人狼一体
「ロキ!?」
反射的に声のした方へと振り向く俺だったが……、
「ロ、ロキ、何処にいるんだ?」
そこに巨大狼の姿はなく、さっきの声は幻聴だったのではないかという焦りが生まれる。
『そっちじゃないよ。こっちだよ』
今度は逆側の耳元から声が聞こえ、慌てて振り向くが、やはりロキの姿は見えない。
「ロキ……」
やはり悲しみに押し潰されそうな俺の幻聴だったのかと思って堪らず顔を伏せると、頬をペロリと舐められる。
『泣かないで。ボクはここにいるよ』
その声にゆっくりと顔を上げると、今度こそ俺の目にロキの姿が映る。
「ロキ!」
今度こそ見えたロキの姿に、感極まって抱き着こうとするが、俺の手は虚しく空を切り、そのままの勢いで前に倒れる。
「ぶべっ!?」
『だ、大丈夫?』
受け身も取れずに顔から突っ込んだ俺に、案じるような声が背後から聞こえる。
『今、ボクはコーイチと一つになっているから、触ることはできないよ』
「……えっ、本当に?」
俺とロキが一つに?
その言葉に少し冷静になってみると、半透明の何かが自分の身体を包み込むように覆っているのに気付く。
しかもよく見れば、俺を覆っている半透明の何かは巨大な狼の形、ロキの形をしていることに気付く。
確かにロキが言う通り、俺たちが一つになっているように見えるが。
だが、
「ロキは……ロキは大丈夫なのか?」
俺を覆っているロキの体は半透明で、傍から見たら幽霊が取り憑いているようで、姿が丸々消えてしまった巨大狼の安否が気になってしょうがない。
「まさか、俺に取り憑いて体は死んでしまったなんてことはないよな?」
『大丈夫だよ。怪我したところも今はコーイチに支えてもらっているから、凄く楽なんだ』
「……じゃあ、後で治療してもらったら、命の心配はないんだな」
『うん、それについては大丈夫だから安心して。心配かけてゴメンね』
ロキは俺を安心させるように、首を伸ばして俺の頬をなめる。
『それに、コーイチからは触れなくてもボクの方からは触れるから、辛くなったらいつでも慰めてあげるからね』
「そ、そう、ありがとう」
一方的に触られるのはあまりいい気はしないが、ロキが無事なら何よりだ。
普段は大雑把に言っていることを理解できるだけだったが、ロキって実はボクっ娘だったんだな。
なんて考えられるくらい余裕が出てきた俺は、ロキと一緒になって何だか一回り大きくなったような体を起こしながら相棒に話しかける。
「ロキ、ソラを助けよう」
『うん、ボクも力を貸すから一気に蹴散らそう』
ロキがそう言うと、俺の両手を覆う半透明のロキの前脚から鋭い爪が生えてくる。
『敵を倒すときはボクの爪を使って。いつもの武器とは勝手が違うけど、今のコーイチなら余裕で倒せるはずだよ』
「わかった。やってみる」
今の俺ならという言葉に引っ掛かりを覚えたが、一刻も早くソラを助けたい。
右目に意識を集中させ、調停者の瞳を発動させる。
「ロキ、いくよ!」
『任せて、アオオオオオオオオオオオオオオォォォン!』
ロキの遠吠えを合図に、俺は繭を運んでいる芋虫に狙いを定めて前へと出る。
「……えっ?」
一歩踏み出した瞬間、予想より遥かに前へと進み出たことに俺は困惑する。
「ちょっ……まっ!?」
たったの数歩で一気に距離を詰めてしまったことに、俺は焦りを覚えるが、
『コーイチ、右手の爪を思いっきり振るって』
「わ、わかった!」
まだ頭が混乱しているが、ロキの声に従って思いっきり右手を下から突き上げるように振りぬく。
すると、目の前に突風が吹いたかと思うと、繭を運んでいた四匹の芋虫たちが大きく吹き飛ぶ。
「え、ええっ!?」
『コーイチ、ボーッとしないで。目が動くから見て!』
「あ、ああ……」
戸惑いはまだあるが、今は目の前の敵をどうにかする方が先決だと、伸びてきた赤い軌跡に注意しながらもぞもぞと動く繭を担ぐ。
ロキと一つになって筋力が増加しているからか、羽のように軽い繭の重さに驚きながらも、大きく後ろに跳んで続いてやってきた爆発を回避する。
……大丈夫、ちゃんと自由騎士の力も使える。
自分のスキルが問題なく発動するのを確認しながら、俺はぐるぐる巻きとなっている繭へ爪を走らせる。
「……ぷはぁっ!」
予想通り、繭の中からソラが顔を覗かせ、こちらを見て目を真ん丸に見開く。
「コーイチさん……えっ、あれっ? ロ、ロキ!? ど、どういうこと?」
「ごめん、今は詳しく説明している暇はないんだ」
俺の顔がどう見えたのか気になるが、俺はソラを繭から出してやりながらどうするべきか考える。
「とにかく、まずはあの爆発をどうにかしなければならないな」
『だったら真ん中に移動しよう』
俺の呟きに、半透明となったロキから声がかかる。
『あの爆発は、翅の中から出てくる粉が大きく燃えているんだ。だから翅の上から移動すれば、安全なはずだよ』
「わかった」
ロキの指示に従い、俺は大きく跳んで巨大な蝶の胴の上へと移動する。
「……よっと」
たった一度の跳躍で巨大な蝶の胴へ移動した俺は、胸の中で小さく縮こまっているソラへと話しかける。
「ソラ、大丈……おっと」
その時、巨大な蝶が大きく羽ばたき、足元が大きく揺れたので慌ててその場で踏ん張る。
強風が容赦なく体を叩き付けるが、風の精霊の加護もあって吹き飛ばされることはない。
「な、何が……」
激しく脈打つ胴体に、いったい何が起きたのかと思っていると、
『コーイチ、上を見て!』
ロキの鋭い声が聞こえ、反射的に顔を上げる。
すると、
「……んなっ!?」
激しく羽ばたいた影響か、上空に舞い上げられた大量の鱗粉が渦となって滞留しており、そこに向かって赤い軌跡が伸びていくのが見えた。




