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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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雌雄を決する一撃

「あれは……」


 レオン王子が手にしたキラリと光るものを見て、俺は彼が何をするのかを一瞬で理解する。


「そうか、それなら……」

「コーイチさん?」

「ソラ、お願いがある」


 俺はソラに向き直ると、彼女の肩を掴んで必死に懇願する。


「レオンが合図を出したら、俺を虫人のもとへと連れて行ってくれ」

「えっ? コーイチさんを?」

「俺はもうまともに動けない。でも、ソラには巨人に寄生した虫が何処にいるのかわからないだろ? だから奴に止めを刺すために、俺をあそこまで運んで欲しいんだ」

「わかりました」


 ソラは間髪入れずに頷くと、俺にピタリと寄り添って支えてくれる。

 同時に、ソラの手足にこれまでより大きく、強い光を放つ緑色に光る玉が現れる。


「何か策があるなら、私も持てる力の全てをもって対応します」

「……頼む」


 俺はソラに体を預けながら、レオン王子に向かって叫ぶ。


「レオン、任せる!」

「応よ! 任された!」


 レオン王子は手の中にあるものを確かめるように握り込むと、駆ける速度を上げて虫人を追いかける。


「コーイチさん……」


 走るレオン王子を見ていると、ソラが静かな声で話しかけて来る。


「レオン様の様子を見る限り、かなり自信があるみたいですけど、そんなに凄い策があるのですか?」

「うん、そうだね。おそらく今の俺たちが勝てる唯一の方法だと思う」


 実はレオン王子がこれからすることは、作戦会議の時に思い付いたものの、気が乗らなくて提案しなかったものだ。

 だが、俺の考えていることがすぐ顔に出る悪癖でレオン王子に見透かされ、別れる前に密かに話したのだ。


 結果としてその作戦に全ての命運を託すことになったのだが……、


「レオン……」


 俺は声にならない声で、レオン王子に向かって「すまない」と謝罪の言葉を送った。



 獣化した姿を存分に活かして物凄い速度で駆けるレオン王子は、虫人に追いつき、そのまま追い抜いて振り返る。


「おい、クソッたれ共! よくも俺の人生をメチャクチャにしてくれたな!」


 犬歯を剥き出しにし、挑発するように拳を振り上げたレオン王子が虫人に向かって叫ぶ。


「このままお前らの好きになんか絶対させないからな!」


 そう言って跳躍したレオン王子は、虫人の右足に取り付く。


「気持ち悪い身体になりやがって、カナート王国の王族としての誇りはないのか!」


 爪を立て、重力に引かれるままに落下すると、虫人の右足から勢いよく血が噴き出す。

 虫人の返り血を浴びながら着地したレオン王子は、ニヤリと笑って指を天に向かって突き立てる。


「お前らの野望もここまでだ! これより先に進みたければ、俺様を倒してから行きやがれ!」


 安い挑発……普通に考えたら無視されておしまいだろう。


 だが、


「……動いた!?」


 何か気に障ることでもあったのか、それともレオン王子の挑発が効果的だったのか、虫人は背中の翅を震わせて彼の前へと地響きを上げて着地する。


「ハッ、上等!」


 自分の何倍もの大きさの敵を前にしても、レオン王子は臆することなく威嚇するように手招きする。


「さあ、来いよ。引導を渡してやるぜ!」


 そう言って自信を鼓舞するように拳を打ち鳴らすと、虫人はそれに応えるように四本の腕を組んで頭上へと掲げる。



「来たっ!?」


 レオン王子の合図を確認した俺は、ソラに寄り添いながら叫ぶ。


「ソラ!」

「はい! 皆、行くよ!」


 ソラが声をかけると、精霊たちは応えるように一際大きく光って地面を滑るように移動し出す。


「うおっ!?」


 思った以上の速度での移動に、俺は堪らずソラにギュッとしがみつく。


「ご、ごめん……」

「いえ、気にせずもっとくっついて下さい。地面に足が着いたら危険ですから」

「わ、わかった」


 確かに、足が地面に付いただけで大怪我を負ってしまいそうなので、俺は遠慮せずにソラに思いきりしがみつく。

 普段ならドキリとしてしまいそうなシチュエーションではあるが、俺は真っ直ぐ前だけを見据える。


 親友の最後の勇姿を、絶対に見過ごすわけにはいかないからだ。


 視線の先では、体を限界まで反らして力を溜めた虫人が、足元のレオン王子へと拳を振り下ろすのが見える。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!」


 自身に迫る圧倒的な死を前に、レオン王子は叫びながら両腕を掲げ、最後の切り札となる一言を発する。


「いけえええええええええぇぇっ! リフレクトプレートオオオオオオオオオオォォォ!!」


 次の瞬間、虫人の四本の腕が振り下ろされ、レオン王子と衝突し、ガラスが砕けるような音が響き渡り、彼の上半身が爆ぜるように吹き飛ぶ。



「ああ、レオン様が……」


 二本の足だけを残して絶命したレオン王子を見て、ソラが泣きそうな声を上げるが、俺は自分に残された使命を果たすため、震える手でナイフを握りしめて必死に虫人へと視線を走らせる。

 足先から舐めるように上まで見ていき、腰、背中と過ぎて念のために腕も確認しようとしたところで、


「ソラ、あそこへ……奴の左脇に向かって飛んでくれ!」

「えっ?」

「今、奴はレオンのお陰で動けなくなってるから。左脇に寄生している虫を倒して……俺たちで全てを終わらせよう!」

「…………はい!」


 ソラは涙を拭いて力強く頷くと、ナイフを持つ俺の手に自分の手を重ねる。


「お支えします」

「ありがとう」


 礼を言うと、ソラは気にしていないと小さくかぶりを振って、精霊たちに俺たちを所定の場所まで行くようにお願いする。


 これまでよりさらに早く、虫人の脇に向かって一直線に飛んでいくが、奴は大きくのけ反った姿勢のまま微動だにしない。

 レオン王子が身を挺して放ったリフレクトプレートの効果によって、強制スタン状態に陥っているからだ。


 レオン……ありがとう。


 心の中でレオン王子に感謝しながら、俺はソラと視線を合わせ頷き合う。

 俺握っているナイフに力を籠め、虫人の脇に浮かんだ黒いシミを凝視する。


「ソラ!」

「はい、行きましょう!」


 ソラが頷くと、精霊たちが後押ししてくれるように最後の加速を行う。


 まるで一筋の流星のように飛んだ俺たちは、


「「いっけえええええええええええええええええええええええええええええええ”えええええええええええええええええええええぇぇぇぇ!!」」


 声を揃えて力の限り叫びながら、虫人の脇に浮かんだ黒いシミへと突撃した。

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