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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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最強の剣

 久しぶりに見る頼もし過ぎる背中に、俺は嬉しくて笑みを零す。


「ライハ師匠……」


 小さく呟いたはずだが、ライハ師匠はこちらをちらと見て微笑を浮かべる。

 だが、すぐに気を取り直して前を向いたライハ師匠は、すらりと腰の刀を抜いて構える。


『さて、トカゲの王が二匹……何とも奇妙な展開ですが。私が来たからには、もうお前は終わりですよ』

「――ッ、ギシャアアアアアアアアアアアァァァ!!」


 ライハ師匠を前にしたキングリザードマンは、威嚇するように大声を出す。


「ギギャッ」

「ギャッギャ!」


 すると、キングリザードマンの声に呼応するように、複数のリザードマンたちが現れ、次々とライハ師匠へと襲いかかる。


 だが、


『遅すぎる』


 小さな呟きが聞こえたかと思うとライハ師匠の右手が霞み、周囲に銀閃が走る。

 次の瞬間、ライハ師匠に襲いかかっていたリザードマンたちだけの時間が止まったように一斉にピタリと動きを止める。


 ただ一人、何事もなかったように動くライハ師匠が、刀に付いた血を振り払うような動作をして鞘に納める。


『……終わりです』


 不思議とよく通る声と共にチン、と涼やかな音が響いたかと思うと、周囲のリザードマンたちの体が次々とバラバラになり、血と臓物を撒き散らしながら絶命していく。



『さて……』


 周囲に紫色の血の雨が降る中、そこだけぽっかりと開いたように血の一滴も落ちていない、身綺麗なままのライハ師匠がキングリザードマンへ流し目を送る。


『フフフ、いくら策を弄したところで無駄ですよ。次はお前の……』

「――ッ、ギギャッ!」


 ライハ師匠の声を遮って叫んだキングリザードマンは、近くにあった巨大な倒木を掴んで彼女に向かって投擲する。


『フッ、戯れを……』


 キングリザードマンが投げた倒木を、ライハ師匠は一太刀であっさりと真っ二つにしてみせる。

 しかし、キングリザードマンの目的は、ライハ師匠を倒すことではなかった。


「ギギャァッ!」


 ライハ師匠が倒木を斬り捨てている間に、キングリザードマンは最初に倒された同胞の胸を貫き、心臓を取り出していた。


「師匠!」


 キングリザードマンの真意に気付いた俺が、慌ててライハ師匠へと声をかけるが、


『問題ありませんよ、コーイチ』


 師匠は問題ないと薄く笑うと、腰を落として右手を閃かせる。


 居合の構えから振り抜かれた刀は、何もない空間を斬ったかのように見える。

 だが、少し遅れてライハ師匠からキングリザードマンに向けて突風が突き抜けるように駆け抜け、心臓を持つ奴の右手を手首から切り落としてみせる。


「ギギャアアアアアアアアアアアアァッ!!」

『どれ、もう一つ』


 血を噴きながら叫ぶキングリザードマンなど歯牙にもかけず、ライハ師匠が再び右手を閃かせると、今度は大トカゲの切り落とされた右手が心臓と共に爆ぜる。


「グゲゲッ!?」


 目の前で心臓を潰されたキングリザードマンは、大きく目を見開いて足元の血だまりを見る。

 一体何をどうすれば、刀を振るうだけで遠くの獲物を爆散できるのか皆目見当もつかないが、これで二体目の混沌なる者の分体が現れるという最悪の事態は回避できた。


 これで後は、残ったキングリザードマンをどうやって倒すかだが……、


『さて、もう終わりにしましょう』


 まだまだやる気満々のライハ師匠に任せておけば、この場は問題ないように思われた。



 だが、


「待て待て待てえええええええええぇぇぇぃ!」


 背後から「待った」をかける声が聞こえたと思ったら、察そうと風を切ってクラベリナさんがライハ師匠の隣へ並ぶ。


「この私を差し置いて、一人で決着をつけようなんて卑怯だぞ」

『卑怯? この私の何を持って卑怯だと?』

「ん? あ、ああ、その、なんだ……」


 まさか真っ当に返されると思ってなかったのか、クラベリナさんは珍しく困ったように後頭部をガリガリと掻く。


「とにかくだ! あのデカいのと遊ぶならこの私も混ぜろ、っていうか混ぜて下さい。いいな?」

『……好きになさい』


 クラベリナさんの無茶苦茶な要求にライハ師匠は呆れたように嘆息すると、腰を落として剣を構える。


 そのまますぐに飛び出すのかと思ったライハ師匠だったが、鼻息荒くレイピアを揺らしているクラベリナさんに話しかける。


『あなた、名前は?』

「クラベリナだ。どうやら御仁はライハという名でコーイチの師匠らしいな」

『いかにも、もしかしてクラベリナもコーイチに?』

「いや、私はそこまで深い縁はなくてな。コーイチの親友のタイゾーなら私が育てたよ」

『なるほど、彼もよい戦士です』


 泰三のことは知っているのか、ライハ師匠は納得したように何度も頷く。


『いいでしょう。ではクラベリナ、参りましょうか』

「ああ、楽しいダンスの時間にしようではないか」

『フフッ……その考え、嫌いではありませんよ』


 強者同士通じるものがあったのか、二人の女性は頷き合ってキングリザードマンへと突撃していく。

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