるからよ」
持ち上げられたロキが不安そうに背を丸めるが、その上に乗っている俺とソラは落ちないようにしがみつくことしかできない。
「な、なあ、レオン……別れの挨拶をした後で水を差すようで悪いけど、俺たちを元の世界に戻す方法を知っているのか?」
「何言ってんだ。当然だろ」
「そ、そうか……」
ならこれ以上は余計なことを言うのは野暮だと思い、俺はロキの背中の上でその時が来るのを待つ。
「それ、行けえええええええええええええぇぇぇ!」
レオン王子が叫び声を上げながらロキの体を思いきり上に投げると、一瞬の浮遊感の後、俺たちの体が天に吸い込まれていく。
「これで……帰れるのか?」
「はい、後はこのまま身を任せていれば帰れるはずです」
「そうか……」
ソラの言葉に安堵しながら下を見ると、僅かに残っている足場でこちらを見ているレオン王子と目が合う。
これが本当に最後の別れと思うと色々と込み上げてくるものがあるが、最後は笑って終わると決めたのだ。
俺はロキの背から身を乗り出すと、レオン王子に向かって大きく手を振る。
「レオン、ありがとう。お前のこと、絶対に忘れないからな!」
「レオン様、本当に……本当にありがとうございました」
ソラも続いてレオン王子に向かって手を振ると、彼は俺たちに背を向け、右手を高々と突き上げる。
その姿を見て、レオン王子のことを白状だなんて思わない。
レオン王子以外の全員が生きて元の世界に戻るのに、彼一人だけが取り残されるのだ。
泣くな……なんて言えるはずもないし、その行為を止められるはずもない。
だからせめて、最後に俺からレオン王子に思いの丈をぶつける。
「レオン! 例えここで別れても……俺たち……俺たちは一生、親友だからなあああああああああぁぁぁ……」
叫んでいる途中で、俺の視界が完全に白一色に塗り替えられ何も見えなくなる。
だからこの声が届いたかどうかはわからない。
だけど……だけど、レオン王子なら最後に笑って、自分も同じ気持ちだと言ってくれたに違いない。
そう思いながら、俺は再び溢れてくる涙を拭い続ける。
何度も……何度も……、




