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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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違和感を探せ

 ソラによる魔法……ではなく物理的な援護のお蔭で、俺はこれまでにない戦い方をできるようになった。


「わんわん!」

「わかってる!」


 ロキの「狙えるよ!」という指示の声に従い、俺は上半身を大きくひねり、さらに身を乗り出してナイフを構える。


 身を乗り出し過ぎたせいで天地が逆になり、普通な重力に従って落ちるところだが、ソラが俺の左手をしっかり握ってくれているので、彼女を信頼して全体重を預ける。


 ロキの背中という不安定な場所であるにも拘らず、まるで巨木に掴まっているかのようなどっしりとした安定感に、俺は虫人たちの体に浮かんだ黒いシミに向かってしっかりと狙いを定める。


「……シッ、フッ!」


 短く息を吐いて投げナイフを間髪入れずに投げ、次々と黒いシミへと命中させていく。

 そのまま手持ちの投げナイフがなくなるまで投げ続け、七体の虫人を倒すことに成功する。


「……ラスト! ソラ!」

「はい!」


 最後の投げナイフを投げ終わると、ソラが引っ張って俺を再びロキの背中に落ち着かせてくれる。


「コ、コーイチさん、凄いです。ナイフがまるで魔法みたいに……」

「ハハッ、ありがとう。ソラのお蔭で集中できたからね」


 だが、これで遠距離攻撃をするための手立てはなくなってしまった。

 残るナイフはメインで使っている一本のみだが、まだ戦闘は続くだろうから流石にこれを投げるわけにはいかない。


「さて、これからどうするべきか……」


 再び雷による攻撃が始まったので、ロキに回避に専念してもらいながら俺は今後について考える。


 まだ虫人は残っているが、とりあえず近くの敵は撃退することに成功したので、ロキの速度もあるし少しは時間を稼げそうだ。

 今のうちに何本か投げナイフを回収しておきたいと思うが、雷がいつ落ちるかわからないので、下手にロキの背から降りるわけにはいかない。


「わん!」


 そうこうしている間にロキから「来るよ!」という声が聞こえたので、俺とソラは揃って衝撃に備える。


 ロキが大きく跳ぶと同時に再び落雷が発生し、地面に穴を開ける。


「…………やっぱりダメか」


 既に何度も雷が落ちるのを目の当たりにしているのに、俺には調停者の瞳(ルーラーズアイ)の効果は発動しない。


 流石にここまで来ると、俺に問題があるだけとは思えない。


 黒い竜巻に近付こうにも、下手に近付いて落雷の勢いが増すとなると、ロキはともかく俺とソラのどちらかが最後まで耐えられるかわからない。

 こんな時こそヴォルフシーカーで移動できればと思うが、雲一つない青空では影がないので移動もままならない。


「もしかして……」


 そこで俺は気付く。

 この青空は、俺のスキルを封じるためにあるのではないかと。


 何故なら黒い竜巻に近付いたところで、強風で俺の声がレオン王子に届くかどうかわからない。

 元々の作戦でも、ある程度近付いたらヴォルフシーカーを使って黒い竜巻の内部へと入り込む算段となっていた。


 強風渦巻く竜巻の内部に突撃なんてして大丈夫なのか? と思うかもしれない。


 ……正直なところ、これに関しては一か八かの作戦だ。


 竜巻より遥かにスケールが大きい台風には、中心部分の風が弱く、雲も少ない台風の目と呼ばれる箇所がある。

 通常の竜巻にも台風の目のように風の弱い箇所はあるそうだが、その規模は小さく、人が安全にいられる保証は殆どないらしい。


 だが、あの中にレオン王子がいるとなると話は変わって来る。


 ソラが言う通り中にレオン王子がいるのなら、少なくとも竜巻の中心は安全なはずだ。

 もし、あの黒い竜巻が俺とレオン王子を会わせないために存在している壁だとしたら、ヴォルフシーカーというスキルは、混沌の勢力からしたら脅威になること間違いない。


 確信があるわけではないが、自由騎士のスキルがまともに機能しないこの空間が異常なことだけは間違いない。


 何か……何かないのか?


 この空間をどうにかする打開策はないかとキョロキョロ辺りを見渡すが、透き通るような青空以外には、禍々しいほどに渦巻く黒い竜巻と、こちらに向かって来る虫人たち……、


「コーイチさん、どうしましたか?」


 何かを探すように周囲を見渡す俺に、ソラが不思議そうに尋ねてくる。


「何か気になることでもあるのですか?」

「いや、気になるものがないかと探しているんだ」

「えっ?」

「ああ、つまりだね……」


 首を捻るソラに、俺はこの場所に違和感を覚えていること、それを確かめるための打開策を講じていることを話す。


「だから何か何かと探しているんだけど、ソラはこの場で何か変に思ったこととかない?」

「変……ですか?」


 ソラは「変なこと……変なこと……」と呟きながら首を巡らせ、鼻をヒクヒクさせる。


 目だけでなくにおいでも違和感を探すあたり、流石は狼人族(ろうじんぞく)だな、なんて感心していると、


「あっ……」


 ソラの頭の上の三角形の耳がピクリと反応して、森とは反対側へと目を向ける。


「何か気付いたの?」

「えっ? あっ、はい……ちょっとしたことなんですけど」


 そう前置きして、ソラは気になったということを話す。


「僅かですが、あっちの方から風を感じたんです」

「風?」

「それと、妙なにおいも……何て言うか、ちょっと甘い感じの」

「甘い……」


 思わずソラの真似をしてクンクンとにおいを嗅いでみるが、俺の鼻には特にこれといった香りは感じられない。


 ただ、今は藁にも縋りたい気持ちだ。

 ここはソラの感覚を信じて、まずはにおいの正体を突き止めようと思う。


 俺はソラからにおいがしたという大まかな場所を聞くと、虫人たちから逃げるように駆けているロキに話しかける。


「ロキ、聞いてた?」

「わん」


 俺の問いかけに、ロキは「任せて」と答えると、華麗に跳んで落雷を回避すると、ソラが指差した方に向けて一気に駆け出した。

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