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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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次のフェーズへ

 ソラの到着により、混沌なる者の分体と戦うための全てのピースが揃った。

 後は俺とソラ、二人揃って混沌なる者の分体……レオン王子の下へと行くだけだ。


 一人でキングリザードマンを圧倒してみせたライハ師匠が指揮官となり、俺たちは一つの軍隊となって進軍を開始する。



「ハッハッハッ、お姉さんに踏んで欲しかったらしっかり励めよ!」


 高々と笑い声を響かせながらクラベリナさんが駆け抜けると、魔物たちが車にはねられたかのように宙を舞う。


「僕たちも隊長に続きましょう。自警団の底力を見せてやりましょう!」


 クラベリナさんに続いて、泰三たち自警団が後に続き、その後にラドロさんやそうめんたちを加えた獣人たちが続き、大ボスがいなくなった魔物たちをこれまでとは比べ物にならない速度で倒していく。


 皆のこんな活躍を見て、同じ戦士として血が湧きたたないはずがない。


『コーイチ、いきなさい』

「はい!」


 ライハ師匠の指示に従い、俺は自分の倍以上はある巨人、トロルの前へと進み出る。


「グルルルル」

「ふぅ……」


 既に何度も戦闘経験があるといっても、明らかなサイズ差がある相手と正面から向き合うと、それだけで圧倒されそうになるが、俺は大きく息を吐いて冷静さを保つ。


 大丈夫、いざとなったら後ろにライハ師匠がいるんだ。


 最前線で残ると決めた俺であったが、万が一があってはならないとライハ師匠がこれまでの成長を見るという名目で見守ってくれているのは非常に心強い。


『言うまでもありませんが、道具を使うのは禁止ですよ』

「わかってます」


 口内に溜まっていた唾を飲み込みながら、俺は調停者の瞳(ルーラーズアイ)を発動させる。


「グルアアアァァァッ!」


 直後、トロルが叫びながら手にしたこん棒を振り上げる。


「すぅ……」


 俺は息を吸って意識を集中させると、振り下ろされる調停者の瞳によって映し出されるこん棒の軌跡を冷静に見極めながら前方へと回避する。


「――っ!?」


 こめかみのすぐ横を突風が駆け抜け、こん棒が地面にぶつかる衝撃と地響きに足が竦みそうになるが、必死に足を動かしてトロルの股下を潜って奴の背後へと回る。

 同時に腰からナイフを引き抜き、トロルの背中に浮かんだ黒いシミへと刃物を突き立てる。


「こんのぉ!」


 何の抵抗もなくナイフが根元まで刺さったところで、俺はトロルの背を蹴って大きく後退する。


 着地した後も油断なくナイフを構えていると、心臓を失ったトロルが崩れるように倒れるのが見える。


「……ふぅ」


 どうにかなったと大きく息を吐きながらナイフに付着した血を拭うと、


『何を猶予に構えているのです。次はあちらのゴブリンの群れです』

「はい、いきます!」


 ライハ師匠からすぐさま次の指示が飛んで来て、俺は泡を食ったように突っ込んでくる五体のゴブリンたちへと向かう。


 今度は多対一、先程は一撃喰らえばおしまいのトロルが相手だっただけに後の先を取ったが、次は脆弱で力も弱いゴブリン、だから今回は前の逆……先の先を取っていく。


 そうこうしている間にゴブリンの集団たちが見えてくるので、俺は赤い軌跡に注意しながら小鬼へと突撃していく。


「……フッ」


 最初の一体を短く息を吐いて首を横一文字に切り裂くと、続く二匹目のゴブリンの胴を蹴って吹き飛ばす。


「ギャッ!?」

「ギャギャッ!」


 二匹目と三匹目のゴブリンがもつれて倒れる横を抜け、倒れた仲間に気を取られている四体目のゴブリンの延髄にナイフを突き刺し、引き抜くと同時に五体目のゴブリンの目を斬って無効化する。


 倒れる五体目のゴブリンの視界の端に置きながら、倒した二体目、三体目のゴブリンに止めを刺すべく振り返ると、


『上出来ですコーイチの今の実力はわかりました』


 凛とした声が聞こえ、ライハ師匠が俺のすぐ背後に現れる。


『もう十分です。私と別れた後も、ちゃんと鍛錬を積んでいたようですね』

「あっ、ど、どうも……それより師匠」


 まだ残っているゴブリンはどうしたのかと思ったが、どういうわけか俺が倒したゴブリンは疎か、もつれて転んだはずの二匹のゴブリンの姿がない。


 小鬼の影を探していると、ライハ師匠の涼し気な声が聞こえる。


『ああ、小鬼たちなら抹消しましたのでお気になさらずに』

「まっ!? そ、そうですか……」


 抹消とはどういう意味なのか知りたいと思ったが、周囲ではまだ戦闘も続いているので警戒しながらライハ師匠に話しかける。


「それで師匠、もう十分とは?」

『コーイチの面倒を見ている場合ではなくなるということです』

「えっ?」

『御覧なさい。次のフェーズに進むようです』


 そう言うライハ師匠が天を指すのでそちらを見やると、木々の隙間から僅かに見える空の色が、透き通るような青から血のような赤へと変化していくのが見えた。

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