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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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復活?の獅子王子

「……えっ?」


 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。


「おらぁ!」


 俺の前に現れたのは、決して起き上がるはずのない人物……


 何で?


 どうして?


 いくつもの疑問符が頭に浮かぶ中、動くはずがないその人は、目にもとまらぬ速さで左右にステップを踏むと、


「おらぁ!」


 気合一閃、巨人が振り下ろした両腕を横から蹴り飛ばして弾いて見せる。

 まるで爆発が起きたかのような轟音を響かせて放たれた一撃によって、巨人が大きく態勢を崩したかと思うと、そのまま仰向けに倒れる。


「マ、マジか……」


 巨人が倒れるほどの一撃に唖然としていると、


「何ボサッとしてるんだ。ひとまず逃げるぞ!」

「わ、わかった」


 怒声に我に返った俺は、ひとまず安全な場所に移動することにする。


 そうして駆け出そうとするが、


「……ソラ」


 いまだに尻餅をついた姿勢のまま、こちらを見ているソラに気付き、申し訳ないと思いながら手を差し出す。


「謝ることしかできないけど……本当にゴメン」


 そう言って頭を下げようとすると、ソラが起き上がって抱き着いてくる。


「嫌です。許しません」

「ソ、ソラ?」

「でもその話は後です。今はとにかくあの人の後を……レオン様に付いていきましょう」

「あ、うん、そうだね」


 ソラは身を離すと、俺の手を引いて先を行く人影、レオン王子を追いかけた。



「おい、こっちだ!」


 手招きするレオン王子に追いついた俺は、肩で息をしながら彼に問いかける。


「はぁ……はぁ……おい、レオン。どうしてお前が?」

「まあ、待て。その前にだな……」


 レオン王子は俺の言葉を遮ると、右手を高く掲げる。


「よっと!」


 掛け声を上げながら地面を強く叩くと、レオン王子のすぐ前に白い壁がそそり立つ。

 厚さこそ数センチ程度の薄い壁だが、高さは数メートルあり、巨人との視界を遮る様な形になる。


「あいつは目に見えるものしか襲わないからな。これで少しは休めるはずだ」

「そ、そうか……」


 休める。その言葉に俺とソラは顔を見合わせて頷くと、その場に座り込む。



「ふぅ……」


 座ると同時に、全身に疲労が一気にのしかかって来るので、少しでも回復に努めながらこちらを見ているレオン王子に話しかける。


「ところでお前は本物のレオンでいいんだよな?」

「ああ、既に死んではいるが、間違いなく本物だぜ」

「そう……か」


 レオン王子が本物と聞いて飛んで喜びたい気持ちもあるが、既に死んでいるという言葉が俺の胸に重くのしかかる。


「気にするな」


 肩を落とす俺に、膝を付いたレオン王子は、血の気のない真っ白の顔で笑う。


「叔父さんに言われて混沌に染まってから、ずっと胸の内にモヤモヤが溜まっていたんだけど、今はそのつっかえがなくなって凄い気分がいいんだ」


 レオン王子は白い顔に負けない真っ白な歯を見せてニッコリ笑うと、俺の肩に手をまわしてくる。


「これも全て、コーイチが混沌との関係を断ち切ってくれたからだよ。本当にありがとう」

「そうか……うん、ならよかった」


 レオン王子の初めて見せる爽やかな笑顔に、彼が心から喜んでいる様子が伺え、俺はホッと胸を撫で下ろす。


 すると、


「うおっ!?」

「キャッ!?」


 突如として地面が大きく揺れ、俺はソラと互いに支え合うように身を寄せ合って周囲を警戒する。


「な、何だ?」

「俺たちの姿がなくなったことで、動き出したんだ」

「動き……出した?」

「そうだ。見てみろ」


 そう言ってレオン王子が右手を振るうと、白一色の世界の壁がボロボロと崩れ始める。

 いったい何がと思って壁の向こうを注視すると、暁に染まった空間が見える。


「あっ……」


 白の次は赤の世界なのかと思ったが……


「あれって外の世界?」


 外……と言ったが、実際には俺たちがやって来た世界だ。

 いつの間にか時刻は夕方になったのか、空は茜色に染まり、奥には天まで届きそうな巨木……世界樹と精霊と思われる無数の光の玉が見える。


「コ、コーイチさん下を……下を見て下さい!」


 ソラに強く引かれて下を見ると、そこにはエルフの森が広がっている。

 てっきり森で戦っているシドたちの姿でも見つけたのかと思ったが、


「も、森が……燃えてる」


 セシリオ王のフロストマインによる豪雨のお陰で、森の火事は鎮火したと思ったのに、それが再び業火となって、全てを無に帰そうとしていた。


「雨は……止んだのか」

「そうみたいです。あれだけあった雨雲が嘘みたいに消えています」


 俺たちが森を抜けた時とは明らかに規模が違う火災に、ソラの顔は青くなっている。

 言うまでもなく、森の中にいるはずの家族や仲間たちの心配をしているのだろう。


「大丈夫だよ」


 ハラハラと森を見守るソラに、安心させるように笑いかける。


「皆、歴戦の戦士たちばかりだからさ。危なくなる前にちゃんと避難してるよ」

「そう……ですよね」

「そうだよ。だから俺たちはやるべきことをやろう」

「はい」


 ソラが大きく頷くのを見てこっちは大丈夫と思った俺は、再びレオン王子に向き直って尋ねる。


「レオン、さっきの揺れはあの黒い竜巻が動き出したって認識でいいんだな?」

「そういうことだ。コーイチたちがいなくなったと思って移動を開始したってわけだ」

「なるほど……」


 本当なら今すぐにでも飛び出して、巨人の侵攻を止めるべきなのかもしれないが、無策で飛び出すような無謀な真似はしたくない。


 勝利を確実にするためにもまずは情報を集め、そこから策を練りたい。

 組んでいた肩を外してレオン王子と距離を取った俺は、彼に向き直って改めて問う。


「レオン、君は俺たちの戦いに協力してくれるということでいいんだよな?」

「勿論だ。今度こそ国を守るため、フリージアを守るためにも協力させてくれ」

「わかった。それじゃあレオン。お願いがあるんだけど……」


 そう前置きして俺は、レオン王子に混沌なる者について知っていることを教えてほしいと願い出た。

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