青鬼、再び
ミーファの声に反応して獣たちの鬨の声が響いたかと思ったら、続けて地鳴りと共に地面が大きく揺れ出す。
「おわっ!?」
思わずバランスを崩しかける俺が顔を上げると、空を覆うように巨大で真っ黒な影が差す。
よく目を凝らせば、それが先程魔物たちを穴だらけにしていった細長い鳥であることがわかる。
「ま、まさかあれも? うひゃおぅ!」
驚いて目を見開く俺の足元を何かが触れて慌ててその場を飛び退く。
「な、何だ?」
地面を覆い尽くすような蠢く何かに慄いていると、今度は何かが肩の上に乗って来る。
反射的に手で振り払いそうになるが、よく見れば何だか可愛らしいフォルムをしていた。
「リ、リス?」
「キュルキュル」
俺の問いかけに「違うよ」と言った小型の動物は、大きく両手を広げる。
すると、手の下に皮膜のようなものが現れ、小型の動物は颯爽と空を飛ぶ。
「モ、モモンガなのか?」
呆気にとられる俺のすぐ脇を、今度は猪と熊を足したような大型の獣たちが駆けていく。
「ブルル……」
「あっ、すみません……そうします」
一匹の猪熊に、すれ違い様に「早く行け」と言われた俺は、邪魔にならないように後退りする。
前を見やれば、既にシドとミーファの姿はかなり小さくなっている。
物理的にも二人に追いつけないだろうと察した俺は、
「二人共、頑張って」
最後にもう一度シドたちにエールを送り、背を向けて泰三たちの下へ向けて駆け出した。
※
浩一がミーファたちを見送っていた頃、エルフと泰三たちの戦闘にも動きがあった。
「あ、ああ……」
思わず悲鳴を上げる泰三の目に、五体目の自動人形がボロボロと崩れていくのが映る。
「ギャギャッ!」
最後の自動人形を倒したリザードマンジェネラルは、勝ち名乗りを上げて手にした剣を前方へと掲げる。
その声に応えるように魔物たちが潰した自動人形たちを乗り越えて前進し始めたところで泰三の目の前の窓が閉じる。
「あっ……」
「タイゾー、茶番はここまでです」
キョトンとする泰三に、彼が見ていた窓を操作していたフィーロが真剣な表情で話しだす。
「もう間もなく魔物たちがやって来ます。タイゾー、やれますか?」
「ええ、勿論です」
フィーロの問いかけに、泰三は力強く頷いて愛用の槍を手に取る。
「僕が一番槍を務めます。いいですか?」
「ええ、自由騎士であるタイゾーなら相応しい役目ですわ。派手な一発を期待していますよ」
「お任せください」
頷いて前に出た泰三は、手にした槍をくるりと回して握り直すと、投擲をするように構える。
特に特定の誰かを狙う必要はない。
数で圧倒できると思っている魔物たちの出鼻を挫くことが目的なので、わかりやすく先頭の奴を狙えばいい。
そう判断した泰三は、大きく息を吐いて槍を振りかぶると、
「ディメンションスラストスロー!」
スキル名を叫びながら愛用の槍を思いっきり投擲する。
投擲された槍は、空気を切り裂きながら飛んでいく。
途中にあった草木を容赦なく貫いても衰えることなく槍が飛んでいった先で、魔物たちの断末魔の叫び声が聞こえてくる。
「よしっ!」
十分な手応えを感じた泰三は、大きく頷いて隣に立つフィーロに話しかける。
「さあ、フィーロ様」
「ええ、皆様、いよいよ最後の戦いです。明日のため、大切な友人を救うためにも、何としてもここで魔物の侵攻を食い止めて下さい!」
「うおおおおぉぉ、遂に俺たちの出番だ!」
「俺たち獣人の誇り、見せてやるぞ!」
「マリル様、見ていて下さい! 必ず勝って故郷を取り戻してみせます!」
フィーロの声に、これまで見ているだけだった獣人の戦士たちが、いよいよ出番だと威勢のいい声を上げ、持っている武器を盛大に打ち鳴らす。
やる気十分の獣人たちを見て、フィーロは頷きながら自動で帰って来た槍を受け取っている泰三へと笑いかける。
「さあ、タイゾー」
「わかってます。皆さん、行きましょう。勝利をこの手に!」
泰三が槍を天につき上げて叫ぶと、獣人たちが一際大きな声を上げて応えた。
こうして始まった魔物との戦闘は、気合で勝る獣人たちが当初は有利に事を運んだ。
決して一人で突出することなく、互いを支え合うように見事な統率を取れた動きで魔物たちを翻弄していく。
「はああぁぁぁ!」
獣人たちの連携から漏れた魔物は、遊撃として好き勝手に動いている泰三が処理していく。
「さあ、わたくしたちも!」
さらにそこへフィーロたちエルフたちの魔法の援護も加わり、魔物たちを駆逐するペースがさらに上がる。
「いける……このまま押し切れるぞ!」
魔物たちを圧倒している状況を見て、獣人たちの間にも余裕が見え始める。
だが、
「まだです! 気を抜かないで!」
何かに気付いた泰三が叫ぶと、獣人たちの前に巨大な影が空から降って来て、地響きと共に盛大に土砂を巻き上げて着地する。
「グルルルル……」
「あ、あれは、サイクロプス……」
身長が三メートルを超える一つ目の巨人を見て、泰三は背中に嫌な汗が流れるのを自覚した。




