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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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力を喰らえ

『な、何だ。これは……』


 ギャーギャーと喚き散らすゴブリンたちを見て、レオン王子は表情を強張らせて隣に立つハバル大臣に問いかける。


『何でおじさんの家に魔物が……まさかおじさん……』

『ガタガタ騒ぐな。たかがゴブリンだ。あの窓を砕くこともできんし、そもそも奴等からこちらは見えていない』

『見えてない?』

『フッ、そういう魔法があるんだよ。お前は知らないだろうがな』


 ハバル大臣は余裕の表情を崩すことなく、スッと片手を上げる。


 すると狭い室内に一振りの斧が投げ込まれる。

 それを見たゴブリンたちは我先にと斧へと手を伸ばし、斧を手にした者は近くの小鬼へと容赦なく振り下ろす。


『ウッ!』


 思わず目を背けるレオン王子の目の前で、ゴブリンの頭が勝ち割られ血が噴水のように噴き出す。

 斧を手にしたゴブリンは、返り血を浴びながら尚も武装していない同族を容赦なく切り捨てていく。


 四体の同族を虐殺したゴブリンは、死体を一か所に集めたかと思うとさらに斧を振り下ろしていく。


『な、なな、何を……』


 斧が振り下ろす度に血しぶきが飛び散るのを見て、訳が分からないレオン王子は頭を抱える。


『おじさん、あいつは何をしているんですか?』

『あれはな……そうだな。我々は調理と呼んでいる』

『ちょ、調理?』

『まあ、黙ってみていろ。すぐにわかる』


 多くは語らず、ハバル大臣は顎で室内を見るように指示する。


 執拗に斧を振り下ろし続け、飛び散る血も少なくなったところでゴブリンは斧を投げ捨て、ゴブリンだったモノの山へと顔を突っ込む。

 すると、ピチャピチャという水音と、ガリガリと何かを砕くような音が聞こえ出す。


『ま、まさか、食ってるのか?』

『そのまさかだよ。魔物は共喰いをすることで一つ上の種族に進化するのだ』

『進化?』

『見てみろ。変化するぞ』


 ハバル大臣の言葉に呼応するように、ゴブリンの残骸に顔を突っ込んでいた小鬼の背中が紫色に怪しく光り出し、全身がボコボコと脈打つ。

 背中が怪しく光る度に腕と足が肥大化し、続けて体全体も早回しする映像のようにみるみる大きくなっていく。


『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!』


 一回り大きくなったゴブリンが成長を喜ぶように雄叫びを上げると、胸部の紫色の光がさらに強くなる。


 次の瞬間、暗闇から無数の槍が伸びて来てゴブリンを貫く。


『アギャッ!? アア……ァァ…………』


 全身を串刺しにされたゴブリンが倒れると、暗闇の向こうからハバル大臣の私兵が次々と現れ、紫色に光る背中に穴を開ける。

 バキバキと肋骨を折り、中から紫色に輝く心臓と思しき部位を取り出した兵士は、部屋を移動してハバル大臣に抜き出したものを差し出す。


『レオン、見てみろ。これが魔物の強さの秘密だ』

『秘密って……化け物の心臓がか?』

『そうだ。この中には魔物だけじゃなく、あらゆるものを進化させる力を秘めているのだ……そう、例えば才能が開花せずに苦心している者の力を引き出せたりとかな』

『ま、まさか……』


 ハバル大臣が自分を呼び出した理由を察したレオン王子は、いよいよ顔面蒼白になる。


『その心臓を、俺に食えと?』

『当たり前だ。何のためにお前を呼んだと思っている』


 恐怖で固まるレオン王子に、ハバル大臣は尚も怪しく光る心臓を差し出す。


『食え、そして王の力を解放しろ』

『王の……力』

『そうだ。誰よりも強くなりたい。その願いがこれだ叶うのだ……安いものだろう?』

『…………』

『そしてレオン、お前が王になった暁には我等の悲願、あの森を手に入れて国を豊かに、飢えや渇きに困る者がいない理想郷を創ろうではないか』

『…………』


 獰猛に笑うハバル大臣の挑むような視線には目もくれず、レオン王子は血の気を失った顔で呆然と紫色に光るゴブリンの心臓を見つめ続けている。


 迷っているのか、それとも臆しているのか、レオン王子の手が動くことはない。

 いくら簡単に強くなれるとはいっても、魔物の心臓を生のまま食べるなんて俺だったら絶対に無理だ。



 その後も逡巡したレオン王子が動かないでいると、


『……駄目か』


 ハバル大臣が吐き捨てるように言って背を向ける。


『おい、こいつは駄目だ。フリージアを連れてこい』

『フリージアを!?』


 フリージア様の名前が出た途端、レオン王子がハッ、と顔を上げてハバル大臣に詰め寄る。


『おじさん、どうしてそこでフリージアの名前が出て来るんだ。だってあいつは……』

『心配するな。フリージアも腐っても王族だ。泣こうが喚こうが、無理矢理こいつを飲ませれば、簡単に今のお前より強くなれる』

『…………』

『国を……民を背負う覚悟のないお前には失望したぞ』


 レオン王子より強くなれる。そう言い捨ててハバル大臣は去っていく。


 すると、


『待て』


 覚悟を決めた様子のレオン王子がずかずかと大股で歩いてハバル大臣の前に立ちはだかると、彼の手から紫色に光る心臓を奪い取る。


『俺が……俺があいつを……この国を守るんだ!』


 決意の言葉を口にして、レオン王子は大口を開けて心臓を一気の頬張る。

 咀嚼することなく、一気の飲み込んだレオン王子は、


『……がっ、がああぁぁ……うがあああああああああああぁぁ!!』


 両手で喉を押さえ、苦しそうに呻く。


『体が……熱い……あ、あがああああああああああああああああああああぁぁぁぁ……』


 その後も地下の部屋には、レオン王子の苦しそうな声がいつまでも響いていた。

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