謎の読み合い
「がはっ!?」
突如として現れた何かの攻撃を受けた俺は、肺の中の空気を吐きながら大きく吹き飛ばされる。
衝撃で俺は地面に落ちた後も、ゴロゴロと生い茂る草の上の数メートルは転がる。
「ぷ、ぷぅ!」
「だ、大丈夫……」
吹き飛ぶ俺を見て、慌てて駆け寄って来たそうめんに問題ないと手で制しながら立ち上がる。
実は攻撃を受ける直前に咄嗟に後ろに跳んで衝撃をある程度緩和したのと、地面が柔らかかったので見た目ほどダメージはない。
それより今は、迫るリザードマンをどうにかしなければならない。
体中についた草を払うことも惜しいと、俺は素早く立ち上がって調停者の瞳を発動させる。
「そうめん……っ!?」
迎撃態勢を……と言おうと思う前に、赤い軌跡が迫って来ているのに気付き、俺は付き添ってくれているそうめんを急いで抱いて大きく横に飛ぶ。
次の瞬間、俺がいた場所に何かが高速で通過し、衝撃で草と土が舞い上がる。
今度は攻撃に対処できたので、一体何に攻撃されたのかと鞭が消えた先を目で追う。
そうして目で追った先に見えたものは、
「まさか……尻尾?」
間違いない。股間からボタボタと滝のように血を流しているキングリザードマンが、尻尾をゆらゆら揺らしながら血走った目で俺のことを睨んでいる。
どうやら二体のリザードマンは、キングリザードマンの尻尾によってノックダウンさせられたようだ。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォン!!」
口から血の泡を吹きながら、キングリザードマンは三度、尻尾を振るって攻撃してくる。
だが、不意打ちならともかく、何処から来るかわかっている状況で、さらに調停者の瞳を使っているなら攻撃が当たることはまずない。
「ふぅ、ここまで来ればとりあえず……」
「ぷぅ、ぷぅ!」
「えっ、今すぐ逃げろって?」
「キーッ!」
そうめんの「急いで!」という声に従い、俺は元々逃げるつもりだった方向へ飛び退く。
キングリザードマンから十分距離を取り、尻尾の追撃の心配がなくなったところで、俺は肩の上で一息吐いているそうめんに尋ねる。
「そうめん、どうしたんだ。調停者の瞳には何も……うわっ!?」
声をかけようとすると突如として突風が吹き抜け、俺は反射的に目を左手で覆い、右手を腰のナイフに手をかけながら前を見据える。
もしかして、キングリザードマンが何か仕掛けてくるかと思ったのだ。
だが、
「……えっ?」
何か仕掛けてくると思われたキングリザードマンの姿が、どういうわけか忽然と消えていた。
「や、奴は?」
あれだけの大怪我を負って、俊敏に動けるとは思えない。
それにあれだけの巨体、身を隠そうにも隠せるような場所なんてそうそうない。
だからすぐ近くにいるはずだ。
そう思って突風が通り抜けた先へと目を向けると、
「あ、あれは……」
何時の間に現れたのか、二体目の大きなキングリザードマンがぐったりと項垂れている一体目のキングリザードマンの首根っこを掴んで佇んでいた。
「な、何だ……」
全く気配を感じなかったもう一体のキングリザードマンの登場に、俺は口内に溜まっていた唾液を嚥下して奴を睨む。
脅威を視認できる調停者の瞳が反応しなかったということは、あのキングリザードマンは最初から俺を狙ったのではなく、もう一体のキングリザードマンを狙ったということだ。
「まさか仲間を助けたのか?」
魔物にそんな仲間意識があるのかどうか不明だが、もしかしたら同じ王を冠する者同士、何か通じ合うものがあるのかもしれない。
だが、例えそんなものがあったとしても、一体目のキングリザードマンはもう間もなく死ぬだろう。
だからとりあえずまだ残っているリザードマンを排除して、全員で残る一体に注力すべきだ。
そう思っていると、
「何をしているのです。早くそいつを止めるのです!」
背後からネロさんの叫び声が聞こえてくる。
「そいつの目的は、同胞を喰らうことです!」
「――んなっ!?」
ネロさんの指摘に、俺は全身からどっと嫌な汗が噴き出すのを自覚する。
魔物が同胞を助けることをおかしいと思ったのに、どうしてこんな当たり前のことを失念していたのだろうか?
魔物の強さにはランクがあるが、ランクを上げるためには同胞を喰らう必要があるのだ。
そして、数多の共喰いの果てに生まれるのが王の名を冠する魔物であるのだが、果たして王が王を喰らったらどうなるのか?
その答えを俺は既に知っている。
「そうめん、行こう!」
「ぷっ!」
もう一体のキングリザードマンを阻止するために、俺はそうめんと一緒に駆け出す。
これ以上の混沌なる者の分体が現れるのは、何としても阻止しなければなたない。
分体になる条件がレオン王子と同じと考えれば、共喰いの条件は瀕死のキングリザードマンの心臓を食べることだ。
幸いなことは、まだ奴はこちらを警戒しているのか、瀕死の仲間に手を出していないことだ。
「だけど……」
どうして奴は、すぐにでも仲間を食べようとしないのだろうか?
俺が見失っている間に動いてしまえば、少なくとも心臓を抉り出すところまではいけたはずだ。
なら可能性として考えられるのは、
「罠か?」
その可能性はないとは言い切れない。
キングリザードマンは非常に憶病な性格で、カタコンベで戦った時も、極限まで追い込まれるまで姿を現すことはなかった。
今回のキングリザードマンが前の奴と同じ思考とは限らないが、それでも警戒は厳にしておくに越したことはない。
「そうめん……」
何が起きるかわからないから気を付けろ、と声をかけようとすると、
「ギエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェッ!」
「――うっ!」
「ぷぷぅ!」
突如として耳を劈く大音響が響き渡り、俺とそうめんは堪らずその場に膝を付いた。




