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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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王の出陣

 胸に飛び込んで来たミーファを受け止めた俺は、興奮して尻尾を激しく振り続けている彼女に問いかける。


「ミーファ、レド様に……ママに会ったのか?」

「うん、あのね。ゆめにね、ソラおねーちゃんといっしょにでてきたの。しってた? ミーファのママね、ソラおねーちゃんにそっくりなんだよ」

「うん……そうだね」


 どうやらミーファは本当にレド様と出会ったようだ。


 夢の中ということは、ソラの力を介して会ったということなのだろうか?


 ただ、一つ気になることがあるとすれば、ミーファがどうしてレド様のことを自分の母親だと認識できたことだ。


 確かノルン城が陥落した時、ミーファは幼くて両親の存在についてまだよく理解していなかったはずだ。

 それが今回の度の途中、ニーナちゃんたち親子と出会ったことで、ミーファは両親という存在を改めて認識した。


 そこで俺たちが困るだろうと察して駄々をこねず、両親に会いたいと気持ちをグッと堪えてきたのだから、ミーファがここまで興奮するのも伺えた。


「ねえ、ミーファ、どうしてレド様がママだってわかったの?」

「うんとね、ママがママだよっていったから……あとはにおいだよ」

「匂い?」

「うん、ママはね。おにーちゃんにギュッとしてもらっているみたいに、すごくぽかぽかのいいにおいがするんだよ」


 そう言ってミーファは、俺の首元に顔を埋めてクンクンと匂いを嗅いでくる。


「うん、おんなじ。おにーちゃんもママもすごくいいにおい」

「そっか……」


 再びクンクンと匂いを嗅がれることに気恥ずかしさを覚えるが、もしかしたら俺がミーファにここまで懐かれているのは、この世界に召喚された時のレド様との邂逅に何かしらの秘密があるのかもしれなかった。


 もう少しレド様とどんな会話をしたのか興味があったが、時間もないのでミーファの真意だけ聞いておきたい。


「それでミーファがここに来たのは、ママに言われたから?」

「うん、ママにね。もりがあぶないから、どうぶつたちをまもってあげてっていわれたの」

「なるほど……それでロキとうどんも?」

「うん、ロキとうどんもミーファといっしょにママのおはなしきいたの、ねっ、うどん?」

「ぷう、ぷぅぷぅ……」


 ミーファからの質問に、俺の肩に登って来たうどんが「聞いたよ」と言って、簡単に何が起きたのかを説明してくれる。

 ミーファだけでなくロキやうどんまでも巻き込んでいたとは……レド様の周到さには舌を巻くしかない。


 レド様からの指令を受けたミーファたちは、朝一番で集落を抜け出し、帰らぬの森にやって来てあの黒猫に出会い、ロキが実力を見せて動物たちの協力をこぎ着けたという。


「そっか……」


 うどんは事もなげに言ってのけたが、要するにロキが黒猫をボコボコにしてどっちが上かを示して屈服させたということだ。

 そして、ミーファがロキの主ということで、森の動物たちは彼女を「王」として崇め、言うことに従っているということだ。


「じゃあ、おにーちゃん。ミーファもういくね」


 説明を終えたミーファは俺からサッと離れると、ロキの背中に括り付けられている馬の鞍のような席に収まる。


 いつの間にか増えているロキの装備品に、疑問に思った俺はミーファに尋ねる。


「……ミーファ、それは?」

「これ? これはショコラちゃんのおじーちゃんがくれたんだよ」

「ウォル爺さんが?」

「うん、これのおかげでロキがたくさんあばれても、ぜんぜんへっちゃらなんだよ」

「へ、へぇ……」


 そういえば昨日、ウォル爺さんは何か作るものがあると言って席を外していたな。


 その一つが、ロキに取り付ける鞍だとしたら、ウォル爺さんは一体何処まで現状を把握しているのだろうか?


 あの爺さんも色々と謎なところがあるが、ミーファが戦うことを想定して彼女に合うサイズの鞍を用意していたとは恐れ入った。

 そうこうしている間にミーファがロキの背中に乗るのを見た俺は、隣に立つシドに目で問いかける。


 このままミーファを、戦いに参加させていいのか?


 保護者としてはミーファに危ない橋を渡って欲しくはないが、ここで彼女が下がるようなことがあれば、帰らずの森の動物たちの統率が取れなくなる可能性がある。


「そうだな……」


 俺の表情から全てを読み取ったであろうシドは、器用に片眉を吊り上げて肩を竦めてみせると、今にも飛び出しそうなミーファに話しかける。


「ミーファ」

「な、なに、シドおねーちゃん……」


 シドの声を聞いたミーファは、また怒られると思ったのか、固唾を飲んで姉の言葉を待つ。


 いつもと違って殊勝な態度を取るミーファを見て「フッ」と薄く笑ったシドは、自分の胸をドン、と叩いて大きな声で宣言する。


「お前が戦うというなら、あたしも一緒に戦ってやるよ」

「えっ、シド?」

「というわけだコーイチ、ここはあたしに任せてお前は戻るんだ」


 もう決定事項なのか、シドは俺の胸をコツンと拳で叩いてニヤリと笑う。


「心配しなくても、あたしたち全員でミーファを守りながら戦うよ。だからコーイチは、タイゾーたちの方を手伝ってくれ。きっと、あっちの方が戦力的に厳しい」

「…………わかった」


 こうと決めたら梃子でも動かないのは三姉妹揃って同じなのはわかっているので、俺は頷いてシドにこの場を託すことにする。


「シドの見立て通り、こっちの方が戦力は充実していると思うけど、無茶だけはしないでね」

「わかってるよ。こっちの敵を片付けたらそっちに行くからよ」


 そう言ってシドはミーファの隣に並ぶと、彼女の足をポンポンと軽く叩く。


「ほら、ミーファ、皆がお前の言葉を待っているぞ」

「……うん!」


 大きく頷いたミーファは、顔を上げてこちらを見ている森の動物たちに大きな声で呼びかける。


「みんな、こわいやつをやっつけて、もりからおいだしちゃおう!」


 その言葉に、集まった帰らぬの森の動物たちが応えるようにそれぞれの鳴き声を上げた。

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