召喚士母子
そこから暫くして落ち着きを取り戻したソラは、改めてレド様を召喚するために集中する。
召喚魔法を使うソラを見るのは初めてなので、一体どのように施行するのかと少しワクワクしていた。
だが、
「…………」
魔法に集中しているソラは、誰もがイメージするような長大な詠唱を唱えることもなく、空中に魔法陣を描くとか派手な演出は一切なく、俺の手を掴んだまま目を閉じて静かに集中している。
回復魔法もそうだが、この世界における魔法は俺が想像していたものと随分違う。
魔法といえば、中二病を思わせるカッコイイ詠唱と、派手なエフェクトがセットになっているものだと思っていたが、実際は非常に地味で、魔法を使っていると言われなければ、何をしているのかさっぱりわからない。
と思ったが、普通に考えたら長大な詠唱や派手なエフェクトがあれば、当然ながら魔法を使っていると警戒されるし、何なら最優先で攻撃されてしまう。
だから俺たちがよく思い描く魔法は、エンターテインメント用にカスタマイズされたもので、現実はこんなものだろうと思った。
「コーイチ、集中が乱れていますよ」
「はい、すみません」
ラピス様からの手厳しい指摘に、慌ててレド様のことを思い描きながらその時が来るのを待つ。
そうして暫くして、
「……ここは?」
俺の頭に乗っている精霊から声が聞こえ、俺はハッとして顔を上げる。
「レド様! 聞こえますか? 俺です。浩一です」
「その声はコーイチさん? えっ、何処ですか?」
「待って下さい。今、退きますから」
一歩後ろに下がると降りて来た精霊を、俺は両手で受け止めながら話しかける。
「ソラが召喚魔法を使ってレド様の意識を精霊に降ろしたのですが……見えませんか?」
「いえ、残念ながら姿までは……」
映像までは見えないのか、精霊からレド様の残念そうな声が聞こえる。
「ですが状況は理解しました……ソラ、そこにいるのですか?」
「は、はい、母様……」
レド様に声をかけられ、ソラは緊張した面持ちで精霊に話しかける。
「ソラです。その……母様はお元気ですか?」
「フフフ、そうね。ソラの声を聞いたら元気いっぱいになったわ」
「母様……」
レド様の元気な声を聞いて、感極まったソラの目から涙が溢れ出す。
「私……私……母様がいなくなって、頑張って母様の代わりになろうと……」
「ええ、コーイチさんから聞いていますからよく知っています。本当、よく頑張りましたね」
「はい……はい……」
「フフフ、後でゆっくりお話ししましょう」
レド様の声に応えるように一際強く光った精霊は、クルリと回って俺の方を向く。
「コーイチさん。私を召喚したということは、混沌なる者について知りたいのですね?」
「はい、そうです……ですが」
「構いません。今は親子の関係より、この世界のことです」
レド様が凛とした声で答えると、泣いていたソラも涙を拭いて力強く頷く。
「コーイチさん、母様がいつまで現世に保てるかわかりませんから、早くお話を聞きましょう」
「わ、わかった」
確かに話を聞く前にレド様との交信が切れてしまったら元も子もない。
それに世界を救えば、本物のレド様との再会果たすことができるのだし、必要な話を聞き終えたら、残った時間は親子水入らずで過ごせるのだ。
そうと決まればと、俺はレド様が憑依している精霊に向かって話しかける。
「それではレド様、混沌なる者について教えていただけますか?」
「ええ、わかりました」
精霊は頷くように一度大きく明滅すると、本題を切り出す。
「まず、何より話しておかなきゃならないことは、混沌なる者の分体は、非常に不安定な存在だということです」
「不安定……」
「ええ、基本的にあれは手にした力を無差別に放出するだけの存在、このまま放っておいても力を使い果たせば消滅するでしょう」
「そうなんですか?」
じゃあ、向こうが勝手に自滅するまで籠城してしまえばいい、何て思ったが、そう簡単にはいかないだろう。
「残念ながら私の見立てでは、赤い竜巻が消えるより、あの炎がここに届く方が早いでしょう」
「ですよね」
考えを見透かしたようにラピス様から注意が入り、俺は安易な考えを振り払うようにかぶりを振る。
「ですが、存在が不安定ということは、そこに付け入る隙があるということですよね?」
「そうです。そしてその鍵を握るのはコーイチさん、あなたしかいません」
「お、俺ですか?」
レド様を召喚するために呼ばれただけだと思っていたのに、まさかのキーパーソンと言われ、俺は驚きが隠せないでいた。
「俺だけしかできないことなんて、あるのですか?」
「はい、混沌なる者の分体、あれを倒すのは非常に難しいです。ですが、倒せなくても救うことはできます」
「倒すではなく……救う?」
予想外の単語の登場にどういうことだと思っていると、
「今回の贄となった者を救うことができれば、戦いに終止符を打つことができるでしょう」
「贄となった者って……レオンのことですか?」
「そうです」
「レオンを……救う」
まさかの人物の登場に、俺は心臓が早鐘が打ち出すのを自覚した。




