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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第8章 契約解除への道

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07 契約解除。~熱烈キッス~

 場所:ウィーグミン伯爵邸

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 翌朝目が覚めると、ターク様はまだしっかりとピエトナを抱きしめていた。


「ターク様、もう朝ですよ」


「ああ、よく寝た。ミヤコ、火傷が治ったか確認してくれ」



 ターク様がピエトナから離れようとすると、ピエトナはくるっとターク様に向きなおり、彼にギュッと抱きついた。



「わ、なんだ? ピエトナ、私に惚れたか?」



 ターク様が少しのけぞりながらも、優しくピエトナを抱きしめると、ピエトナは大きな口を窄め、思いっきり吸い付くように彼にキスをしはじめた。



「うわ、ちょっとまて……」


 よほどターク様が気に入ったらしく、彼を押し倒し、のしあがり、何度もキスをするピエトナ。


「おい、ま、ピ……まて……!」



 いつの間にか少年の姿になっていたライルが、襲われるターク様を見てケラケラと笑い転げていた。


 ピエトナがターク様に気を取られているうちに、そっと彼女のスカートをめくり、傷を確認する。



「ターク様、火傷、治ってます!」


「よし、よかったなピエトナ。偉いぞ」



 ターク様は、はぁはぁと肩で息をしながらも、ぐいっとピエトナの顔を押し返し、優しい顔で微笑んだ。


 なんだか本当によく眠れた様子のターク様は、ずいぶんスッキリした顔をして、少しご機嫌だった。



      △



 元気になったピエトナを見たウィーグミン伯爵は、三角につりあがった目から滝のように涙を流して喜んだ。


 ターク様の手を両手で握り、ブンブン振り回しながら何度もお礼を言う伯爵。その様子を見たピエトナは、嬉しそうに手を叩いて跳ね回った。



「あんなにひどい火傷が魔力も使わずに一晩で……本当に素晴らしいです!」


「では、ミヤコのゴイム印を消していただけますか?」


「もちろんですとも! もちろんですとも!」



 ウィーグミン伯爵はそう言うと、私たちを書斎に案内した。鍵付きのデスクの引き出しから厳重に保管された箱を取り出すと、そこには黒い印が押された魔法の契約書が入っていた。



「ミレーヌとの契約を破棄します!」



 そう言いながらウィーグミン伯爵が契約書を破ると、私の腕からあの黒い刻印が剥がれるように浮きあがり、スッと消え去った。



――ずっと、ずっと、恐ろしくて、見るだけで気分が悪くなったあの刻印が……消えた……!



 刻印が刻まれていたその場所を、反対の手で摩ってみると、そこはまるで、はじめからなにもなかったかのようにすべすべとしていた。


 何度も確認するように、腕をさすり、気が抜けたようにその場に座り込む私。


 ピエトナが私を心配するように、そばに近付き、スカートの裾を握ってくれる。彼女はチンパンジーだけど、とても優しい心を持っているようだ。


 私は可愛い彼女をギュッと抱きしめた。



「これでミレーヌと私のゴイム契約は破棄されました。これはミレーヌの所有権をターク卿にお譲りするという証書です。受け取ってください」


「ありがとうございます。ウィーグミン伯爵」



 ウィーグミン伯爵から、奴隷の所有権利書を受け取ったターク様は、深々と頭を下げた。これで私はターク様の所有する奴隷になったようだ。



「ターク様、ウィーグミン伯爵、ありがとうございます。ピエトナも、本当にありがとう!」



 ピエトナと抱きあってポロポロと泣く私を見て、ターク様とウィーグミン伯爵は、笑顔で握手を交わした。



「ミヤコ、行こうか」


「はい!」



 帰り際、馬車に乗り込む私たちを寂しそうな顔で見送っているピエトナを、ターク様は名残惜しそうに抱きしめた。



「またな、ピエトナ。ほんというと私はお前も連れて帰りたいぞ。すごくよく眠れた。ありがとう」



 ウィーグミン伯爵が、「だめですよ」という顔をしてターク様を(にら)んでいる。彼はよほどピエトナが気に入ったようだった。


――ターク様の不眠症には、なにか癒しになるようなペットを飼うのがいいかもしれないわね。


 そんなことを考えて、ふと、マリルさんに()()だと言われたことを思い出した私。



――もしかして、私、本当に珍獣なのかも。



 そう思った瞬間、なんだか妙に納得してしまった自分に苦笑いする。



「本当に、ありがとうございました」



 私たちはお互いに礼を言いあうと、馬車に乗り込み、手を振ってウィーグミン邸を出発した。

 ピエトナを抱きしめてぐっすり眠ったターク様は、久しぶりにご機嫌で目を覚ましました。ピエトナの火傷も治り、無事にゴイムの契約を解除してもらい一安心の宮子です。ピエトナを気に入った様子のターク様を見て、やっぱり自分は彼にとって珍獣だったのかもしれないと苦笑いします。


 次回、ウィーグミンの街に出た二人。宮子は先日森で見たミレーヌの記憶についてターク様に話をしますが……。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
あ、ターク様、久しぶりに快眠できたんですね。よかった! 伯爵も本当にいいひとでしたか。 すみません、実はまだ少し裏があることを疑っていました。 ピエトナもいい子! 無事に契約は譲渡され、なんとも和…
[良い点] ピエトナにキスされて「私に惚れたか?」とは、手慣れておられるターク様。 彼も癒されて眠れたようで、いい出会いでしたね。 アニマルセラピーも効くのなら、彼の精神状態にも改善の余地があるようで…
[一言] ピエトナの火傷治って本当に良かった! そしてピエトナも心優しい子でしたね٩(ˊᗜˋ*)و これでみやこもはれてターク様のゴイムへとなりましたね! 楽しかったです(っ ॑꒳ ॑c)
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