君に惹かれた理由(わけ)
地下での一件で、レオン王子は王の証ともいえる獣化の力を手に入れた。
レオン王子が王としての才能を開花させてことに、カナート王国の民は大いに喜んだ。
だが、称賛の声が大きくなるのに反比例して、レオン王子の態度が変わっていった。
態度が粗暴になり、公然の場でも人に暴力を振るうようになった。
それがハバル大臣の屋敷の地下の一件で心に傷がついたからなのか、それとも魔物の心臓を取り入れてしまったことの影響なのかはわからない。
ただ、理不尽な態度を見せるレオン王子を見て、俺は最初に彼を抱いた印象とは別の感情を抱いていた。
「レオン……お前はずっと苦しんでいたんだな」
顔を横に向けると、顔のない子供姿のレオン王子が見ていた。
表情が全く読み取れない子供姿のレオン王子に、俺は今の想いを告げる。
「フリージア様を守るために自らを犠牲にして、手に入れた力にずっと疑念を抱いて、方法はともかくハバル大臣の言うことも尤もで……あらゆるしがらみに囚われて続けていたんだな?」
『……うん』
俺の問いかけに、子供姿のレオン王子はこくりと頷く。
『辛かった……誰にも相談できずに、自分の体が変わっていくのが……』
「自分の体が変わる?」
『うん』
頷いたレオン王子は、自身が着ている緑色のチュニックをめくる。
「あっ……」
そうして露になったレオン王子の腹部、へその上に二本の角を持つ悪魔を模ったような刻印があり、それが紫色に怪しく光っていた。
『あの日から僕のお腹にこれが浮かび上がり、脈打つ度にどす黒い感情が浮かび上がってくるんだ……全てを壊せ、全てを喰らえって』
「それをハバル大臣には?」
『言ったよ。でも、それは僕の弱い心が生む幻聴だって一蹴された』
「そんな訳ないだろ。その声は間違いなく混沌からの呼び声だ」
『うん、僕もそう思う』
子供姿のレオン王子は、そっと自分の腹を一撫ですると、能面の顔で俺を真っ直ぐ見つめる。
『お願いコーイチ。君が僕の親友だと言うのなら、僕を確実に殺してくれ』
「任せろ……と言いたいところだけど、そいつはちょっと違うよ」
悲痛な様子のレオン王子に、俺は自身の決意を語る。
「確かにレオンを助けるのは無理かもしれないけど、それでも君のこれまでの頑張りを否定するような結果にはしないよ。混沌から解放して、人として最期を迎えられるようにしてみせるよ」
『そんなこと……』
「できるよ。俺は自由騎士だからね。世界を救うだけじゃなくレオン、君の人としての尊厳も救ってみせるよ」
『そう……』
俺の決意をどう受け取ったのか、子供姿のレオン王子は大げさに肩を竦めてみせる。
『きっと大人の僕は、君のそういうところに惹かれたんだろうな』
「そ、そうなの?」
『うん、僕も君みたいに、運命に抗う勇気があればと思うよ』
「今からでも遅くないよ。強く願えば、混沌を打ち払うことだってできるさ」
『だといいね』
どこまで本気がわからないが、子供姿のレオン王子は諦観したように小さく息を漏らすと、俺の顔に向かって手を伸ばしてくる。
『方法は伝えた。後はコーイチ、君次第だ』
「わかってる。だけどレオン、君も最後まで抗うことを忘れないでくれ」
『……うん』
小さく頷いた子供姿のレオン王子の小さな手が俺の額に触れると、体から急速に力が失われていく。
『お互い頑張ろう』
最後に子供姿のレオン王子からの激励の言葉が聞こえ、俺の意識はブラックアウトしていった。
※
「ううっ……」
ゆっくりと目を開けると、今にも泣きそうなソラと目が合う。
「……ソラ?」
「コーイチさん!」
声をかけると、目に涙を浮かべたソラが思いきり抱き着いてくる。
「よかった……本当によかった」
「ゴメン。心配かけたね」
ソラのぬくもりと、痛む左手で本当に戻って来たと察した俺は、顔を上げてロキに話しかける。
「ロキ、俺はどれくらい気を失っていた?」
『ほんの十秒程度だよ。いきなり倒れたからびっくりしたよ』
「そうか……」
結構長いことレオン王子の過去を見ていたような気がしたが、現実では一瞬だったようだ。
顔を上げ、白の世界に現れた黒いシミがまだあまり大きくなっていないことを確認していると、ロキが顔を近付けて来る。
『それで、何があったの?』
「実は……レオン王子と会ってた」
そう言って俺は、ソラとロキに夢の世界で見たことについて話す。
レオン王子の過去を見たこと。
混沌なる者の分体になるきっかけになったかもしれない、壮絶な体験をしたこと。
そして、これからレオン王子と対峙したとき、彼の腹部にある刻印を狙うという話をした。
「信じられないかもしれないけど、俺は夢であったレオン王子を信じてみようと思う」
「いいと思います」
俺の提案に、左手の手当てをしてくれているソラが頷く。
「謎の声がコーイチさんにだけ聞こえたというのも、声の主がレオン王子だったというのなら理解できます。なら、その可能性に賭けるのは悪くないと思います」
『ボクはあんまり気が乗らないけど……その話がボクたちを嵌める罠かもしれないしね』
一方のロキは、慎重に行くべきだと提案してくる。
だが、
『もうそんな余裕はないみたいだけどね』
「……えっ?」
ロキに顎で示されて前を見ると、黒いシミを中心に白の世界に大きなヒビが入る。
それはまるで、向こう側から何かが飛び出してくる予兆のようにも見える。
白の世界を侵食するように大きくなっていくヒビを見て、俺は手当のソラに礼を言って彼女を後ろに下がらせる。
腰のポーチのナイフを確認して、何が飛び出してきても大丈夫なように身構える。
「……来るのか」
『来るよ。気をつけて』
ロキがそう呟くと同時に白の世界の壁が音を立てて弾け飛び、闇の中から巨大な腕が湧き出てきた。




