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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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ウォーミングアップ?

 目を開けると、まだ周囲は真っ暗だった。


 時計がないので今が何時かはわからない……何てことはない。

 肌感覚だが、もうそろそろ日の出の時間のはずだ。


 どうしてそれがわかるのかと言うと、起きた時の疲労の回復具合や、どれだけ喉が渇き、空腹を覚えているかで、眠りについてからの経過時間がわかるのだ。

 後は旅の間、シドと交代で見張りをする必要があったので、基本的に深い眠りにつかない習慣がついているのだ。


 誰かに起こされなければ起きられないことがデフォルトだった俺が、一人前の戦士みたいに行動できるのだから生活習慣というのは恐ろしいものである。


 体の調子は全快というほどではないが、十分に戦えるほどには回復した。


 もうひと眠りしてもいいのだが、せっかくこうして起きたのだから、外で体をほぐしておきたいという気持ちもある。


 どうしようかと思いながら視線を下に落とせば、腕の中でミーファが丸くなって静かな寝息を立てている。


 その愛らしい姿に、思わず手を伸ばしてフワフワの頭を優しく撫でてやると、


「…………わふぅ?」


 俺が起きた事に気付いたロキが「起きた?」と小声で話しかけてくる。


「わふわふ」

「うん、おはよう。ちょっと体を動かしてこようと思うんだけど……」

「わふっ」


 するとロキが「任せて」と言って俺にしがみついているミーファの首根っこを咥えて、自分の首元へと置く。


「う、う~ん……もっと」


 無理矢理移動させられたミーファは寝言を言いながらロキの首に抱きつくと、毛皮に顔を埋めて再び眠りにつく。


「……ありがとう」


 ロキの見事な手際に感謝しながら、俺はそっと起き上がると丸まって寝ているうどんを起こさないように気を付けながら、そっと部屋から退出していく。



 誰もいない静かな居間を抜け、家の外へと出ると、


「ううぅ、寒い……」


 しっかり着込んで来たのだが、それでも防寒着を貫いてくる寒波に、俺は歯をガチガチと鳴らしながらその場で足踏みをする。


 日の出を過ぎれば徐々に気温も上がってあっという間に熱くなるから、それまで耐えればいいのだが、それでもこの寒さは堪える。


「は、早く体を動かして温まろう……」


 とりあえずその辺でも走ってこようかと思っていると、背後の扉が開いて背後から誰かが抱き付いてくる。


「ほら、これで温かいだろ?」

「シ、シド!?」


 声に反応して後ろを向くと、犬歯を見せて笑うシドと目が合う。


「おはよう、早いね」

「おう、コーイチもな……ちゃんと寝たのか?」

「寝たよ。まあ、習慣でいつもの時間に起きちゃったけど……」

「あたしも、ついでに言うとコーイチも起きると思って来たんだ」


 そう言って赤い顔をしてはにかむシドを見ると、思わずドキリとしてしまう。

 かといって流石に今からイチャイチャするほど節操無しではないので、俺はシドの手から逃れると、彼女に向かって手を伸ばす。


「今から軽く走って来るけど、シドも行くだろ?」

「ああ、そのつもりだ。軽くほぐしたらついでに手合わせもしようぜ」

「……お手柔らかに」


 いつもシドにボコボコにされている身からすれば、決戦前に余計な怪我の可能性がある手合わせはしたくないのだが、それで彼女の方に火が入るというのだから付き合わないわけにはいかない。


「よし、それじゃあ行こうか」

「ああ、飛ばすからちゃんと付いてこいよ。遅れたらその分だけ手合わせの本数を増やすからな」


 そう言うと、シドはいきなりトップギアに入れてかなりの速度で駆け出す。


「ちょ、ちょっと待って!」


 かなり出遅れてしまったが、手合わせの本数が多いのは勘弁して欲しい俺は、逃げるシドを見失わないように必死になって足を動かし続けた。




 集落内をぐるりと回る頃には陽も登り、気温も上がって来たところで走るのを止めた俺たちは、徒手空拳での手合わせへと移る。


「ほら、まだ目に頼ってるぞ」

「あがっ!?」


 足を掬われて尻餅を付いた俺は、頬を紅潮させて楽しそうなシドから伸ばされた手を取って立ち上がる。


 体が温まったところで始まった手合わせは、朝一のウォーミングアップとは思えないほど激しいものだった。

 自由騎士の力を使っても構わないと言われたので、調停者の瞳(ルーラーズアイ)を使っているのだが、シドは俺の考えを見透かしたように裏をかいてきて、何度も転ばされていた。


「ほれ、とっとと次行くぞ」

「ちょ、ちょっと待って……」


 朝一でやる気満々の様子のシドに、俺は堪らず待ったをかける。


「軽い準備運動のつもりだったのに、ちょっと本気過ぎない?」

「そりゃそうだろう。コーイチに生き残ってもらうためにやっているんだからよ」


 シドは拳を俺の胸に押し当てながら、本気になっている理由を話す。


「今回の戦いは、コーイチとソラを一番危険な場所まで届ける戦いなんだろ?」

「……ラピス様から聞いたの?」


 昨日の今日でシドがその事実を知っていることに驚いたが、彼女はゆっくりとかぶりを振る。


「いや、ソラだよ。昨晩あいつが枕元に現れたと思ったら、自分とコーイチを最前線まで連れてって一方的に話して消えたんだよ」

「そうなんだ」


 俺がミーファと動物たちと寝ている間に、シドとソラの間でそんな会話が繰り広げられていたとは思いもよらなかった。


「コーイチたちを最前線に送り届けるのが任務なら、あたしにできることはコーイチが少しでも死ぬ可能性を削ることぐらいだ。だから……」

「自由騎士の力を使わせて、その弱点を指摘していると?」


 その質問に、シドは大きく頷く。


「コーイチのその力は強力だが、お前の力も相まって万能じゃない。だから足りない部分、足りてない部分を知ることはとても大事だ」

「そう……だね」


 己を知れば百戦危うからず、という孫子の一節にもあるように、相手だけでなく自分の情報を把握することはとても大事だ。


 シドは俺の力の弱点に気付いたからこそ、それを実戦で教えてくれようということだ。


「……わかった」


 シドの意図を理解した俺は、距離を取って腰を落として構えを取る。


「それじゃあもう少し、頑張ってみるよ」

「いい心がけだ。朝飯まで軽く汗を流そうぜ」


 簡単に言ってのけるシドであったが、そこからも俺は彼女にボコボコにされ続けた。

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