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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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霧を吹き飛ばす

 右手に確かな感触と、ゴシャッという人を殴ったとは思えない強烈な音が耳に響き、レオン王子の体が激しく地面に叩きつけられたかと思うと、次の瞬間には反動で大きく浮き上がる。


「うわっ!?」


 ロキの力を借りているとはいえ、人を殴ったとは思えない挙動に頬が引きつる。


 まさか死んでないよね?


 いや、もう死んでるんだけど……なんて自分自身で訳の分からないツッコミを入れていると、


『何してるの! 早く追撃して!』


 ロキから厳しい声が飛んでくる。


『もっともっと回復できないくらい攻撃して! 早く!』

「わ、わかった!」


 確かにレオン王子は既に死んでいるゾンビなのだから、遠慮なんかしている場合じゃない。


「行くよ!」


 気を取り直した俺は、重力に引かれて落ち始めたレオン王子へとラッシュを仕掛ける。


「はっ!」


 踏み込んで下から救い上げるように掌底を繰り出してレオン王子の背中を打つと、彼の体が再び宙に浮く。


「うおおおおおおぉぉっ!」


 そこからはまるで空中コンボを叩き込むように、両手足をフルに活用してレオン王子の全身を容赦なく打ち込んでいく。


「おらぁ!」


 最後に渾身の回し蹴りを喰らわせると、レオン王子の体が地面を何度もバウンドしながら吹き飛んでいく。


「あっ!」


 吹き飛ばしたレオン王子の体が地面に叩きつけられる度に、彼の全身を包む黒い霧が霧散して薄くなっていくのが見えた。


「霧が……」

『いけるよ。このまま押し切ろう』

「ああ、やろう!」


 ロキの応援を耳にしながら俺はよろよろと立ち上がったレオン王子を、包む黒い霧を剝がすように尚も攻撃を加えていく。


「レオン!」


 右の拳を振り抜くと、レオン王子の口から血ではなく大量の黒い霧が吐き出される。


「待ってろ、今助けてやるからな!」


 続けて左の拳を腹部に叩き込むと、衝撃が背中へ筒抜けるように黒い霧が後方へと飛ぶ。


「ガアアアッ!」


 レオン王子が叫びながら反撃を仕掛けて来るが、苦し紛れに放たれた攻撃など、調停者の瞳(ルーラーズアイ)を使わずとも避けるのは容易い。


「本物のレオン王子のは、そんなにぬるくなかったぞ!」


 潜り込むようにレオン王子の拳を回避した俺は、再び右拳で彼の脇腹を容赦なく撃ち貫く。


「アガッ……オゲエエエエエエエエエエェェェ……」


 内臓を抉るように攻撃に、レオン王子の口から大量の黒い液体が吐き出される。

 ビチャビチャと音を立てて地面に落ちた黒い液体は、留まることなくあっという間に蒸発して消えていく。


 どうやら黒い霧は、レオン王子の体内にも入っているようだ。


 今の一撃で、体内の黒い霧がなくなったかどうかはわからないが、中にもあるなら全部吐かせるだけだ。


『コーイチ、黒いやつが上半身に集まって来たからそっちに攻撃を集中!』

「ああ、任せてくれ!」


 ロキのアドバイスに頷きながら前へ出る。


 指摘通り、レオン王子の体を包む黒い霧に明らかに偏りが出てきたので、より霧の濃い方を中心にラッシュを仕掛ける。


「このっ、レオンの体から出ていけ!」


 思いを込めながら左拳を振り抜くと、


「――っ!?」


 指に鋭い痛みが走り、俺は堪らず顔をしかめる。

 拳を引いたときに目を向けると、中指と薬指があらぬ方向に曲がっているのが見えた。


 だが、ここで止まるわけにはいかない。


「うおおおおおおぉぉっ!」


 痛む左手をひとまず全力で忘れて、俺は雄叫びを上げながら膝でレオン王子の顎を打ち上げる。


「レオンを返せええええええええええええええええええぇぇぇぇ!!」


 顎が上がったレオン王子に、渾身の右アッパーを繰り出して大きく吹き飛ばすと、これまでにないほどの黒い霧が彼の背中から噴き出す。

 弧を描いて吹き飛んだレオン王子が仰向けに倒れると、彼の体を覆っていた黒い霧は完全になくなっていた。


「はぁ……はぁ……や、やったのか?」

『うん、やった、やったよ。さあ、コーイチ。早くソラを』

「あ、ああ、ソラ!」


 決着が着いたことをソラに伝えると、彼女はパタパタとこちらに向けて駆け出すのが見える。


「……うっ!」


 安堵したのも束の間、折れた左手が激しく痛み出し、堪らず顔をしかめる。

 多少の鍛錬を積んできたとはいえ、本来の戦闘スタイルではない上に、利き腕でないこと、そして上乗せされたロキの力が強過ぎて耐えられなかったようだ。


『コーイチ。大丈夫?』

「だ、大丈夫……まだいける」


 痛くて涙が出てくるが、まだ終わりではないのだ。


「まだ大ボスが残っているし、ここから先はソラも守らないと」

『そうだね。次からは左手はボクの爪を使ってね』

「うん、ありがとう」


 気遣うように身を寄せて来るロキに感謝しながら、俺はソラが来るまでの間に折れた左手の指に応急処置を施していった。

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