満身創痍の作戦
コソコソと隠れるように移動を開始した俺は、ソラとレオン王子による一緒に戦うのが初めてとは思えないほどの連携を目の当たりにする。
「おらぁ!」
レオン王子が巨人が振り下ろそうとした左足首を払うように刈ると、
「やあっ!」
ソラが透かさず浮いた足を追撃して、巨体のバランスを大きく崩すことに成功する。
「嬢ちゃん、ナイスだ!」
片足を高く上げ、背後に倒れそうになるのを踏ん張ろうとする巨人に、レオン王子は残る片足を刈り取ろうと跳び蹴りを繰り出すために大きく跳ぶ。
だが、レオン王子の動きを見た巨人は自ら倒れこむように動く。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!」
大声を上げながら腕を折り曲げ、肘鉄でレオン王子を下敷きにしようとする。
「げっ!」
迫る巨人の肘を前に、レオン王子はしまったと驚愕の表情を浮かべる。
空中にいる以上、レオン王子に回避の術はない。
そう思われたが、
「危ない!」
精霊の力を借りて空中でも機動力を確保しているソラが、空中のレオン王子に飛び付いて巨人の攻撃範囲から彼を救出する。
「レオン様!」
「おう、いくぞ!」
神殿の柱のような極太の肘鉄を回避した二人はそれぞれ空中でくるりと回転して、
「「はあっ!」」
揃って倒れこんだ巨人の頬に同時に回し蹴りを喰らわせる。
「ガッ!?」
二倍の威力で蹴られた巨人は、大きく吹き飛ばされて三度地面に大の字に倒れる。
「やる……」
巨人を圧倒する二人の獣人を見て、俺はとっくに限界を超えている足に力を込めて奴の背後へと急ぐ。
一見するとソラたちだけでも巨人を倒せるのでは? なんて甘い期待を抱いてしまいたくなるが、実は見た目ほど状況はよくはない。
「ガアアアアアアアアアアアァァァァ!!」
強烈な一撃を受けて倒された巨人は、雄叫びを上げながら勢いよく起き上がると、まるで攻撃などなかったかのようにソラたちに襲い掛かる。
「……チッ、まだ起き上がるか」
「慌てないで、もう一度立て直しましょう」
反撃に打って出ようとするレオン王子を、ソラが冷静に抑えて一度下がらせる。
こうなれば、また一からやり直しだ。
先ほどから同じようなやり取りが何度か続いているが、何度倒しても巨人はダメージを受けていないかのように立ち上がってくる。
一方、ソラたちは見事な立ち回りで直撃を受けることは避けてはいるが、二人の体力は着実に削られ続けている。
事故が起きて二人のうちのどちらかが怪我でもしたらその時点で積み状態になってしまうので、ここは少しでも二人を援護しておきたい。
「ふぅ……」
一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた俺は、調停者の瞳を発動させてナイフを構える。
逃げるソラたちを追撃しようとする巨人の背中を凝視すると、黒いシミがじわじわと浮かび上がってくる。
「――っ!?」
バックスタブのスキルに気付いたのか、巨人が音がするほどの勢いでこちらに振り向く。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!」
俺の姿を見た巨人は、親の仇を見つけたと謂わんばかりに怒りを露にしてこちらに突っ込んでくる。
『コーイチ!』
「まだだよ。ここはソラとレオンを信じよう」
思わず手助けに出ようとするロキを制しながら、巨人の動きを注視する。
「大丈夫……」
自分の……自由騎士のスキルを信じろ。
そう念じながら調停者の瞳が発動している右目に集中すると、巨人の右手から赤い軌跡が伸びて来るのが見える。
足で踏み潰すのかと思ったが、どうやら俺を殴り殺すつもりのようだ。
こちらに向かって全力で駆けてきた巨人は、
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!」
空気を振るわせるほどの雄叫びを上げながら、右手を思いきり振り下ろしてくる。
「…………」
迫る死の脅威に体が委縮しそうになるが、腹に力を込めて懸命に耐える。
赤い軌跡を凝視して、軌道変化しないギリギリまで見極めたところで、
「ここっ!」
溜めていた力を一気に解放して、巨人の足元目掛けて思いきりダイブする。
直後、背後で振り下ろされた拳が爆発したかのような轟音と共に衝撃波を発生させる。
「くっ……」
暴風のような衝撃波を歯を食いしばって必死に耐え、そのまま巨人の股の下を抜けて奴の背後へと回る。
すると、
「全く無茶をする」
「後は私たちに任せて下さい」
入れ替わるようにソラたちが現れ、再び巨人へと攻撃を仕掛ける。
「いくぞ、オラオラオラ!」
「やあああぁぁっ!」
二人の獣人は、再び巨人にまとわりつくように攻撃を仕掛けていく。
レオン王子が仕掛け、ソラが絶妙に援護する攻撃は見事なものだ。
「コーイチさんは一度安全な場所へ!」
「ああ……」
攻撃しながら叫ぶソラに返事をしながら、俺は巨人に背を向けて数歩先に動いたところで止まる。
何故ならここが俺が……俺たちが目指した最終地点だからだ。
「ロキ……」
『うん、ここだね』
俺の声にすぐさまロキが応えて姿を現す。
これまで途絶えていたロキからの力が流れて来る。
だが、全力で攻撃ができるのは後一度だけだ。
だから次の一撃で絶対に決める。
そう硬く決意しながら再びナイフを構えて巨人の背中を凝視すると、巨人の背中に黒シミがじわじわと浮かび上がる。
「――ッ!?」
まだバックスタブが成立するほどの黒いシミではないが、背後の脅威に気付いた巨人がビクリと体を震わせる。
「ウガッ!?」
首を動かしてまだ背後に俺がいることに気付いた巨人が、俺の方へ向き直ろうとするが、
「おらぁ! 何よそ見してんだ!」
「コーイチさんをやらせはしません!」
ソラたちが全力で攻撃を仕掛けて、奴の動きを封じる。
「さあ、どうする?」
じわじわと広がり続ける黒いシミを見ながら、俺は巨人に問いかける。
「このまま放っておいても、俺の必殺の一撃がお前の背中を貫くぞ?」
「グガアアアアアアアァァァッ!」
俺の言葉が届いているのか、巨人は焦ったように手足を振り回して暴れるが、冷静さを欠いた攻撃ではソラたちを止めることができない。
こうなると巨人にできることは限られてくる……はずだ。
「来い……来てくれ」
声にならない声を発しながら、その時が来るのをジッと待つ。
実を言うと、俺たちの体はとう限界を超えている。
例えソラたちが巨人から決定的な隙を作ることに成功しても、立ち上がった巨人の背中へナイフを突き立てに行くことはできない。
ならばどうするか?
決まっている……こっちが行けないのなら、向こうに来てもらうだけだ。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」
「うおっ!?」
「キャッ!」
背中に浮かぶ黒いシミが簡単に目視できるほどおおきくなると、いよいよ我慢できなくなった巨人が雄叫びを上げながら両腕を振り上げてソラたちを吹き飛ばし、俺たちを押し潰そうと仰向けに倒れこんできた。




