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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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遂行できない作戦

「……えっ?」

「わふっ!?」


 ソラから聞こえた言葉に、俺とロキは揃って目を見開いて意気揚々と鼻息荒くしている彼女を見る。


「ソ、ソラ……今、何て言ったの?」

「ロキに竜巻に向かって突撃してって言ったんです。それで上空からコーイチさんの自由騎士のお力で、一気に倒しましょう」

「…………」

「大丈夫です。あの蝶さえ倒せば、空は曇天に覆われるはずです。そうすればヴォルフシーカーで影に潜れますから、落下して死ぬ心配もなくなります!」


 聞き間違いかと思ったけど、そんなことなかった。


 細かいことはわからなくとも、ソラの言わんとすることをニュアンスとして理解したロキは、困ったように「どうするの?」と俺の方を見る。


 俺はロキに「ちょっと待って」と目で言いながら、ソラに事の真意を尋ねる。


「ソラ、まずは何をするのか説明してくれないか?」

「えっ? あっ、はい、そうですね。いきなり過ぎましたね」


 自分でも性急だったと気付いたソラは、恥ずかしそうに赤面して思い付いた作戦を話す。


「あの蝶を倒すのに、攻撃が届かないのならこっちから行けばいいと思って……」

「それで黒い竜巻を使って空に舞い上がろうと?」

「はい、あれだけ高く飛び上がれるのなら、後はタイミングだけだと思うんです」

「思うんですって……さっきの虫人たちの惨劇を見ただろう」


 確かに黒い竜巻に巻き込まれれば、上空に舞い上がることができるかもしれない。

 だが、舞い上がる途中で全身をもみくちゃにされ、骨という骨が折れ、死に体にされた挙句に上空から地面に叩きつけられて死ぬ未来しか見えない。


 ソラも同じものを見たはずだし、黒い竜巻の脅威を十分にわかっているはずなのだ。

 賢い彼女がそのことを理解していないはずがない。


 ……ということは、


「もしかして、竜巻に入っても大丈夫な方法でもあるの?」

「はい、風の精霊たちに手伝ってもらいましょう」


 そう言ってソラが手をかざすと、緑色の光の玉が現れる。


「この子たちがいれば、竜巻の中でもある程度風を制御できるはず……です」

「確証はないんだ?」

「それは、すみません……ただ」


 ソラはシュン、と肩を落として気落ちしたかと思ったら、顔を上げて真っ直ぐ俺の方を見る。


「私、風の精霊の使役には自信があるんです。この子たちの力を上手く引き出して、コーイチさんたちを守ってみせます」

「そう……」


 いきなりの提案でソラらしくないと思ったが、得意分野で活躍できると思ったから、少し舞い上がってしまったようだ。


「ダメ……でしょうか?」

「いや、そんなことないよ。ありがとう」


 不安そうな顔のソラに、俺は笑顔で礼を言う。

 正直なところ、蝶に対してこれといった策があるわけではなかったし、ソラが示した作戦も悪くない。


「でも、ソラの案には二つ大きな問題があるんだ」


 そう言って俺は、ソラに作戦の問題点を提示する。


 一つは、俺がバックスタブのスキルであの蝶を確実に倒せるかどうか。


 バックスタブは強力だが、相手が即死するわけではなく、死ぬまでに時間がかかるということ。特に大きな生物になるほど生命力が強く、しかも虫のように体が半分になっても生きているような生物相手では、落下するまでに空間を元に戻せるかどうか怪しい。


 そしてもう一つ、問題としてはこっちの方が大きい。


「忘れてるかもしれないけど、ヴォルフシーカーで一緒に影に潜れるのは、俺ともう一人だけだよ」

「あっ……」


 そう言われてソラは、自分の作戦の致命的な欠陥に気付く。


 そう、借りに全て上手くいったとしても、影の中に逃げられるのは俺とロキ、俺とソラのどちらか片一方で、残された方は落花死は免れない。

 そして、俺はスキルを使う上で必須で、ソラは混沌なる者の分体を倒すために死なせるわけにはいかないので、ヴォルフシーカーの対象から外れるのは、ロキということになる。


「――っ!? ロキ、ごめんなさい!」


 ロキに対して死ねと命令していたことに気付いたソラは、顔を青くさせて巨大狼に謝罪する。


「私、何もわかってなかった。あなたを失う作戦なんて絶対にダメだよね」

「……わん」


 ソラの謝罪に、ロキが静かに「気にしないで」と言うと、走りながら首だけ動かしてこちらを見る。


「……ロキ?」


 よく見れば愛らしい大きな瞳に見つめられた俺は、嫌な予感がして思わず息を飲む。



 暫く俺と目を合わせていたロキは、正面を向いて小さな声で呟く。


「……わん」

「ロキ!?」


 ロキからの「いいよ」という小さな呟きに、俺は慌てて詰め寄る。


「何言ってんだ。お前、その言葉の意味わかって……」

「わん!」

「ロ、ロキ?」


 ロキは俺の言葉を遮るように一声鳴くと、静かに歩き出す。


「……わふっ、わん」

「えっ? もう次はないって……あっ!?」


 一歩踏み出したロキの様子が何かおかしいと思った俺は、前を見てあることに気付く。

 ロキの右前脚の地面が赤く染まっていると思ったら、彼女の右脚に大きな裂傷があり、そこから止め処なく血が流れていたのだ。


「ロ、ロキ、どうした。大丈夫か!?」

「わんわん!」


 慌てて飛び降りようとする俺を、ロキは「降りないで!」と強い口調で止めてくる。


「わんわん、わん!」

「た、確かに危険なのはわかるけど、でも、どうするんだよ」

「わん!」


 ロキは決まっていると吠えると、黒い竜巻へと顔を向ける。


 ま、まさか……、


「おい、ロキ……」


 よせ! と声をかけるより早く、巨大狼は痛むはずの脚に鞭打って走り出す。


「わん、わんわん!」


 ロキは「今までありがとう」と胸が締め付けられるような想いを叫びながら、黒い竜巻に向かって突撃し始めた。

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