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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第9章 青薔薇の歌姫

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04 恐ろしい魔女。~ミヤコは渡しません~[挿絵あり]

 場所:タークの屋敷

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 メイドになった私は、床の掃き掃除をまかされ、(ほうき)を持って屋敷内を回っていた。


 ――いったいいくつ部屋があるのかしら。掃いても掃いても終わらないわー♪


 屋敷から出るなと言われたときは少しガッカリしたけれど、ターク様のお屋敷は驚くほど広かった。


 たくさんある部屋にはそれぞれに素敵な調度品が置かれていて、かなりの見応えがある。


 私は周辺に人の気配がないのを確認しつつ、歌いながら各部屋を掃いて回った。



「頼ってよー 僕の力ー♪

 頼りなく見えるかもしれないけど

 意外と役に立つよー♪」



 私がせっせと箒を動かしていると、背後から「こんにちは、メイドさん」と、だれかに呼びかけられた。



 ――あれ? だれもいないと思ってたんだけど……。



 振り返ると、扉から知らない女性が覗き込んでいる。



「素晴らしい歌ね!」


「ありがとうございます!」



 私の歌を褒めてくれた彼女は、いかにも魔女っぽいお姉さんだった。黒いとんがり帽子に黒いローブ姿。手には箒を持っている。


 髪はアメシストのような美しい紫で、ゆるくウェーブしながら腰まで伸びていた。


 歳はたぶん三十歳くらいだろうか。若く見えるけれど、なにかものすごく大物のオーラを感じる。



 ――すごい、きっと本物の魔女だわ!



 私が感動していると、彼女はカツカツとハイヒールの音を鳴らしながら部屋に入って来た。


 足はすらりと長く、胸とお尻は大きくて、ウエストはキュッとしまっている。


 歩く姿はまるで、スーパーモデルのようにかっこよかった。



「いい歌だわ。しばらくここで聴かせてもらっていいかしら?」



 彼女は私の近くのソファーを指さしてそう言った。


 歌うときは気をつけろとターク様に言われたけれど、歌を聞かれてもなにも起こらなかったみたいなので大丈夫そうだ。



「いいですよ。下手ですが、本当にいい歌なので。掃除しながらですが大丈夫ですか?」


「ええ。ここに座ってるけど気にしないで続けてね」



 金の装飾が(ほどこ)されたアンティークなソファーに、美人の魔女が足を組んで座っている様子はとても絵になっていた。


 ついつい、うっとりと見ほれてしまう。



 ――いけない、掃除掃除!



 (ほうき)を動かし、さっきの歌を歌う。

 中学のときコーラス部で練習し、歌のコンクールにも出た私の十八番だ。



「こんなに側にいるのに

 眩しくてきみが見えないー♪


 伝えたい想いは言葉にしよう

 目を細めてもいいからー♪」



 魔女さんはまるで、演奏会でも聴きに来たかのように静かに耳をすませていた。


 そして、私が歌い終わると、立ち上がり、興奮した様子で拍手をしてくれた。



「本当に素晴らしいわ! ありがとう! 感動しちゃった!」


「そ、そんなに褒めてもらうほどのことは……」



 さすがに少し恥ずかしくなって、顔を赤らめながら口をもごもごさせる私。彼女はそんな私を見て、瞳をキラキラと輝かせた。



「なんて可愛いの! 私の歌姫になって!」



 突然そう叫びながら私に飛びついてくる魔女さん。


 大きな胸に(はじ)き飛ばされそうになって、少しよろけた私を、魔女さんはしっかりと抱きしめた。



「お願い、お願い! 私と一緒に来てちょうだい!」


「ど……どこへですか?」



 突然のことに戸惑っていると、「ガルベル様、こんなところに居ましたか!」と大きな声が聞こえて、開いた扉からターク様が飛び込んできた。


 なんだかとても慌てながら、彼女を探し回っていたような様子だった。



「あら、タッ君じゃない」


「え? ガルベル様……? え? タ、タッ君……!?」



 魔女さんは、私に抱きついたままターク様を振り返る。


 呆れた顔で眉を(ひそ)めるターク様。


 そして私は、ターク様が小さい頃の達也と同じ愛称で呼ばれていることに、ただただ衝撃を受けていた。



「ガルベル様、こんなところでミヤコになにを……?」


「あら、この子がカミルンが言ってたミヤコちゃんなの?」



 驚いた顔で私を見る魔女さん。


 どうやらこの人が、噂の大魔導師ガルベル様のようだけれど、()()()()()()()()()だと聞いていた割りには、若くて綺麗すぎる気がする。



「ミヤコを放してください」



 ターク様にじっとりとした眼差しで見つめられた彼女は、ますます私を力強く抱きしめた。



「嫌よ。この子かわいいから、連れていくわ」



 彼女の大きな胸に埋まりこみ、アップアップともがく私を、ターク様が少し強引に引っ張って引きはがした。



「なによ、力づくね」


「あなたのような恐ろしい魔女に、ミヤコは渡しません」



 険しい顔でガルベルさんを睨んだターク様は、私の腕をしっかり掴んだまま、私を彼女から隠すように自分の後ろに押しやった。


 ターク様は、なぜか酷くガルベルさんを警戒しているようだ。



「あら、タッ君、まだあのこと怒ってるの? いい加減、私にそんな顔をするのはよしてちょうだい」


「あなたこそ、いい年して、気に入ったからと何でも持って帰るのはいい加減にしてください。ガルベル様、フィルマン様より年上ですよね。確か今年六十二歳……」


「えぇ? 六十二……!?」


「タッ君!? それは言わない約束でしょ!?」


「ガルベル様こそ、その呼び方、もうやめるって言いましたよね……!?」


「そんなこと言った覚えはないわ! タッ君! タッ君! タッ君!」



 興奮してギャーギャー(わめ)くガルベルさんと、イライラを隠そうともしないターク様。


 私は青ざめた顔でターク様の陰から二人を見上げていた。



 ――なになに!? なんだかすごく怖いんですけど!? 怖い魔女のおばあさんってそういう意味なの!?



 ターク様とガルベルさんは睨み合ったまま固まってしまった。


 お互いの目から電撃がバチバチと飛び交っているのが見えそうだ。


 二人のただならぬ雰囲気に、私は冷や汗をかきながら二人の間に割って入った。



「あのぅ、ここは埃っぽいですから、お茶をご用意いたしますので、客室に移動なさいませんか?」



挿絵(By みてみん)

 突然現れた美しい魔女はなんと、ターク様が「恐ろしい魔女の婆さん」と言っていた大魔導師ガルベルでした。宮子の歌を気に入り、歌姫になって欲しいと言い出した彼女に、ターク様は敵意丸出しです。

 

 次回、ガルベルに植え付けられたターク様のトラウマに、ミヤコは愕然とします。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
さ、さすがは大魔女さま!? 綺麗な容姿はもちろん、言動もお若いですね。 今のところは押しの強そうなお姉さんという印象ですが、ターク様が警戒する理由は気になるところです。 本当に宮子を専属歌姫にしたいだ…
[良い点] ここでガルベル登場ですか。大変な美魔女です。 宮子は気に入られましたが、どこに攫われようとしているのでしょうか。 彼女の登場でますます物語は加速していきそうですね。 たっくんはガルベルを…
[一言] ガルベル様に気に入られたみやこ。 そして取り返そうとするタッくん! 果たしてどうなる!? 花車様いつもお疲れ様です(*`・ω・)ゞ
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