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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第9章 青薔薇の歌姫

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03 傷心のターク様。~恥ずかしいリクエスト~

 場所:タークの屋敷

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 マリルさんにプロポーズすると言って出かけたターク様は、大量のお土産を買って帰ってきた。


 彼は書斎にお土産の山を築くと、メイド達を全員呼び寄せ「好きなものを持っていけ」と、得意げな笑顔を見せた。


 メイドたちはキャーキャー言いながら大喜びだ。ターク様はその様子を満足そうに、微笑みを浮かべながら眺めている。



 ――ターク様、プロポーズ成功したんですね! こんなに上機嫌でお土産を買ってくるなんて、浮かれちゃって可愛いです!



 ドレスにお菓子にアクセサリー。前に王都で一緒にウィンドーショッピングをしたときに、私が気に入って眺めていたものがたくさん混ざっている。


 私はあのとき森で食べたお菓子の缶を見つけ、周りのメイド達に負けじと目を輝かせながら、土産の山に手を伸ばした。


 だけど、ふと気になってもう一度ターク様をみると、キラキラオーラのせいで本当に分かりにくいけれど、どうも顔つきが暗い気がする。



 ――あれ? 落ち込んでる? え……まさか……ターク様……?



 さらによく見ると、ターク様はしおれた花束を抱えていた。どうやら、マリルさんと出会って以来、私が一番心配していたことが起こってしまったようだ。



 ――どうしてすぐに気がつかなかったんだろう。豪華なお土産にすっかり気を取られていたわ……。



 目の前の風景がグラグラ揺れ落ち、暗くなっていくような感覚が私を襲う。



 ――私のせいで、ターク様の幸せを壊してしまった……! あぁ! ターク様……! 本当にごめんなさい。



 お土産に騒ぐメイド達の中で、立ち尽くしたまま自分を見つめている私の視線に気付くと、ターク様は気まずそうにふいっと顔を背けた。



 ――あぁ……、どうしよう、どうしたら……。



 そのとき、固まっている私に気付いたサーラさんが、「ミヤコ? どうしたの?」と、私の肩をたたいた。



「早く欲しいものを取らないから、なくなっちゃったわよ?」


「あ、本当ね……ついぼーっとしちゃった」


「もう、何してるの? それじゃ、私、たくさん貰ったから、これあげるね」



 サーラさんはそう言って、私にドレスを一着渡してくれた。それは、王都で、ターク様が私に似合うと言っていた、青い薔薇のドレスだった。


「ありがとう」と言ってドレスを受け取り、顔を上げると、そこにはもうターク様の姿はなかった。



「あら? ご主人様、ベッドルームへ行ってしまわれたみたいね。お疲れだったのかしら。あらあら、花束が、(しお)れてる。花瓶に挿しておきましょうね」


 メイドの一人が書斎の花瓶に花束を飾ろうとしている。


「ターク様が、それはメイドの部屋に飾るように言ってましたよ」


 私はそう言って、花束をメイドの部屋へ持って行ってもらった。



      △



 ワイワイしていたメイドたちがみんな部屋に帰ると、私は恐る恐るターク様のベッドルームの扉をノックした。



「ターク様……?」


「なんだ、ミヤコか。どうした?」



 彼はベッドの背にもたれかかり、本を読んでいるポーズをしている。しかし、手に持った本がどう見ても上下逆だった。



「ターク様、大丈夫でしたか? 今日……その……」


「なんの話だ」


「プ、プロポーズは、上手く行きましたか?」


 私がそう尋ねると、ターク様はまた顔をふいとそらした。


「私のプロポーズが失敗するわけないだろ」


「ごめんなさい、ターク様。私のせいですよね。私が、ここにずっといたから……」


「な! だから、失敗してないって言ってるだろ!」


「でも! ターク様、バレバレですよ! あーん、ごめんなさい……!」



 私がしくしくと泣き出すと、ターク様は大慌てで立ち上がり、私を引っ張ってベッドに座らせた。



「またお前は……。泣くのはよせといつも言ってるだろ」


「だけど、私のせいで、ターク様が……」


「私がバカだっただけだ。お前のせいじゃない、頼むからいちいち泣くな。泣きたいのは私なんだ」



 ターク様がそう言って私の肩を抱くと、今日水仕事で作ったアカギレがスゥッと治っていく。



「ターク様、泣きたいときまで治療するの、やめてください」



 私は、ターク様の元気のないときにまで、()構い無しにでてくる加護の光がなんだか恨めしかった。



 ――どうしてもう少し、ターク様の気持ちに寄り添ってくれないの?



