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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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それぞれがやるべきことを

 陽が登り、皆が起きるまで俺はシドと組み手を繰り返した。


 その後、広場に集まった全員を前にラピス様から混沌なる者の分体を倒すまでの作戦の説明があった。


 作戦は至ってシンプル、赤い竜巻から大量発生した魔物の群れを掻き分け、俺とソラが最前線まで辿り着いてレオンを説得できれば勝ち、それが果たされず世界樹が燃やされるようなことがあれば俺たちの敗北、そしてこの世界の終わりというわけだ。


 文字通りの世界の命運を握る戦いというだけあって、集まった人たちの間に緊張が走っていた。


 だが、その中で俺は精神的には全く追い詰められていなかった。


 事前にラピス様から話を聞いていたので覚悟が決まっているのもあったが、それは都は別に理由があった。



 それは……、


「浩一君、大丈夫ですか?」


 俺の隣に立った泰三が、こちらを見て心配そうに声をかけてくる。


「その……痛くないんですか?」

「……痛くないように見えるか」


 自分の意思とは関係なく溢れて来た涙を拭って自分の身体を見ると、体中の至る所に丸い光の玉……精霊が取り憑いていた。


 これ等の傷は朝からシドと組み手をして付けられた傷で、俺を見たラヴァンダさんに盛大な溜息と叱責を浴びせられた後に容赦なく治療させられているのだ。

 流石に骨折などの大怪我はしていないが、それでも少なくない打ち身や擦り傷、痣の全てが活性化したように押し寄せてくる痛みは相当なもので、こればかりは何度やっても慣れそうになかった。


 ちなみに、俺をボコボコにしたシドはフィーロ様とフリージア様によって締め上げられており、広場の隅の方で正座させれていた。


 そんなわけで朝から色々とあり過ぎて、精神的に緊張とは無縁となっているのだった。


 そうこうしている内に治療が終わったのか一つ、また一つ俺の体から離れて行く精霊を目で追いながら泰三が口を開く。


「それで、やっぱり浩一君も行くのですか?」

「ああ、行くよ」


 心配そうに尋ねてくる泰三に、俺は力強く頷いて応える。


 泰三が言っている行くとは、これから行われる魔物の軍勢との戦いに俺も参戦するということだ。


 ゴールが俺とソラが赤い竜巻のふもとまで辿り着くことなのだから、道ができるまで安全な後方で待機している方がいいという意見もあったが、俺はその申し出を断った。


「確かに確実性を重視するならば、俺はソラと一緒に待機すべきなんだろうな」


 だが、それでもし大事な人を失うことがあれば?

 そうなれば世界を救うことができても、俺はずっと後悔して生きていくことになる。


「だから悔いを残さないためにも、俺も体を張って皆と一緒に戦うんだ」

「そう……ですね。僕も同じ気持ちです」


 俺の想いを聞いた泰三は、同意するように何度も頷く。


「運命を他人に委ねるよりも、自分で道を切り拓きたいと思います」

「そういうわけだ。それに、ソラも何か作戦があるみたいだしな」

「ソラさんも?」

「ああ、今回は多分、ソラの力がカギを握るはずだ」


 そう言って周囲を見る俺だったが、実は集まった人々の中にソラの姿はない。


 ソラは今、レド様から授けられたとっておきの秘策を実行に移すために、一人別行動をしている。

 果たしてレド様の秘策とは何なのか未だに聞き出せてはいないが、戦いが始まればソラもやって来るだろうから何も問題はない。



 それより問題なのは……、


「ミーファ、何処行ったんだろうな」


 朝食を一緒に食べた後、ロキとうどんを連れて何処かに行ったのを見たのを最後に、行方がわからんくなってしまった。

 今は戦いには参加しないレンリさんとネイさんが探してくれているのだが、隠れることすら難しいロキすら見つけられないとなると、何か画策しているんじゃないかとちょっと不安になって来る。


「大丈夫ですよ」


 きょろきょろと首を巡らせてミーファたちを探す俺に、泰三が肩をポンと叩いて笑いかけてくる。


「ミーファちゃんだってこれから起こることの重大さを理解しているはずです。きっと僕たちを元気づけるために何か考えてくれているんですよ」

「だといいんだけどね……」


 ロキとうどんが一緒にいるから万が一ということはないと思うが、逆に考えたら戦闘能力がある一匹と一羽が一緒だからという想いもある。


 保護者として、娘同然のミーファを幸せを願っている者しては、血生臭い戦場に足を踏み入れてほしくはないし、綺麗なままでレド様と会わせてあげたい。


 ……お願いだから、危ないことだけはしてくれないでおくれよ。


 一緒にいるであろうロキたちに、我が家の天使を守ってくれよと必死に願っていると、広場の方から歓声が上がる。



「……時間か」

「ああ、コーイチ。準備はいいか?」


 二人の姫からの説教から解放されたのか、シドが傍までやって来て俺の体をジロジロと舐め回すように見る。


「怪我は……もう、問題ないようだな」

「大丈夫、もうやれるよ」


 精霊がいなくなり、痛みもなくなって健康そのものになった体を見せながら、俺はニヤリと笑ってみせる。


「ちょっとやり過ぎたかもしれないけど、シドのお蔭で自分の弱点は把握できたからさ。キッチリ活かしてみせるよ」

「そうか……そう言ってもらえると助かる」


 シドが安堵の溜息を吐くのを尻目に、エルフや獣人たちが森の方に移動するのが見える。


 ……いよいよ、本当に最後の戦いがはじまるのだ。


 俺は大きく息を吐いて気持ちを落ち着けると、シドと泰三の顔を見て頷く。


「行こう。そして絶対に勝とう」

「当然だ」

「頑張りましょう」


 気合の入った二人の声を聞きながら、俺たちも獣人たちの後に続いて森の中へと入って行った。

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