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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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影の中でも

 地面にぶつかる衝撃はなく、俺たちは音もなく黒の海へと落ちる。


 ただ、かなりの高度から落ちたため、俺たちの体はかつてないほど地面の底へと落ちていく。


 影の中は重力がないので無限に落ちていくのか? という錯覚に陥るが、十数メートルも落ちたところでようやく止まる。


「ふぅ……」


 頭が下のままだったので、くるりと回って一息吐いた俺は、腕の中でギュッと目を閉じてしがみついているソラに話しかける。


「ソラ、もう大丈夫だよ」

「…………コーイチ…………さん?」


 おそるおそる目を開けて一度俺の顔を見たソラは、周りをキョロキョロ見渡してもう一度こちらに顔を向けたかと思うと、目からボロボロと涙を零す。


「ふぇ……」

「えっ、ソラ?」


 何事かと混乱する俺に、ソラは胸に顔を擦りつけながら叫ぶ。


「怖かった……」

「えっ?」

「あんな高いところから落ちて……掴むものが何もなくて……怖かったよおおおおおおおおおぉぉぉぉ……」

「ああ、そうか……」


 そこで俺はソラの涙の意味を知る。


 思い起こせばソラは、巨大な蝶と決着のためにロキによって大空へと無慈悲に投げ飛ばされ、そのまま地面を突き抜け、この影の海へと落とされたのだ。

 どんな絶叫マシンよりも怖い目に遭ったのだから、ソラがこうして泣きじゃくってしまうのも無理はない。


「よしよし、大丈夫だから。怖い目に遭わせてゴメンな」


 俺はソラが落ち着くまで、彼女の背中を優しく撫で続けた。



 しばらくして落ち着いたのか、ソラが泣き止んだところで俺は自分とロキに起こったことを伝えた。


「そうなんですね。やっぱりコーイチさんの後ろにロキが見えたのは錯覚じゃなかったんですね」

『うん、ちょっと変な感じだけど、ボクは無事だから安心していいよ』


 俺の後ろに背後霊のように控えるロキは、半透明の体を伸ばしてソラの顔を舐める。


『それに、こうしてソラとお話できて嬉しい』

「私も、コーイチさんやミーファはいつもこんな感じで話しているんだね」

『うん、そうだよ』


 いや、普段は「わん」の中に何となく言いたいことが伝わって来るだけで、こんなにハッキリと伝わっていないよ。


 ということは今後の関係のためにも言わぬが花だと思うので、俺はソラとじゃれ合っているロキに話しかける。


「ロキ、そろそろナイフを返してもらっていい?」

『あっ、そうだね』


 そう言われて思い出したのか、ロキは尻尾を俺の前に差し出してくれる。


『はい、大切なナイフが無くならなくてよかったね』

「ああ、ありがとう。本当によかった」


 恭しくナイフを受け取った俺は、刃こぼれや汚れが付着していないのを確認して、鞘に戻して腰のベルトに落ち着ける。


 うん、この重さ……実家のような安心感があるな。


 ロキと一つになって爪という強力な武器は手に入れたが、それでもこれがあるとないとでは心の持ちようが違う。

 もう自分の一部と言っても過言ではない腰の重さに、俺は自然と笑みがこぼれるのを自覚する。


「……よしっ!」


 今一度気合を入れ直した俺は、こちらを伺っているソラたちに向き直る。


「それで、ようやくここまで来たんだけど……」


 そう言って見やる先は、黒い竜巻がある方向だ。


「移動……してますね」

「ああ、してるな」


 ソラの呟きに頷きながら、俺は驚きが隠せなかった。


 一見すると真っ暗闇の世界なのだが、視線の先、黒い竜巻があると思われる場所が激しく渦を巻いているのが感覚としてわかった。


 ならばと下の方まで目を向けてみるが、渦は底の底の方まで続いているようだった。


 まだ距離が開いているので、俺たちがいる場所にまで影響は出ていないが、近くに行けば上空に吹き飛ばされたように激しく攪拌(かくはん)されるかもしれない。


 この影の海に入れば、何の障害もなく黒い竜巻の中心に行けると思ったのだが、影の中にまで竜巻の影響があり、しかもエルフの森に向けてゆっくりとだが、着実に前進していた。


 流石に再び空に巻き上げられるとは思えないが、何かしらの対策を講じなければ中にまで辿り着けそうにないと思った。


「ふむ……」


 無策で突っ込むわけにはいかないので、俺はソラたちに相談することにする。


「どうしようか、何かいい案とかあったりする?」

「そう言われましても……ロキは?」

『むぅ……ちょっと難しい』


 俺の質問に、ソラもロキもお手上げといった様子で小さくかぶりを振る。


「ソラ、ちなみに精霊の力で何とかなったりとかは?」

「……ダメです。ここは精霊の力が及ばないようで、何の声も聞こえないです」

「そう……か」


 何となくそんな気はしていたが、やはりここには精霊の力も及ばないようだ。

 ヴォルフシーカーを使えばどうにかなると思っていただけに、ここで足止めされると困ってしまう。

 こうなったら、覚悟を決めて正面からあの渦に突撃していくしかない。


 そう思った矢先、


「あっ、コーイチさん!」


 何かに気付いたソラが、俺の服を強く引っ張ってくる。


「あっちを見て下さい。あそこに……影の中に光が……」

「えっ?」


 声に驚いてソラが指さす方向へ目を向けると、真っ暗闇の影の海に、地上から光が降り注いでくるのが見えた。

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