 そう思うけれど、癒しの加護を悪く言うことは出来ない。それで思わず、そんなことを言ってしまった。



「勝手をいうな。私だって好きでいつも光ってるわけじゃないぞ。一体なにをしに来たんだ? バカにしに来たならメイドの部屋に帰れ」



 私の言葉にムッとしてしまったターク様。


 もっと、ターク様に伝わるように言葉を選ばないといけなかったようだ。



「私、ターク様を慰めに来ました。どうしたら元気になりますか? ツボ、押しますか?」


 彼は少し考えて、「いや、今日はいい」と首を横に振った。


「それじゃぁ、眠くなる歌を歌いますか?」


「それは……大丈夫だ」


「じゃぁ、どうしたら、ターク様は元気になりますか?」



 そう尋ねる私を、ターク様はじっと見つめ返してきた。悲しみに沈んでいた黒い大きな瞳が、期待に輝いているのがわかる。


 への字に閉ざされていたターク様の唇が少し開いて、なにかを言おうとしている。



 ――これ、しまったかも……。



 と、私が身構えたとき、ターク様は私が抱えている青いドレスを指差した。



「それ、気に入ったのか?」


「あ、はい、先ほどいただきました。ありがとうございます」


「なら良かった。お前がゴイムから解放された祝いだ。だがお前だけにやるわけにいかないからな」


「そ、そうだったんですか!? ありがとうございます」


 ――そのために、メイド達みんなにお土産を!? すごい量だったけど……。



 私はドレスを譲ってくれたサーラさんに感謝しながら、改めてその青いドレスを眺めた。


 アクセントの青い薔薇(ばら)はかなり大きいけれど、目立ちすぎず、上品で本当にすごく綺麗なドレスだ。



 ――ターク様はどうして、私にドレスを与えたがるのかな。


 ――王都でのあれは、達也の仕業じゃなかったの?



 そんなことを考えていると、ターク様は急に私の耳元に唇をよせた。



「ミヤコ、私を元気付けたいなら、それを着て見せてくれ」


「はわ……!? わ、分かりました。すぐ着替えてきます!」



      △



 耳がゾクゾクするような甘い声で囁かれ、癒しの光に耳の中までくすぐられて、真っ赤になって飛び上がった私は、ドレスを抱えてバスルームに駆け込んだ。



 ――なにこの恥ずかしいリクエスト! ターク様ってときどきほんと困る!


 ――距離感! 距離感がおかしいの!



 鏡に映った自分の顔が、(おどろ)くほど真っ赤になっていて、私はため息をつきながらバスルームの壁にもたれかかった。



「落ち着け……私……」



 ドキドキする胸を必死に沈めながらドレスに着替え、バスルームを出る。


 私のドレス姿を見たターク様は、立ち上がってじっくりと私を眺めた。



「やっぱりな。思った以上に似合ってる。ずっと、お前にそのドレスを着せてみたかったんだ」


 すごく満足そうな顔でそう言って笑うターク様。


「タ、ターク様、大丈夫ですか? 達也に操られてませんか?」


「タツヤか……あいつも良く似合うと言っているぞ。だが、ジロジロ見るなと怒っている。自分も見たいくせにややこしいやつだな」


 ――うひゃー……。



 ターク様は、赤面する私を見て、ニヤニヤと笑った。疲れたような(うつろ)な眼差しで、意地悪(いじわる)そうに笑うターク様を見るのはなんだか久しぶりな気がする。



「ターク様、からかいすぎですよ。もう恥ずかしいので脱いできます……」


「もう脱ぐのか? 私を励ますんだろ?」


「もう限界です」


「ちょっと待て、これをやるから」



 ターク様はそう言うと、私の後ろに回り、青い小さな石がキラリと光るネックレスを首にかけてくれた。



「さっき並べ忘れて、一つ残っていたんだ」


「わ、ありがとうございます」


「本当は、お前に似合うと思ってよけてあった」


「はわぁわ……」


 ――ターク様さっきからわざとですよね!?



 口をパクパクさせる私を見て、ターク様は満足そうにクククと笑う。



「よし。お前を見ていたら眠くなってきた。思ったとおり、青いドレスの沈静効果は絶大だな。私は寝るぞ」


「分かりました。バスルームお借りしてから失礼します!」


 ――なるほどー! 鎮静作用を求めてたんですね!



 私がいそいそと着替えてバスルームから出ると、ターク様は本当に寝息を立てていた。ピエトナ抱き枕を抱きしめて眠るターク様の寝顔は相変わらず天使すぎる。


 ――おやすみなさい。ターク様。


 彼は相当(そうとう)落ち込んでいるように見えたけれど、本当にもう、マリルさんとは別れてしまったんだろうか。


 ターク様につけてもらったネックレスにドキドキしながら、私は小走りでメイドの部屋に戻った。



ターク様を励ましに行った宮子にターク様はドレスを着てみて欲しいとお願いしました。彼はずっと宮子にこの青いドレスを着せてみたかったようです。

 

次回、メイドの仕事をしている宮子の元に美しい魔女がやって来ます。その正体とは……?


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
宮子、やはり気遣いのできる子です! 恥ずかしい思いはしたものの、プレゼントをもらってターク様の気晴らしができましたから、結果的にはよかったですよね。
[良い点] ターク様もフラれた時まで英雄ロールをしないといけないのは辛い。 彼の加護が本意でなく輝いてしまうのも、彼の心情を他者から覆い隠してしまいかねません。 プロポーズを断られるというメタメタに…
[一言] 花車様こんにちは! そして拝読させていただきました!プロポーズに失敗したターク様。 そして、それが自分のせいだと思い込むみやこ。 これは辛いなぁ。 早くいい笑顔が戻りますように!
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