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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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勝利の一撃を……

「来た!」


 こちらに向かって倒れる巨人を見て、俺は緊張で全身に汗が噴き出すのを自覚する。


「ロキ!」

『わかってる!』


 お互い残っている全てを賭けての一撃を放つ。

 そう覚悟を決めて全身に力を込めようとする。


 だが、


「なっ!?」


 巨人が倒れながら体を捻るのが見える。

 肘を突き出しながら倒れるところ見ると、どうやら俺を背中ではなく肘で押し潰そうというつもりのようだ。


「チッ!」


 マズイ……このまま飛び出しても巨人の肘とぶつかるだけだし、かといって背中に回れるほどの余力はない。

 あのまま倒れてくれればいいのに……何て楽観視したくなるが、巨人だって死にたくないから必死なのだ。


 どうする……ここは一旦回避して次の機会に賭けるべきか?


 そう思った矢先、


「なるほど、理解した!」


 レオン王子の声が聞こえたかと思うと、傾きかけた巨人の体が元に戻る。

 何事かと思ったら、レオン王子が巨人の頭に取り付いて、たてがみを引っ張っているのが見える。


「コーイチ、こいつは押さえておくから思いっきりやってやれ!」

「レオン!」

「信じてるぜ。親友!」

「ああ、任せろ!」


 レオン王子の頼もしい援護に感謝しながら、俺は大きく息を吸って腹に力を籠める。

 腰を落とし、飛び出す準備を終えたところでロキに声置駆ける。


「ロキ、準備はいいか?」

『いつでも』

「よし……」


 顔を上げ、巨人の背中に浮かんだ黒いシミへと目を向け、


「いくぞ!」


 気合のかけ声を上げ、俺は地を思いきり蹴って巨人に向かって突撃する。


 一本の矢のように飛び出した俺は、倒れて来る巨人の背中にナイフを全力で突き立てる。

 あっという間に肘まで埋まるが、ここからが本当の勝負だ。

 いつもなら黒いシミから伸びた黒い線に沿って走って相手を両断したりするのだが、それより巨人が倒れて俺が下敷きになって死ぬ方が早い。


 だから今回は、相手を両断するのではなく、


『コーイチ、いくよ!』

「ああ、せ~の……」


 俺とロキは息を合わせると、


「『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!』」


 腹の底から叫びながら、巨人の内部に向かってさらにナイフを押し込む。

 ヴォルフシーカーで影の中を泳ぐ要領で、落ちて来る肉の塊に抵抗する。


 普通なら硬い骨に当たって弾かれそうだが、バックスタブの効果か、ナイフは巨人の肋骨を易々と切り裂いて尚も突き進むと、前方が明るくなってくる。


「これで、終わりだあああああああああああああああああああああああああああぁぁ!」


 終わりが見えたところで、俺は最後の力を振り絞ってナイフを突き出す。


 そして遂に、軽い手応えと共に俺の目に巨大な樹が映る。

 陽が落ち、空が暗くなっても大量の精霊に囲まれて明るさを保っているこの世界最大の大樹……世界樹だ。


「ああ……」


 やった……やったんだ。


 視線を下に落とすと、胸に大穴を開けた巨人がゆっくりと倒れていくのが見える。


「ガフッ……」


 口から大量の血を吐きながら巨人はこちらへと手を伸ばそうとするが、途中で力尽きてだらりと落ちていく。


「勝った」

『うん、勝ったよ。ボクたち、勝ったんだ』

「……うん」


 よかった……ロキも無事だ。

 大事な仲間を失わずに済んだことに、俺は心から安堵しながら頬擦りしてくるロキを労うように撫でまわす。


 強敵を無事に倒すことができて、万事めでたしめでたし……、


 そう思った俺だが、ある事実に気付く。


「そういや俺、どうやって着地するんだ?」


 巨人の体内を泳ぐように抜けた先は、当然ながら空中で、地面までは結構な高さがある。


「俺、もう一歩も動けそうにないんだけど……」

『ボクも、もう無理』

「えっ? ということは……」


 どうやって着地するんだ?


「ヤ、ヤバイ……」


 まさかこのまま、落下して死ぬなんて阿呆な最後になってしまうのか?

 そんな最悪の最後を想像して、空中でバタバタともがいていると、


「コーイチさん!」


 ソラが空中の俺に飛び付いてきて、両手で支えてくれる。


「私が安全に運びますから、どうか身を任せて下さい」

「あ、ありがとう」


 ソラにお姫様抱っこされる形となって思わず赤面するのを自覚するが、もうまともに動けないので彼女に任せるしかない。



 そう割り切っているうちにあっという間に地面へと着地したソラは、改めて俺の胸に飛び込む。


「よかった……コーイチさんたちが無事で」

「ソラ、喜ぶのはわかるけど、汚れるよ」


 全身が巨人の返り血でベタベタだから離れた方がいい。

 暗にそう伝えたつもりだが、ソラはゆっくりとかぶりを振って俺の胸に顔を埋める。


「よかった……本当に…………コーイチさんが……ロキが無事で…………」

「そうか……」


 俺は震える手をソラの背中に回すと、彼女を労うようにポンポン、と軽く叩く。


「ソラも、無事でよかった」

「はい……はい……」


 泣きじゃくるソラを慰めながら。俺は首を巡らせてレオン王子を探す。

 てっきり俺たちと一緒に喜ぶのかと思ったが、レオン王子は倒れた動かなくなった巨人の前で立ち尽くしている。


「レオン……」


 思えばあの巨人は、カナート王国の歴代の王族たちなのだから何か思うところがあるのかもしれない。


 そう思っていると、


「コーイチ、こいつは本当に死んだのか?」


 レオン王子が思わぬ一言を告げる。


「確かに心臓は潰した……だけど、まだ……まだ何か嫌な臭いがするんだ」

「えっ……」


 まさかと思うと、巨人の体に変化が訪れる。


 左右の脇の下から追加の手が左右二本ずつ生え、背中が震えて翅が生えて来る。

 極めつけは、獣の首が落ちたかと思うと、中からギチギチと不気味な音を響かせながら新しい顔が出てくる。


「あ、あれは……」

「……虫人」


 最後の最後でとんでもない切り札が残されていたことに、俺は血が滲むほど唇をかみしめた。

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