自覚のない手応え、見える光明
まるで逃げるように大きく跳んだレオン王子は、こちらを睨んだまま動かない。
「はぁ……はぁ……な、何だ……」
全く予期していないレオン王子の行動に、俺は自分が投げたものを探しながら、手探りでポーチを漁ってなくなっているものを確認する。
「あっ……」
何がなくなっているか気付いた俺は、すぐ近くに落ちていた瓶を拾う。
「これは……」
『薬だね』
俺が拾った瓶を見て、ロキが顔を近付けて来てスンスンと鼻を鳴らす。
『塗るとツーンとする塗り薬みたいだけど、これが怖かったのかな?』
「まさか……」
ゲームなどでアンデッドモンスターに対して、回復薬などでダメージが与えられるなんてことがあったりするが、レオン王子がそれに当てはまるとは思えない。
そもそも俺が投げたのはただの止血薬で、ゲームのように傷を回復させるような効果はない。
当然ながらレオン王子が既に死んでゾンビになっているからといって、ただの止血薬が弱点になっているなんてことはない……はずだ。
だが、レオン王子は投げられた瓶に怯えるように距離を取った。
あれだけ攻勢に出ていたはずなのに、どういうわけかレオン王子は追撃を仕掛けて来る様子はない。
「もしかして……」
本当にこの薬がキーアイテムとなるのか?
正直なところ絶対にあり得ないとしか思えないが、念のために瓶を再びポーチの中へ戻す。
「……とにかく、いざという時はもう一度これを投げよう」
『だね。なんならあの陰気臭い目に塗りたくってやろう』
「ハハハ、考えておくよ」
冗談はさておき、これからどうやって戦うべきか?
偶然にも光明が見えたような気もするが、それでも俺の格闘能力では今のレオン王子と戦うのは厳しい。
こうなるとやはりナイフでの戦いに切り替えるか?
そう結論付けるのは簡単だが、レオン王子がすぐに動き出さないようなので、とりあえずロキに相談することにする。
「ロキ、戦い方を変えようかと思うんだけど、どうかな?」
『えっ? ボクは今のままでいいと思うよ』
悲観的な俺とは対照的に、ロキは明るい声で話す。
『コーイチは上手くいっていないと思っているかもしれないけど、ボクから見たら、コーイチは凄いことをやっているよ』
「ほ、本当に?」
『本当だよ。ボクがガードしなくても、コーイチは反射的に体を動かしてダメージを最小限にし続けているから、すぐにでも相手の動きに対応できるようになるよ』
「そ、そうなのか? あんまり自覚ないんだけど……」
『フフフ、普段からシドにボコボコにされ続けていた甲斐があったってことだよ』
「なるほど……」
どうやらシドとの日々の鍛錬で、ダメージを軽減させる受け方が人知れず身に付いていたようだ。
『あいつはコーイチの攻撃に対して必ず左に避けて攻撃してくるから、それを踏まえれば反撃のチャンスがあるよ』
「わかった。ありがとう」
勇気づけてくれるロキの言葉に、俺は感謝の意を伝えながら頷く。
自分一人だとわからなかったが、ロキの見立てでは決して悪くなかったようだ。
「……避ける時は左側か」
言われてみれば、攻撃を受ける時はいつも右側だった。
利き腕、利き足の問題なのか、それとも癖なのかはわからないが、片側からしか攻撃されていないということすら気付けなかったのは、我ながら情けない。
俺みたいな弱者が猛者たちに勝つためには何よりも情報が大事、そしてそれを活かすために常に考え続けることが大事なのだ。
「よしっ!」
戦いの基本を思い出した俺は、拳を打ち鳴らして再び構えを取る。
「じゃあ、アドバイスを参考にもう一度仕掛けてみるよ」
『頑張って、コーイチならできるよ』
「ありがとう」
ロキのエールに力がみなぎってくるのを感じながら、俺は再度レオン王子へと突撃する。
「ウガ……」
走り出した俺を見て、レオン王子も両腕を上げて構えを取る。
足を開いてどっしりと構えているあたり、引き続きカウンター主体で戦うつもりなのだろう。
レオン王子がどう動くかを予測しながら、俺は再び牽制のジャブを繰り出す。
「シッ!」
短く息を吐き出して繰り出した素早い攻撃だったが、またしても当たる直前でレオン王子の姿が忽然と消える。
「いや……」
消えたように見えるだけで、素早く左へ跳んだだけだ。
ロキのアドバイスのお陰で状況を確認した俺は素早く右側へと視線を走らせる。
すると、右の側頭部目掛けて伸びて来る赤い軌跡と、足を振り上げるレオン王子の姿が見えたので、俺は両手をクロスさせて繰り出された蹴りをしっかり受け止める。
『やった! コーイチ、ナイス!』
「いや、まだだ!」
攻撃を受け止められるとは思っていなかったのか、レオン王子は蹴りを放った姿勢のまま固まっている。
すぐさま反撃を……と思うが、利き腕は攻撃を受け止めているし、蹴りを放てるほどの余裕はない。
ならばと、唯一自由に動かせる左手で腰のポーチへと手を伸ばす。
すると、
「ヒッ、ヒイイイイィィィ!」
「……えっ?」
レオン王子が悲鳴を上げたかと思うと、尻尾を巻いて一目散に逃げていく。
まだ何もしていないのに?
突然の事態に頭は混乱していると、レオン王子は逃げた先で自分の下腹部を抑えて蹲る。
「…………まさか!?」
それを見た俺の脳裏に、電撃が走ったかのようにある可能性が閃いた。




