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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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決戦前の夜は更けて……

 レド様から告げられた衝撃の一言に、俺は逸る気持ちを抑えながら一縷の望みを信じて尋ねる。


「レド様、まさかレオンが……レオンが生きているのですか?」

「いえ、残念ですが……彼の者の肉体はとうに消滅しています」


 俺の淡い期待は、レド様によってあっさり否定される。


「ただ、彼の者の魂は混沌に囚われ、絶望の淵を彷徨っているのです」

「レオンの魂が……混沌に?」

「そうです。決して醒めることのない悪夢から逃れようとする葛藤と渇望が、あの混沌を生み出すエネルギー源となっているのです」

「じゃ、じゃあ、そこからレオンの魂を助け出すことができれば?」

「魂は解放され、混沌を打ち消すことができるでしょう」

「なるほど……」


 つまるところレオン王子は赤い竜巻による破壊を生み出すために、あの中に囚われ、決して醒めることのない悪夢を見続けているという。


 夢の具体的な内容はわからないが、レオン王子が苦しんでいるのなら、友として彼の心を救ってやりたいと思うのは当然だ。


「それで、レド様。俺はレオンを助けるために何をしたらいいのですか?」

「コーイチさんは混沌の近くまで行って呼びかけて下さい。後は相手が応えてくれれば、ソラを介して中に飛び込みます」

「近く……って、それってソラも一緒に行くってことですか?」

「勿論です。コーイチさんとソラ、二人が揃って初めてこの作戦は成功します。ですから何とかして声が届く距離まで肉薄して下さい」

「何とかして……」


 俺は黙って話しを聞いているラピス様に顔を向けると、ある質問をぶつけてみる。


「ラピス様、赤い竜巻から魔物はまだ生み出されていますか?」

「ええ、結界を抜けることはありませんが、数は優に数百は超えており、今も増え続けています」

「数百……」


 口では簡単に数百と言うが、例え最弱のゴブリンであっても一人で問題なく対峙できるのは精々二匹が限界で、それ以上は怪我と死の危険が常に付きまとう。


 命のやり取りというのは本当にシビアな世界で、アニメやゲームで見るような一騎当千なんていうのは本当に夢のまた夢である。


 つまるところ、ソラを連れてレオン王子に声がけできるところまで進行するというのは、とんでもなく大変なことだということだ。


「コーイチさん、ご心配には及びませんよ」


 すると、俺の不安を打ち消すように、レド様が明るい声で話しかけてくる。


「コーイチさんたちを届ける策は考えてあります」

「ほ、本当ですか?」

「ええ、そのためにもソラを借りてもいいですか?」

「あっ、は、はい、勿論……」


 俺としても残った時間は、親子水入らずの時間に当ててもらうつもりだったので相違ない。


「じゃあ、ソラ。俺は先に戻って休むよ」


 少し緊張した様子のソラの肩を叩いて「頑張って」と小さく声をかけると、


「は、はい、わかりました……」


 彼女はニコリと微笑を浮かべて頷くと、レド様が憑依している巨大な精霊へと向き直る。


「母様、行きましょう」

「ええ、少し厳しめにいきますから覚悟してね」

「頑張ります!」


 気合の表情を浮かべて大きく頷いたソラは、巨大な精霊と一緒に世界樹に向かって歩いていく。

 やはり魔法の修業には、世界樹の中の方が効率がいいようだ。



 ソラたちを見送った俺は、同じように親子の背中を見つめていたラピス様に話しかける。


「それでは俺は戻ります」

「ええ、今宵はゆっくり休んでください……明日は頼みます」

「勿論です。必ずや、勝利を手にしてみせますから」


 自信を覗かせるようにニヤリと笑ってみせると、ラピス様も笑顔を浮かべて力強く頷いてくれた。




 世界樹からの明かりを頼りに間借りしている家へと戻った俺は、皆が起きないように気配を消してベッドがある部屋まで向かう。


 室内の灯りは消えていたが、夜目を鍛えているので問題なく室内を歩いて部屋の扉をそっと開ける。

 扉を開けた瞬間、


「おっと……」


 中から小さな影が飛び出して、俺は慌てて抱き止める。

 腰にしっかりしがみついている影の背中を撫でながら、皆が起きないように小さな声で話しかける。


「ミーファ、まだ起きていたのか?」

「うん、だって……やくそく」

「そう……だったね」


 その一言で、今日はミーファと寝る約束をしていたことを思い出した俺は、既に半分寝ている我が家の天使を抱き上げる。


「遅くなってごめん、今日はもう寝るだけだから、一緒にいるよ」

「うん……」


 小さく頷いたミーファは、俺の首に抱き付いて肩に顎を乗せると、そのまま静かに寝息を立てはじめる。

 いつものことながら器用に寝るものだと感心しながら、俺は室内を移動して一際大きなベッドにいる先客に声をかける。


「ごめん、遅くなった」

「わふっ」

「ぷぷっ」


 俺が声をかけると、ベッドの中にいたロキとうどんから「大丈夫だよ」という声が返って来て、二人が寝れるだけのスペースを空けてくれる。

 横になっているロキのお腹を枕にするように横になると、うどんがミーファの背中を温めるようにぴったりと寄り添う。


「ぷっ」

「うん、おやすみ。ロキもいつもありがとう」

「わふわふ」


 ロキは「気にしないで」と言うと、体を丸めて寝る姿勢をとる。

 すると、ロキの毛皮が程よく眠る俺たちの体を包んでくれるので、毛布がなくても十分暖を取ることができる。


 さらに規則正しく脈を打つロキの心臓の音がとても心地よく、


「……ふぁ、おやすみ」


 程なくやって来た睡魔に抗うことなく、俺の意識はあっさりとまどろみの底へと沈んでいった。

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