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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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崩れ行く世界からの脱出を

 黒いシミへとナイフを突き立て、肘まで埋まったところで何かを突き刺す手応えが返って来る。


「――ッ!?」


 寄生した虫が倒れたからか、虫人はビクリと体を大きく震わせたかと思うと、そのまま仰向けに倒れていく。


「……コーイチさん」

「ああ、終わったよ」


 不安そうに問いかけて来るソラに、俺は確信をもって頷く。


「中の虫を潰した。奴が起き上がることはないよ」


 その証拠に、倒れた虫人の体が、足先からボロボロと崩壊し始めている。

 足が崩壊すると腕が、胴と続けて崩れていき、最後に一際不気味な頭がボロボロと崩れ落ちて後には何も残らない。


 精霊の力を借りて地面にゆっくりと着地した俺は、茜色の空の下、煌々と輝く世界樹を見て大きく嘆息する。


「終わったんだ……本当に」

「そう……なんですね」


 長い……長い戦いの果てにようやく混沌なる者、その分体を倒すことができた。

 だが、俺もソラもこの勝利に対して手放しで喜ぶようなことはない。


 確かに世界の滅亡の危機から救うことができたのは喜ばしいが、それ以上に失ったものが大き過ぎたのだ。

 もう誰も失いたくない。そんな決意を胸にカナート王国にやって来たが、新たにできた親友を失っただけでなく、ロキまで失うことになってしまった。


 これから元の世界に戻るが、果たしてミーファたちになんて説明したらいいのだろうか?


「……ん?」


 そこで俺はあることに気付いてソラに尋ねる。


「なあ、ソラ。俺たちはどうやって元の世界に戻るんだ?」

「それは……」


 俺の質問に、ソラは気まずそうに顔を逸らす。


「……えっ?」


 何だか不穏なリアクションを取るソラを見て、俺は嫌な予感がむくむくと膨れ上がって来るのを自覚する。


「も、もしかして、元の世界に戻る方法がないとか?」

「いえ、そんなことないです。ちゃんと戻る方法はあります……ただ」

「ただ?」


 ソラは顔を伏せると、小さな声で隠していたことを吐露する。


「この世界の崩壊が進み過ぎました。こうなると脱出する人のために、誰かがこの世界に残って支える必要があるんです」

「……はぁ!?」


 思ってもみなかった答えに、俺は思わずソラに問い詰める。


「な、何だよそれ。それってつまり、最初から誰かが犠牲にならないと帰れなかったってことなのか!?」

「そんなことないです。ただ、わたしたちがこの世界に長居し過ぎたんです。本当は崩壊がここまで進む前に脱出する予定だったのです……」


 ソラ曰く、この世界は混沌なる者の分体が作った元々不安定な世界で、例えるなら非常に壊れやすい足場の上に立っている状態だという。

 崩壊は俺たちがこの世界に来る前から始まっていたが、戦闘が長引き過ぎた所為で、いつ足元が崩れ落ちて虚無の世界に放り出されるかわからないという。


「つまり帰れるのは俺かソラ、どちらか一人ということか?」

「…………はい」


 ソラは静かに頷くと、俺の両手を取って微笑を浮かべる。


「コーイチさん、姉さんとミーファによろしく伝えてください」

「な、何言ってんだ。そんなの認められるわけないだろう!」

「そうだよ。そんなのダメだよ」

「「…………えっ?」」


 俺たちの会話に急に割って入ってくる声に、俺たちは揃って声の方に目を向ける。


「残るならボクが残るよ」

「えっ、ロ、ロキ?」


 間違いない。そこには半透明の姿ではない、黒いモフモフの毛並みの巨大狼がしれっと佇んでいた。


「ロキ、生きていたのか!?」


 まさかの再開に、俺はロキの首筋に抱き着いて頬擦りをする。


「よかった。もう会えないかと思ったよ」

「ボクも…………でも、体の方はもう限界なんだ」

「えっ?」


 そう言われてロキの体を見てみると、体のあちこちにヒビが入り、特に前脚が今にも砕けそうになっているのに気付く。


「ロキ、その体は……」

「大分無茶したからね。こうして生きているだけでも不思議だけど、おそらく女神さまがホクにコーイチたちを助けるように奇跡を起こしてくれたんだよ」


 そう言ってロキは俺とソラの頬をペロリと舐める。


「だからここはボクに任せて、コーイチとソラは逃げるんだ」

「で、でも……」


 せっかくこうして奇跡の再開を果たしたのに、またすぐお別れに……しかも今生の別れになってしまうなんて絶対に嫌だ。


「せっかく助かったんだ。だったら何とか全員揃って帰還する方法を……」


 頭では無駄だとわかっていても、どうしても納得はできない。


「もう……ロキと離れ離れになりたくないんだ」


 ロキの首に縋り付き、子供のように駄々をこねていると、


「フッ、困っているようだな。親友」

「――っ!?」


 またしても背後からあり得ない声が聞こえ、俺は顔を上げて振り返る。


「…………レオン」

「よっ、何だか再開の度に酷い顔で泣いているな」


 俺の泣き顔を見て、レオン王子は破顔して噴き出す。

 確かに今の俺の顔は相当酷い顔になっているという自覚はあるが、それでもレオン王子に言われる筋合いはない。


「誰の所為でこんな顔になっていると思うんだよ!」

「ハハハ、悪い悪い。俺もまさかあの状態から復活するとは思わなかったよ」


 レオン王子はカラカラと笑いながら、自分の身に起きたことを話す。


「いやな、膝から上を吹き飛ばされた時にさ、うわぁ、膝から上が吹き飛んだよ。って思ったんだよ」

「な、何言ってんだ?」

「まあ、聞けよ。膝から上が吹き飛んだって自覚があるってことは、まだ死んでないんじゃないかって思ったんだよ……死んでるんだけどな」


 そう言ってレオン王子は「ガハハハッ!」と豪快に笑うが、俺たちは呆れるしかない。

 死人が語る死人ジョークが、こんなにも寒いとは思わなかった。


 そんな俺たちの気持ちをどう思ったかはわからないが、レオン王子はひとしきり笑った後に復活した理由を話す。


「まあ、そんなわけで意識があるなら体も戻せるんじゃないかと思って、いろいろ試していたらいつの間にか復活していたわけよ」

「そうか……」


 確かにその理屈でいけば、復活できたとしても何ら不思議ではないが、今はそれどころじゃないのだ。


「何だよ。コーイチ、察しが悪いな」


 早く結論を出さないと、と頭を抱える俺にレオン王子が呆れたように笑いかけて来る。


「元の世界に返るのに犠牲が必要なんだろ? だったらここにいるじゃないか」

「何をって……あっ!」

「ようやく気付いたか」


 俺の視線を受けて、レオン王子は自分を指差してニヤリと笑う。


「いるだろ? ここに全てを解決するとっておきの死体が」

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