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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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呼ぶ声の正体は?

「ソラ、俺たちの後ろに!」

「は、はい!」


 影の海に突如として訪れた変化に、俺はソラを背中に庇いながら降り注いでくる光を観察する。

 キラキラと輝く粒子と共に降り注いで来た光は、くるくると円を描きながら一定の場所に留まっている。


「コ、コーイチさん……あれは何でしょう?」

「わからない、とりあえず一旦様子を見よう」


 相手の素性どころか、敵か味方すらわからない中で闇雲に飛び出すわけにはいかない。


 せめて、いきなり攻撃をしかけてくるかどうかだけは確認しておきたい。


 リズムカルにくるくると回り続けている光の粒子たちを見ていると、禍々しいというよりは楽し気な雰囲気がして、一見すると危険はないように見える。

 だが、ここは光が一切届かないはずの影の世界であり、本来なら安心できるはずの光が、とんでもない危険をはらんでいるかもしれないのだ。


 何ならちょっと、巨大な蝶の鱗粉にも見えなくないしな。


「もしかして……」


 すると何かに気付いたソラが、光の粒子を見ながら可能性を呟く。


「また蝶が出て来て、影を消そうとしているのでしょうか?」

「いや、それはないよ」


 どうやら俺が思った結論に至ったのか、恐怖で震えるソラに安心させるように話す。


「陽が差して影が消える時は、見えない壁が陽が差した場所を塗りつぶすように押し寄せてくるんだ」

「それじゃあ……」

「安心して。もし影が消えるとしても、外に逃げるだけの余裕はあるから」

「そ、そうですか……よかったです」


 ホッと一息つくソラを見て、俺も思わず笑みをこぼしながら頭上で警戒しているロキに話しかける。


「ロキ、どう見る?」

『わからない……けど嫌な気配はしないから、近くに行って確認してもいいかもね』

「そうか……そうだな」


 確かにこのまま座して待つのは得策ではないだろう。

 それに俺もロキと同じように、あの光が何かやましい存在には思えなかった。


 俺は「ふぅ」と小さく息を吐くと、ソラに向かって笑いかける。


「というわけだから、ちょっと行ってみようか?」

「はい、お任せします」


 頷いてピタリと寄り添ってきたソラと手を繋ぐと、俺は光の方へ向けて影の海を泳ぐ。


 ただ決して急ぐことはなく、ゆっくりと……警戒をしたまま近付く。


「ロキ……」

『わかってるよ』


 何も言わずに俺の意図を察したロキは、ソラと手を繋いでいない左手に爪を立てる。


『戦闘になったら狙いはボクが付けるから。コーイチは思い切り手を振ることだけ考えて』

「ああ、任せた」


 それなりに訓練はしているが、利き腕ではない左手ではたいした戦果は期待できそうにないので、ロキに任せられることは任せてしまおう。



 戦闘についての簡単な打ち合わせをしながら、俺たちは尚もくるくると回り続ける光の粒子へと近付く。


「…………」


 警戒しながら音もなく移動し、手を伸ばせば光の粒子に触れるところまで来たが、回り続ける光に変化はない。

 思わぬ肩透かしに、ロキが俺のすぐ近くに顔を近づけて静かに話しかけてくる。


『コーイチ、どうする?』

「そう……だな」


 熱も何も感じない光を前に、俺はどうしたものかと頭を捻る。

 どうやらこの光は脅威となる存在ではないようだが、ならばどうして同じ場所で滞留しているのだろうか?


「……ええい」


 このまま見ているだけでは埒が明かないと、思い切って光の粒子へと手を伸ばす。


 すると、


「……ュ…………イ!」

「――っ!? 今のは……」


 脳内に響くような声が聞こえ、俺はハッと顔を上げる。


「今の声、聞こえた?」

「……えっ?」


 俺の疑問に、ソラはふるふるとかぶりを振る。


「何も聞こえませんでした。その光が何か言ったのですか?」


 そう言ってソラは光の粒子へと手を伸ばすが、光は彼女の手をするりと抜けるだけで触ることはできない。


「……やっぱり何も聞こえませんよ?」

『ボクにも何も聞こえなかったよ』


 ソラに続いて、ロキも半透明の手を伸ばして光へと降れる。


『ボクも触れないし聞こえない……コーイチと繋がっても違うこともあるんだね』

「本当に?」

『うん、それよりコーイチには何が聞こえたの?』

「それは……」


 ロキの質問に応える前に、俺は念のためにもう一度光の粒子へと手を伸ばす。


「…………キ…………ュイ!」


 再び声を聴いた俺は、ソラの腰を抱いて地上目指して一気に浮上する。


「コ、コーイチさん?」

「大丈夫。わかったんだ」


 突然の事態にびっくりしながらも寄り添ってくれるソラに、俺は浮上しながら聞いた声について話す。


「あの光は、俺を呼んでいたんだ」

「コーイチさんを?」

「ああ、俺たちをあの竜巻の中に届けるために、皆で手伝いに来てくれたんだ」

「手伝い……み、皆?」


 ソラはまだよくわかっていないようだが、ここで説明するよりも実際にその目で見てもらった方がいい。



 俺は逸る気持ちを抑えながら、影の海から外へと飛び出す。


「皆!」


 影から飛び出した俺が声をかけると、


「キュイ」

「キュキュゥ!」

「キュイ、キュ~イ!」


 砂漠の海で出会った異種族の友、砂漠イルカたちが再開を喜ぶように大きく跳ぶのが見えた。

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