成長過程
「うぐぅ……」
ガードの上から思いっきり蹴られた俺は、何度も地面に打ち付けられる痛みに顔をしかめながら、どうにか体制を整えようと地面に手を付く。
「うぎぎぎ……」
ロキの前脚の力もあって程なくして立ち止まることに成功する。
「……ペッペッ!」
口の中に入った土を吐き出しながら素早く前へと目を向けると、俺を蹴り飛ばしたレオン王子がくるくる回りながら着地したかと思うと、そのまま転ぶのが見えた。
倒れたレオン王子は、すぐさま起き上がって来るのかと思ったが、足をバタバタさせてもがいている。
どうやら肥大化した足を思うように動かすことができないようだ。
『コーイチ……ボク、あんなのに負けるなんて嫌だよ』
「奇遇だな。俺も全く同じことを考えていたよ」
足の肥大化が原因で起き上がれないことに気付いたのか、レオン王子は足を縮めて立ち上がっていた。
立ち上がったレオン王子は再び足を肥大化させるが、今度はさっきよりも細く、太さとしては常識の範囲内に収まっていた。
「ロキ、一つ気付いたことがある」
『何?』
こちらを見て来るロキに、調停者の瞳を発動させたまま気付いたことを話す。
「あのレオン王子は、成長途中なんだよ」
『成長途中?』
「ああ、そう呼ぶのが正しいかどうかわからないけど、レオン王子は俺たちにどうすれば勝てるのか試行錯誤しているんだ」
『だから極端に手を大きくしたり、足を大きくしたりしてるってこと?』
「そういうこと」
今のレオン王子には、おそらく自我というものはない。
既に死んでいるからか、それとも混沌なる者に支配されているからなのかはわからないが、とにかく自分で考えるということをしているようには見えない。
本能なのか、もしくはただの反応なのか、敵として現れた俺たちを見て何が最適解なのかを模索しながら姿形を変えているのだと思う。
だが、逆に考えればこれは非常に危険だと思う。
『コーイチ、決着を急いだほうがよさそうだね』
「だな」
同じ結論に至った様子のロキを見て、俺は深く頷く。
あの黒い霧が最適解を目指して形を変え続けると仮定した場合、少なくとも先程の変形で俺たちがあのスピードに対応できないという学習をしたはずだ。
となると次は、俺たちが防御も間に合わないような早い攻撃か、防御すら崩すような早くて重い一撃を繰り出してやろうと考えるはずだ。
そしてその二つをレオン王子側が見つけてしまった時、俺たちの勝利は完全になくなるだろう。
だからそうなる前に、決着を着ける必要があるというわけだ。
俺は腰を落として油断なく構えながら、ロキに静かに話しかける。
「ロキ、さっきの攻撃がもう一度来たら避けることはできるか?」
『わからない……けど、防ぐことならできるよ』
「十分だ。なら一旦防御はロキに任せていいか?」
『いいけど、何かいい策でも思いついたの?』
「いや、まだ何も思いついてない」
嘘を吐いても仕方ないので、正直に思っていることを口にする。
「だけど、動きながら必死に考える。相手が成長し続けるなら、それを上回ってどうにか打破するだけだ」
『……うん、いいね。わかった』
俺の考えを聞いたロキは、半透明の顔を近付けて来て頬擦りしてくる。
『防御はボクに任せて、コーイチは思いっきり動いて、あのバカを倒す方法を考えてね』
「ああ、任せてくれ」
正直なところ自信は微塵もないが、それでもやるしかないのだ。
俺はトントン、とステップを踏んで調子を確かめている様子のレオン王子に向かって突撃する。
相手の動きが早過ぎて目で追えないのなら、相手が動くより先に仕掛けるべきだ。
俺はファイティングポーズを取ると、相変わらずステップを踏んでいるレオン王子へ襲い掛かる。
「ロキ、いくよ」
『うん、やっちゃえ!』
いきなり大振りで仕掛けるような愚かな真似をしない。
「フッ!」
様子見をかねて牽制を含めた軽い攻撃、ジャブを繰り出す。
軽く素早い一撃は、風を切り裂きながらレオン王子の顔へと吸い込まれていく。
……当たる!
そう思った俺の一撃であったが、拳が当たる直前でレオン王子の姿が掻き消え、むなしく空を切る。
「……えっ? あがっ!」
突然の事態に驚く間もなく、右側頭部に強い衝撃が走って思わずよろけそうになる。
『しっかり。防御はボクがするから』
「あ、ありがとう。助かった」
ロキの献身的な防御に感謝しながら、今度はレオン王子の足元を狙う蹴りを放つ。
だが、またしても俺の攻撃が届く寸前でレオン王子の姿が消えたかと思うと、今度は左側頭部に衝撃が走る。
「うぐっ!」
『しっかり! 相手の攻撃事態は強くないから!』
「わかった!」
確かに受ける衝撃は弱いと思った俺は、今度は少し強引に、ダメージを受けながら攻めることにする。
だが、
「うぐっ!」
「がっ!」
「ぐはっ!?」
攻撃を繰り出す度にギリギリのところで回避され、カウンターで攻撃を受けてしまう。
しかも最後の一撃は後頭部による不意打ちで、思わず前へ倒れそうになる。
「クッ……」
反射的に踏ん張って耐えようと思ったが、それは危険だと判断して前へと倒れる勢いを利用して前方へと転がって受け身を取る。
同時に、背後から唸りを上げて何かが通り過ぎる気配がする。
「あ……ぶなっ!?」
あのまま踏みとどまっていたら首を刈り取られていた。
決して意固地にならない。決して無理はしない。というオヴェルク将軍の教えのお陰で命を拾えたことに感謝しながら、俺は這うように前方へと逃げ続ける。
だが、必死に逃げ続けるすぐ背後から、レオン王子の容赦ない追撃が降り注いでくる。
「おわっ! ちょ、ちょっとタンマ!」
思わず待ってくれと懇願してしまうが、当然ながらそんなことでレオン王子が止まるはずがない。
ヤバイヤバイヤバイ……
いくらロキがガードしてくれると言っても、何の対応策も思い付かずに、彼女にばかり負担をかけてしまうのは申し訳ない。
多少の鍛錬は積んでいたといっても、やはり俺の格闘技のレベルは実戦で使うにはあまりにもお粗末だった。
だが、それでもロキと同化している今は、この戦法が最も効率的なのだ。
何でもいい……せめて攻略のとっかかりだけでも見つけておきたい。
「な、何か何か……」
四つん這いになって何かないかと、必死に逃げながらにポーチの中をガサゴソと漁る。
そうしてたまたま触れたものを取り出した俺は、
「このっ!」
足を振り上げ、こちらを踏みつけようとしているレオン王子目掛けて放る。
投げたものがレオン王子の顔にヒットする直前、
「――っ!?」
彼は弾けたように顔を上げると、一目散に俺から距離を取っていった。




