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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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それなりの準備を

「んなっ!?」


 突然の不意打ちに俺は頭が混乱しそうになるが、


「――っ!?」


 すぐ後ろにソラがいることを思い出し、俺は歯を食いしばって腰からナイフを引き抜く。


 調停者の瞳(ルーラーズアイ)は使っていないので、完全に自分の目だけが頼りだが、ライハ師匠にも認めてもらえた自分を信じるだけだ。


「ギギャァッ!」

「舐めるな!」


 虫人の怒声にも屈することなく、俺は振り下ろされた腕を冷静に見極めてナイフの刃で横へと受け流すことに成功する。


「ギャギャッ!」


 まさか攻撃を受け流されると思わなかったのか、虫人が前へ倒れそうになるのを見て、俺は背後のソラへと手を伸ばす。


「ソラ、今のうちに!」

「は、はい!」


 声をかけると同時に飛び付いてきたソラの腰に手を回して抱き上げると、俺は一目散に逃げ出す。


 これがシドと一緒であれば、倒れそうになった虫人を背後から襲いかかって止めを刺しにかかったかもしれない。

 だが、今はソラの命を守ることが最優先だし、普段なら当たり前のように使っているアラウンドサーチすら使っていないのだ。


 例えあの一体の虫人を倒すことに成功しても、第二、第三の虫人が現れるかもしれないのを考えたらここは逃げに徹するのが正解だと思う。



「ギャッ」

「ギャーッ、ギャギャ!」


 すると、予想通り次々と虫人たちが上空から降って来る。


 木の上で待機していたのか、はたまた空を飛んできたのか?


 もし、あのまま最初の虫人に追撃していたら、俺もソラも連中にとり囲まれていただろう。


「ギギャァッ!」


 だが、逃げる俺たちの前に、さらに追加の虫人たちが降って来る。

 一体何処にこれだけの数の虫人たちが潜んでいたと文句を言いたくなるが、言葉も通じない連中に何を言っても無駄だろう。


「ソラ、俺の後ろに!」


 ひとまずソラを庇いながら、目の前の一体だけでもどうにかして奥に逃げようとすると、


「浩一君、止まらないで!」


 虫人たちの向こう側から頼りになる声が聞こえたかと思うと、俺のすぐ脇を何かが掠め、正面の虫人の首から上が爆発する。


「泰三、ナイスだ! ソラ、行ける?」

「はい、大丈夫です。いけます!」


 頼りになる親友に感謝しながら、俺はソラの手を引いて噴水のように血を噴きながら倒れる虫人の脇を通り抜ける。


「ギャッ!」

「ギャギャ!」


 俺たちを逃がすまいと、虫人たちが迫り来るが、


「ハッハッハッ、この私に注目しないとは失礼な虫共だな!」


 クラベリナさんが颯爽と現れ、レイピアで虫人たちを次々となぎ倒していく。


「よし、俺たちも隊長に続け!」

「優先的に首を狙うんだ。後、倒しても決して油断するなよ!」


 続いて自警団の面々が現れ、虫人たちに対峙していく。


「そういえば……」


 ライハ師匠から、クラベリナさんたちを護衛に付けてくれるという話を思い出す。


 勢いでライハ師匠の言葉に従って飛び出したはいいが、よくよく考えればクラベリナさんたちと一緒に行くべきだったかもしれない。


 そんなことを考えていると、自警団の男性がすれ違い様に笑顔で声をかけてくる。


「さあ、今のうちに!」

「あ、ありがとうございます」


 自警団の男性に感謝しながら、俺はソラと一緒にこちらに向かって手を振ってくれている泰三のところまで下がる。


「すまない、助かった」

「いえ、僕たちも、もっと早く来るべきでした」


 自動で戻って来た槍を回収しながら、泰三はゆっくりかぶりを振る。


「思ったより準備に手間取りまして、来るのが遅くなってしまって申し訳ないです」

「準備?」

「ええ、これから火災現場に行くのですから、それなりの準備が必要だったのです」

「それなりの準備……って、あっ!?」


 そこで俺はあることに気付いて顔を青くさせる。


「泰三、お前鼻と口……それに他の皆も!」


 自警団の面々が加勢に来てくれたのは頼もしいが、クラベリナさんをはじめ、彼等は口も鼻も何も覆っていなかった。


 しつこいようだが、火災現場における危険は、火よりも煙の方にあると言っても過言ではない。

 ここより先は熱も凄いが、既に視界が殆ど利かないほど黒い煙で覆われている。

 このままでは、せっかく来てくれた援軍も一酸化炭素中毒によって全滅してしまう。


 そう思ったが、


「ええ、ですから事前の準備が必要だったんです」


 慌てる俺とは対照的に、泰三は落ち着いた様子で自分の口元を指差す。


「実はここに来る前に、フィーロ様たちエルフの方から火の中でも普通に呼吸ができるように、魔法による援護を受けて来ました」

「えっ、マジ!?」

「マジです」


 目を見開いて驚く俺に、泰三は呆れたように苦笑を漏らす。


「本当は浩一君たちにも魔法をと思ったのですが、あっという間にいなくなってしまったので……」

「そ、それは……」


 ライハ師匠に……と思わず苦情を漏らしそうになったが、火災現場のことを甘く見積もっていた俺の方にも非があるのも事実なので、あまり強く言えないことに気付く。


 それより今は、誰かのことを恨むより大事なことがある。


「ところで泰三、その火事でも大丈夫な魔法、今からでも受けられる?」

「はい、あちらにフィーロ様たちが来ていますから行きましょう」


 そう言って泰三がさらに後方を指差すので、俺はソラに「危険な目に遭わせてごめん」と謝罪しながらフィーロ様が待つという後方へと下がっていった。

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