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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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翅の上の戦い

「い、いつの間に……」


 少なくとも飛び降りる前にはいなかったカブトムシの幼虫を思わせる芋虫の登場に、俺は背中に冷たいものが走るのを自覚する。


「ど、何処にあれだけの芋虫が隠れていたんだ」

「わんわん!」

「えっ、翅の中からだって?」


 ロキからの指摘に俺は巨大な蝶の翅へと目を向ける。

 蝶の翅といっても、近くで見ると目が疲れて来そうな青と、血管のように走る白い筋が……、


「あっ!?」


 そこで俺は翅の上のある異変に気付く。

 翅の上に走る白い筋の一部に穴が開いていると思ったら、そこから芋虫たちがワラワラと湧いて出てくるのが見えた。


「ま、まさか……あの筋が芋虫の住処だったりするのか?」

「わんわん!」

「――っ!?」


 答えを確認する前に、ロキからの「来るよ!」という鋭い声が聞こえて来て、俺は調停者の瞳(ルーラーズアイ)を発動させて回避行動を取る。


「よっ、ほっ……おわっと! あぶねぇ……」


 周囲の芋虫たちから次々と吐き出される白い糸を辛うじて回避しながら、俺はロキに向かって叫ぶ。


「ロキ、どうする? 何かいい策でもある?」

「わん!」


 俺からの質問に、ロキは「決まってる!」と元気に応えると、迷うことなく巨大な蝶の翅に向かって飛ぶ。


「ロ、ロキ!?」


 本気か? と思うが、ロキは難なく青空のような翅の上に着地すると、近くにいた芋虫を足で踏み潰す。


 どうやらロキとソラの体重が乗っても巨大な蝶の翅はビクともしないようで、巨大狼は次々と芋虫たちを潰していく。


「わんわん!」

「わ、わかった。躊躇わず思いっきり……だな」


 ロキからの応援を受けて、勇気を出して俺も反対側の翅の上に飛び乗る。


「…………だ、大丈夫か」


 意外にもしっかりとした足場に胸を撫で下ろしながら、俺は腰からナイフを抜いて構える。


 次々と飛んでくる白い糸を回避しながら、俺は芋虫へと肉薄する。


 遠目に見るとわからなかったが、芋虫は全長が四十センチほどもある今まで見たどの幼虫よりも大きく、ギチギチと不気味な音を立てる口に噛まれたら、俺の手足など簡単に噛み砕かれてしまいそうだった。

 この世界に来る前の俺だったら、こんなデカい虫を見ただけで悲鳴を上げて逃げ惑っていただろうが、今となっては巨大な芋虫程度では悲鳴の一つも上げることはない。


「……フッ!」


 芋虫との距離を一気に詰めた俺は、短く息を吐きながらナイフを勢いよく振り下ろす。

 正面からの攻撃なのでバックスタブのスキルは発動していないが、うどんからの指示で研いだナイフは、易々と芋虫の体に吸い込まれる。


「――っ!?」


 思ったより柔らかい嫌な感触に鳥肌が立つが、俺はナイフを刺し過ぎないように慌てて引く。

 傷口から噴き出した緑色の血を触らないように気を付けながら、俺は刺した芋虫の背に足の裏を乗せる。


「このっ!」


 思ったより重い手応えに苦戦しながらも、蹴り飛ばした芋虫はゴロゴロと転がりながら翅の上から落ちていく。


 ひとまず翅の上でも問題なく戦えることに一息吐きたくなるが、


「……危なっ!」


 すぐさま追加の糸が飛んで来るのが見えたので、俺はその場から飛び退いて回避して、続いて二匹目の芋虫を同じように刺し、翅の上から蹴り落とす。


「…………ふぅ」


 正直、この戦い方あまり得策とは言えないな。


 蹴り飛ばした感触から、芋虫の体は五キロ近い重さがあると思われる。

 それだけの重さの相手を翅の上から蹴り落とし続けるのは、いくらなんでも体力が持たない。


 そして何より……二回、たったの二回の突きを繰り出しただけで、ナイフの切れ味が明らかに落ちたのを自覚する。

 ナイフの切れ味が落ちる原因は、刃に血や油などが付着することの他にも、斬る時に捻ったり、横方向に力が加わったりと理由は様々だ。


 ただ、俺のバックスタブのスキルで攻撃した場合は、どういう理屈かはわからないが、ナイフの切れ味が落ちることは全くなく、何度だって刺すことができる。


 まだまだ芋虫を倒さなければならない以上、この先に本命が待っている以上、ナイフの切れ味が落ちるのは避けたい。


「ふぅ、だったら……」


 ここで下手に道具を温存してもしょうがないと判断して、俺はポーチから火炎瓶を取り出して火を点ける。


 次の瞬間、俺の視界に物凄い数の赤い軌跡が伸びて来るのが見える。


「そうだよな。やっぱりお前たちにとって火は怖いよな」


 最初に火炎瓶を取り出した時に、油断する俺ではなく真っ先に瓶を撃ち落としたのも、それだけ火が芋虫たちにとって脅威だったからだろう。


「おっと、よっ……はっ!」


 芋虫たちから次々と吐き出される糸を回避しながら、俺は火炎瓶を投げる場所を探す。

 狙うなら確実に有効な一打にしたいけど、変なところに火を点けて自分が危機に陥るのは避けたい。


 となると狙う場所は、俺から遠い場所で、さらに芋虫たちが対処せざるを得ない場所……、


「となると、やっぱりあそこだよな」


 俺は一斉に吐き出された糸を大きく跳んで回避したところで、


「ジロジロ見てんじゃねえよ!」


 何処までもこちらを見ているような黒い模様目掛けて、火炎瓶を思い切り投擲した。

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