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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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見えた勝ち筋

「グルルルル……」


 俺がポーチに手を伸ばしたまま構えていると、レオン王子は下腹部を押さえながら唸り声を上げている。


「…………」


 だが、そっとポーチから手を離すとレオン王子は何事もなかったように、スッと立ち上がって再び警戒態勢を取る。


「やはりか……」

『何がやはりなの?』


 俺の呟きに、気になった様子のロキが顔を寄せて来る。


『その様子だと何か気付いたみたいだけど、ボクにも教えてよ』

「あ、ああ、やっぱり顔に出てる?」


 コクリとロキが頷くのを見て、思わず苦笑しながら気付いたことを話す。


「実は前にレオン王子と一対一で戦ったことがあるんだ」

『へぇ、勝ったの?』

「勝ったよ。いつも通り、あらゆる手段を使ってね」

『ああ、なるほど……』


 俺の答えに、ロキは肩を揺らしてクスクスと笑みを零す。


『つまり決闘でコーイチに目を潰され、その上で股間を思い切り蹴り飛ばされて、泣きながら謝った感じだ』

「まあ、泣きながら謝ったかはどうだったか覚えてないけど、レオン王子としてはかなり屈辱だったことは確かだよ」


 あれだけ悲惨な負け方をして、俺のことを認めて親友になってくれたのだからレオン王子の器の大きさには舌を巻く。

 だが同時に、あの負け方はレオン王子の心に深く刻まれる出来事で、混沌なる者の分体になった今でも影響を及ぼすほどのことだったようだ。


「とにかく、あの時の決闘の再現をすれば……」

『あいつの動きを封じることができるというわけだね』

「そういうこと」


 頷きながら、俺はポーチを軽くポンポンと叩いてみせる。


『うん、でもさ……』


 何か気掛かりなことでもあるのか、ロキが顔を近付けて来て、小声で話しかけて来る。


『コーイチ、もう相手の目を攻撃できる瓶は持ってないでしょ?』

「……よくわかったね」


 ロキの指摘通り、ポーチの中にはレオン王子に使った目潰し用の小瓶は疎か、火炎瓶等の攻撃に使える道具は残っていない。


 これまでの激戦でリソースを気にする余裕がなかったというのもあるが、原料が尽きて道具を十分に用意できなかったというのも大きい。


「確かにあの時の再現をすることはできないけど、そこは気にする必要はないよ」

『そうなの?』

「ああ、今のレオン王子に目潰しが効くとは思えないし、効かないと気付かれる方が厄介だ」

『そうだね。何も知らずにビビっててもらった方が都合がいいね』

「そういうこと、大事なのはレオン王子の記憶を刺激し続けることなんだ」


 そこにきっと、レオン王子を打破する糸口に繋がっているはずだ。


「というわけでロキ、次からは立ち回りに道具も使うようにするよ」

『了解、いざという時の防御は任せてくれていいからね』

「任せた」


 ロキと作戦を決めた俺は、素振りをするように腰のポーチをそっと撫でて前へと出る。


 動きの癖も、弱点もわかったのだ。


 これ以上、進化されてしまう前に、次のステージに進んでおきたい。


 今は平気でも、いつ矛先がソラに向かうかわからないし、周囲で渦巻いている黒い竜巻が襲い掛かって来るようなことがあったら、一気に状況が不利になる。



 次で決着(ケリ)を着ける。


 そう意気込んで、ステップを踏みながらレオン王子に向かって突撃すると、彼は両腕を上げて戦闘態勢に入る。


 これまで牽制攻撃を仕掛けてその度にカウンターを喰らっていたが、今回も初手は牽制攻撃からいく。

 搦め手が有効だとしても、警戒されている中で仕掛けたところで逃げられるだけだ。


「シッ!」


 短く息を吐いてジャブを繰り出すが、またしても当たる直前でレオン王子の姿が搔き消える。


 すぐさま右へと視線を走らせると、首元を狙って赤い軌跡が伸びて来るのが見える。

 今度は仕掛けて来るタイミングもわかっているので、しゃがんでレオン王子の鋭い蹴りを回避する。


「ここだ!」


 今度はこちらからカウンターを仕掛けるべく、足を振り抜いた姿勢のレオン王子の後頭部目掛けて殴りかかる。

 当たる! そう確信して繰り出した攻撃であったが、レオン王子は背中から右腕を伸ばして俺の攻撃を手で受け止める。


 だが、そんな無茶な姿勢で攻撃を受けて、タダで済むはずがない。


『コーイチ!』

「わかってる。うおおおおおおぉぉっ!」


 叫びながらさらに腕を押し込むと、ボキボキとレオン王子の腕が折れる音が聞こえる。


「このまま押し込む!」


 腕を折った勢いに任せて、そのままレオン王子の後頭部を狙おうとする。

 だが、


「ウガアアァァァ!」

「――っ!?」


 レオン王子が雄叫びを上げると、折れた腕から黒い霧が勢いよく噴き出すので、慌てて距離を取る。

 噴き出した黒い霧は渦を巻いてレオン王子の折れた腕を包んだかと思うと、最初に見た巨大な腕へと変わる。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!!」


 再び巨大な腕を手にしたレオン王子は、雄叫びを上げながら俺目掛けて腕を振り下ろしてくる。


「ここだ!」


 大振りの攻撃を見て、ここがチャンスと俺は前へと出る。

 調停者の瞳(ルーラーズアイ)を使って巨大な腕の攻撃を回避した俺は、一気に前へ出てレオン王子と距離を詰める。


 あの巨大な腕がある内は、まともに逃げることもできないはずだ。


 殴ろうと右手を振り被りながら、左手は腰のポーチへと伸ばし、中から適当に小瓶を掴んでレオン王子の眼前へと投げる。


「ヒッ!」


 宙を舞う小瓶を見たレオン王子は、目を潰されると思ったのか、小さく悲鳴を上げて元のサイズのままの左腕で顔を覆う。

 それを見て俺は素早く投げた小瓶を空中でキャッチすると、足を振り上げてレオン王子の股間を思い切り蹴り上げる。


「〇△□☆×!?」


 股間を蹴られたレオン王子は、声にならない悲鳴を上げて堪らずその場に蹲る。


 まさか以前と全く同じ方法で決着が着くかと思われたが、


「ウグルアアアアアアアアァァァァァッ!!」


 レオン王子は雄叫びを上げながら強引に立ち上がると、口角から泡を飛ばしながら強引に左腕を振るう。


『コーイチ、ここはボクが!』


 無茶な姿勢で振るわれたレオン王子の腕を、ロキが半透明の前脚で踏みつけて地面へと縫い付ける。


『コーイチ!』

「わかってる!」


 ロキが作ってくれた絶好のチャンスを逃がすまいと、俺は右手を大きく振りかぶる。


「レオン、目を覚ませえええええぇぇぇ!」


 願いを込めながら俺は渾身の拳を、レオン王子の顔へと叩き付けた。

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