混沌に加担した成れの果て
「あいつについて……か」
俺の質問に、レオン王子は自嘲気味に笑って肩を落とす。
「あれは俺たち……カナート王国の王族たちの恨みの塊だ」
「恨みの……」
「塊?」
俺とソラの呟きに、レオン王子は苦々しい表情で頷く。
「ああ、実り豊かな森が目の前にあるのに、幾数年にも渡ってお預けを喰らい続けた先人た
ちの溜まりに溜まった恨みだ」
そう言ってレオン王子は、カナート王国の王族に隠されたある闇に付いて話す。
いつの頃からかカナート王国には、跡取りが二人以上になった時、次代の王に選ばれなかった者に、レオン王子もさせられた混沌なる者と繋がる儀式を受けさせられたという。
「ちょ、ちょっと待った!」
出鼻で悪いと思いつつも、俺はレオン王子の言葉を遮って質問する。
「ということは、カナート王国ではかなり昔から混沌の軍勢と繋がっていたということか?」
「ああ、そしてその秘密を知っているのは王族でも限られた人間で、親父も……歴代の国王にも知らせないで、何世代にも渡って秘密裏に継承され続けてきたんだ」
情報は徹底的に統制され、表向きは王位継承権から離脱して世捨て人になったと見せかけ、裏では混沌の勢力と繋がり、時には連中の要望に従って国内外で混乱を引き起こしていったという。
「でも、どうして国を守るために、あちこちで混乱を引き起こす必要があるんだ?」
「恨みや嘆きが混沌の餌になるからだよ。当時の連中は、国力強化のためと言われて魔物を引き入れていたようだが、それすらも混沌の苗床にされていたってわけだ」
「し、信じられない……」
「そうだな。だが、エルフたちには全て筒抜けだったみたいだけどな」
「そう……か」
エルフたちは精霊を使うことで情報を収集することができるので、カナート王国での裏の出来事を知っていたとしても不思議ではない。
そんなことなど知る由もないカナート王国の過激派たちは、混沌の勢力の助力を得ながらエルフたちへの恨みを募らせ続けた。
「あいつに取り込まれた今だからわかるが、過去の連中のエルフの森に対する渇望は相当なものだった……それこそ、全てをなげうってでも手に入れたいって気持ちで溢れていた」
「目的のためならば、たとえ魔物を食うことになっても構わなかったわけだ」
「その先に待っているのが破滅だとしてもな……」
「そう……か」
困っているときに弱みに付け込まれた。
そう断じるのは簡単だが、これはそう簡単な話ではない。
何世代にも渡ってということは、カナート王国は今のように豊かな国ではなく、日々の糧にも苦労する地下暮らしの時に声をかけられとしたら?
王族として生まれたのに、王に選ばれなかった者が自分が国に貢献できることは? と考えた時にエルフの森を侵略すると考えるのは無理もないし、そこを混沌の軍勢に付け込まれてしまうことだってあるだろう。
最初は純粋な気持ちだったかもしれない。
だが、真綿で首を締めるように、徐々に……徐々に混沌に染まっていき、長い時を経て全てを壊す化物になってしまったというわけだ。
もしかしたら、途中で騙されているのでは? と気付いた人もいたかもしれないが、既に大きなうねりとなっていた計画に水を差すような真似はできなかっただろう。
それはハバル大臣の屋敷の地下でゴブリンの心臓を差し出されたレオン王子も同じで、大切な家族を人質に取られたら、要求を跳ねのけるのは容易ではない。
「……難しいな」
「ああ……だが、そんな崇高な理念も今は昔ってやつだ」
レオン王子は壁の向こうを見て、苦しそうに表情を歪める。
「国のため、民のためを想って国を裏から支えるはずだったのに、今や国を……世界を滅ぼす悪の手先へと成り果てた」
レオン王子は顔を上げると、俺とソラを真っ直ぐ見つめる。
「コーイチ、この国に長年取り憑いた悪夢を振り払うために力を貸してくれないか?」
「何言ってんだ。当たり前だろう」
レオン王子の要求に、俺は力強く頷く。
「俺たちだって気持ちはレオンと一緒だよ。世界を救うために一緒に戦おう」
『そもそもボクたちがここに来たのは、あいつをぶっ飛ばすためだしね』
「私も協力します。フリージア様のためにも頑張りましょう」
「そうか……」
俺に続いてロキとソラからの協力の申し出に、レオン王子は思わず溢れてきた涙を拭う。
「ありがとう。お前たちが協力してくれるなら百人力だぜ」
鼻をすすってニコリと笑ったレオン王子は、俺とソラが差し出した手を取ってこちらを見る。
「それでコーイチ、あいつを倒すのに何かいい手はないのか?」
「そこで俺に振るのかよ」
まさかの作戦を丸投げに、俺は堪らず苦笑を漏らす。
だが、レオン王子から話を聞けたお陰でいくつか対抗策が見えてきた。
「どうやらその顔は、策ありって感じだな」
案の定、顔に出ていたのか、レオン王子は期待に満ちた目でこちらを見て来る。
「コーイチ、お前が思いついた策を聞かせてくれるか?」
「ああ、まずはだな……」
俺は神妙な顔で頷くと、巨人と戦うための策を仲間たちに話していった。




