何かがおかしい?
「うおっ!?」
目から脳まで貫くような強烈な閃光と、鼓膜を突き破りそうな爆発音に、俺は咄嗟に目と耳を守るように防御姿勢をとる。
続けて第二、第三の攻撃が来るかと思われたが、幸いにも連続での攻撃はないようで、俺はロキの背の上で体の調子を確認する。
「耳は……聞こえる」
まだ頭の中でキーン、と耳鳴りはするが鼓膜は破れていないようだ。
「目も、よし」
閃光の影響で左目の方はまだよく見えないが、どうにか無事だった右目で何が起きたのかを確認する。
すると、つい先程まで俺たちがいた場所の地面が隕石が落ちてきたかのように円形にえぐれ、炭化したように黒焦げになっていた。
「な、何が……」
一瞬過ぎて何が起きたかわからなかったが、一つわかることはあの場に残っていたら……ロキが回避してくれなかったら、地面と一緒に黒焦げになっていただろう。
とりあえず何が起きたのかを把握したい。
そう思っていると、
「わん!」
ロキから再び「跳ぶよ!」という声が聞こえ、俺は反射的に叫ぶ。
「ソラ!」
「はい!」
ギュッとしがみついてきたソラが落ちないように気を付けながら、俺はロキにしがみつきながら視線を走らせる。
一体何が起きたのか、何処から攻撃されたのかを見極めるんだ!
そう決意した次の瞬間、ロキが再び大きく跳ぶと同時に、再び閃光が弾けて、何かが爆発したような轟音が響く。
「――くっ!?」
今度は事前に備えていたので最初ほどの驚きはない。
だが、やはり攻撃が早過ぎて何が起きたのかはわからなかった。
追撃をされないように駆け続けるロキの背中に必死にしがみつきながら、必死に何が起きたのかを考える。
まさかエリモス王国の地下で見たような、レーザーのような光学兵器で攻撃されたのかと思ったが、流石にそんなはずはないとかぶりを振る。
「クソッ、せめてどんな攻撃かだけでもわかれば……」
「雷です」
思わず漏れた愚痴に、背後からソラから小声で指摘が入る。
「私、見ました……空がピカッ、と光って地面にぶつかるのを……あれは、雷です」
「か、雷だって?」
ソラからの意見に、俺は思わず見上げて天を仰ぐ。
そこには雲一つない青空が広がっている。
「雲一つないのに、雷が落ちたっていうの?」
「は、はい……信じられないかもしれませんが、何もない所から雷が落ちてきました」
「そんな馬鹿な……」
そんな文字通り、青天の霹靂みたいなことあるのだろうか?
だが、シドと同じ狼人族で、俺より遥かに優秀な動体視力を持つソラならば、あの一瞬で起きたことが見えたのかもしれない。
ソラの言う通り敵からの攻撃が雷だとして、ここで一つ大きな問題があった。
「調停者の瞳が……効いてない?」
俺は赤くなっているはずの右目を押さえて周囲を凝視する。
実は先程の攻撃を見極めようとしたのだが、ロキの警告から着弾までの間に、俺の目には赤い軌跡は見えなかった。
「……ロキは、赤いやつ見えた?」
「わふっ」
俺の質問に、ロキは「見えたよ」と応えながら、再び横に大きく跳ぶ。
「うおっ!」
「きゃっ!?」
予告なしの回避に俺とソラが揃って悲鳴を上げるが、直後に再び雷が落ちる音が響き渡る音がするので、文句を言えるはずもない。
今の攻撃も、俺には見ることはできなかった。
雷が俺にとって脅威と認識としていないなんてことはない。
だが、こうして俺の目で落雷を認識できない以上、回避はロキに任せるしかないだろう。
そう思っていると、
「そういえばコーイチさん、気付きましたか?」
何かに気付いたソラが、服の裾を引っ張りながら話しかけてくる。
「ここに来てから、暑さを殆ど感じなくなっています」
「えっ? そういえば……」
森の中は火事の影響もあり、どこもかしこも蒸し風呂の中にいるのような暑さに包まれていたが、いつの間にか問題ない暑さまで……何なら風を切って走るロキのお蔭で涼しいと感じるぐらいになっている。
「それに空も変です。さっきまであれだけの豪雨だったのに、今はその面影も……何でしたら、ここら辺は雨が降っていた形跡もないです」
「ほ、本当だ」
ソラに指摘されて初めて気付いたが、俺たちがいる場所は、かつてカナート王城が落ちて森の中に飛び込んだ草地の近くだと思われる。
だが、カナート王国のランドマークともいえるカナート王城が跡形もなく吹き飛んでしまっただけでなく、街の全てを黒い竜巻が飲み込んでしまったからか、数日前に来たはずの場所なのに、何だか全然違う場所に迷い込んでしまったかのように感じる。
いや、そもそも……、
「ここは本当に俺たちが知ってるカナート王国の近くなのか?」
「えっ?」
「いや、俺も自分で何を言っているのかわからないんだけど、森を抜けた時に謎の霧を抜けただろう? あの時に変な場所に迷い込んでしまったんじゃないか?」
確証があるわけではない。
今思えば、あの謎の霧に対して碌に調べることすらせず、無防備に飛び込んでしまったのは正解だったのだろうか?
混沌の領域を抜けたと思っていたけど、実は知らない内にまた別の領域に迷い込んでしまった可能性はないだろうか?
ここは一旦、森の中へ逃げて立て直しを図るべきじゃないだろうか?
だが、
「コーイチさん、む、虫が!」
「な、何だって!?」
ソラの悲鳴のような声に顔を上げると、森の中から次々と虫人が現れるのが見えた。




