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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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命を繋げる秘術

 水の精霊からの思わぬ提案に、俺は思わず手を放して喜びそうになるが、すぐさまロキの巨体がずり落ちてくるのを察知して慌てて支えに戻る。


 素直に喜びたい気持ちもあったが、それより先に気になることがあった。


「ど、どうして精霊の声が? 今まで聞こえなかったのに……」

『それはボクが、キミの中にいたからだよ』


 俺の疑問に、水の精霊はまるでトンネルの中にいるようなよく響く声で話す。


『キミと一緒にいたから、キミの中にボクとの繋がりができたからお話ができるようになったんだよ』

「そうなんだ……」


 頭に直接語りかけるような響きに、少し頭痛を覚えながらも、もう一度確認する。


「それよりロキを助ける方法があるって本当?」

『本当だよ……でも、これはとても危険な方法なんだ』


 水の精霊は、これから怖い話をするかのように薄暗くなる。


『ところでキミは、命を繋ぐ命約というのを知ってるかい?』

「メイ……ヤク?」


 響きから何かを固く誓う『盟約』という単語が思い浮かんだが、前に置かれた言葉からきっと違うだろうと判断する。


「よくわからないけど、その命約を行えば、ロキを助けることができるんだな?」

『うん、だけど絶対じゃない。それに何度も言うけど、とっても危険なんだ』


 そう前置きして、水の精霊は命を繋ぐ『命約』について教えてくれる。


 命約とは、どんなものにも自在に溶け込むことができる水の精霊の秘術で、一言でいえば二つの命を繋げて、今にも消えそうになっている命を繋ぎとめることのようだ。

 準備としては互いの体に水の精霊を宿しておく必要があるということだが、これは俺もロキも要件を満たしているので問題ない。


 ただ、命約は誰でも結べるというわけではなく、二人がとても強く互いを想い合っていること、もう片方が消えそうな命を支えられるほどの健康体であることが必要だという。


『後は命を結んでいられる時間も長くないよ。キミとこのガルムでは、器の大きさが違いすぎるからね』

「長くてどれくらい持つんだ?」

『そうだね……最長でも日暮れまでに元に戻らないと戻れなくなるよ』

「日暮れ……」


 思ったよりも短い時間の提示に、俺は思わず陽の高さを確認する。


「元に戻れなくなると、そんなに危険なのか?」

『うん、とっても。君の小さな体では、ガルムの大きな命はとてもじゃないが賄えないんだ。心が破裂して、あっさりと死んじゃうよ』

「死……」


 心が破裂して死んでしまうとはどういうことかと思うが、とにかくロキを助けるためには命約を結ぶしかないのは間違いない。


 他に妙案がない以上、俺は藁にも縋るしかないのだ。


 俺は覚悟を決めると、水の精霊に向かって頷く。


「わかった。それじゃあ、ロキと命約を結ぶ方法を教えてくれないか?」

『うん、それじゃあガルムから承認をもらって』

「わかった」


 といっても支える手を止めるわけにはいかないので、俺はそのままの姿勢でロキに話しかける。


「ロキ、状況は理解してるな? 俺と命約を結んでくれないか?」

「ク~ン……」


 俺の提案に、ロキは「でも……」と戸惑ったような声を上げる。


「わん、わふぅ……」

「気にしなくていいよ。危険なのは今に始まった話じゃないからさ」


 こちらの身を案じてくれるロキに、俺は気にしていないとかぶりを振ってみせる。


「それに、ロキは今まで何度も俺のことを身を挺して助けてくれたじゃないか。だから今までの恩を少しでも返させてくれ」

「……キュ~ン?」


 俺の言葉に、ロキは感極まったようにボロボロと鳴きながら「いいの?」と問いかけてくる。


「何言ってんだ。当然だろう」


 俺はロキの体にピタリと身を寄せて体全体で支えると、手を伸ばして彼女の頬を撫でる。


「俺たち、家族だろう? だからとっとと敵を倒して、ソラと一緒に帰ろう」

「……わん」


 鼓舞するように声をかけると、しばらくしてロキは「わかった」と小さな声で呟く。


「わんわん」

「うん、勝とう」


 ロキから承認を得た俺は、すぐ近くで漂う水の精霊に話しかける。


「俺たちの覚悟は決まった……やってくれるかい?」

『うん、わかった。それじゃあキミたち、もっとピタリとくっついて』


 その言葉に従ってロキの体に寄り添うと、水の精霊が一度大きく明滅する。

 俺の胸のあたりがぼんやりと光り出したかと思うと、ロキの胸の辺りもぼんやりと淡い水色に光り出す。


『じゃあ、今から命約を結ぶから、互いのことを強く想って』

「強く想う?」

『ガルムを助けたいって願うんだ。そしたら後はボクたちがどうにかするから』

「わかった」


 具体的な方法を聞いた俺は、ロキの胸に額を当てて目を閉じる。


「ロキ……」


 泰三を除けば、この世界に来てから最も付き合いが長い種族を超えた大切な仲間であり、大切な家族……、


 ロキがいない異世界生活なんて、もう考えられない。


 君を助けるためなら、俺はなんだってやってやる。


 だからお願いだ。


 俺と命約を結んで、この戦いを一緒に乗り越えよう。


 俺の願いに応えるように、光がどんどん大きくなっていく。

 同時に、俺の心の中に自分のとは違う何かが、入り込んでくるような気配がする。


 だが、決して嫌な気持ちじゃない。


 いつでも傍にいてくれるような、包み込んでくれるような温かな優しさに、俺は逆らうことなく身をゆだねることにする。


 そう……それはまるで、俺とロキが一つになって境界がなくなっていくような……、


 次の瞬間、目の前が一際大きく光ったかと思うと、必死に支えていたロキの巨体の感覚がなくなる。


「おわっ!?」


 手を伸ばしてどうにか転ぶことは避けられたが、


「……ロキ?」


 目の前にいたはずのロキが忽然と姿を消してしまったことに、俺は顔から血の気が引いていくのを自覚する。


「お、おい……」


 これは一体どういうことかと水の精霊に説明を求めようにも、すぐそこにいたはずの光の玉の姿も見えない。


「まさか……」


 命約とやらは失敗したのか?


 俺の祈りが足りなかったから?


 そして水の精霊は命約を結ぶことに失敗したことで、いなくなってしまったのか?


「そ、そんな……」


 最悪の事態に、思わず膝を付いてがっくりと項垂れる。


「ロキ……皆……ごめん」


 大切な家族を救えなかったことに、涙を零すと、


『大丈夫、ここにいるよ』

「……えっ?」


 すぐ耳元でロキの声が今まで以上にハッキリと聞こえ、俺はハッ、と顔を上げた。

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