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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第8章 契約解除への道

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04 ミレーヌの主人(1)~蛇のような目の男~

 場所:ウィーグミン伯爵邸

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 沢山の魚屋が建ち並ぶ市場に通りかかると、ライルは「僕はお魚を食べてくるよ」と言い残し、どこかへ消えてしまった。


 私とターク様はそのまま、ミレーヌの所有者がいる屋敷を目指して、今はその人が居る客室の前まで来ている。


 私たちは二人して入口に立ち止まったまま、中の様子を静かに(うかが)っていた。


 部屋の中にはひょろりとした細身の身体で、いかにも貴族と言う感じの派手やかな服装を着こんだ男が、ソファに深く腰をかけ、足を組んでいるのが見えた。


 足がすくんで一歩も動けない私。


 あの感情の見えない蛇のような目、彼は間違いなくミレーヌのご主人様だ。



「ミヤコ、行けそうか?」


「こ、怖いです……」


「大丈夫だ。私がついている。刻印を消してもらいに行こう」


「はい!」



 私達が近づくと、男は立ち上がり、仮面のような笑顔をこちらに向けた。



「やぁやぁ、いらっしゃい」


「お招きいただきありがとうございます、ウィーグミン伯爵」


「いえいえ、ご足労でした、ターク卿。ふむふむ、これはこれは……」



 ウィーグミン伯爵は、ターク様の姿をまじまじと見ながら、その周りをぐるりと一周すると、興奮した様子で、釣り上がった目を輝かせた。



「ほうほうほう、実に素晴らしい! 噂に聞いた通りですな! 金色に輝く不死身の身体を持ち、大剣を操り神業のような剣技を繰り出す、まさに国の希望! 今をときめく大剣士ターク・メルローズ! お会い出来て嬉しいですよ!」


「ありがとうございます」



 ターク様はにっこり微笑んで片手を差し出し、ウィーグミン伯爵と握手を交わした。



「素晴らしい……なんて神秘的な感覚だ! これが癒しの加護!」



 伯爵はターク様に握られた手をうっとりとした表情で見つめた。


 ターク様は私の肩にそっと手を置くと、私を伯爵の前に押し出した。



「さっそくですが、ウィーグミン伯爵、彼女がこちらで使われていたミレーヌで間違い無いでしょうか?」


「ふむふむふむ!」



 ウィーグミン伯爵は、今度は私の周りをぐるっと一回りしながら、(あご)に手を当てふんふんと眺めまわした。



 ――怖い……。



 私はその視線にビクビクしてぎゅっと目を閉じ肩をすくめた。



「そうだ、そうだ、ミレーヌ、久しぶりだな。とにかくまぁ、ターク卿、どうぞお座りください。ミレーヌもここに座りなさい」



 伯爵が手を叩いて給餌(きゅうじ)を呼び、紅茶とお菓子が並べられて、甘い香りがあたりに漂った。


 伯爵は紅茶を手に取ると「ほうほう」と言いながら紅茶の香りを堪能(たんのう)する。


 私は小さくなって震えていた。伯爵の鋭い目つきが怖くて仕方なかったのだ。だけど、伯爵は思いの外優しい声で、私に話しかけてきた。



「……ミレーヌよ、心配したぞ。外に出ていてよく無事だったものだ。ピエトナもきっと君に会えば喜ぶだろう」


 ――ピエトナ……?



 聞き覚えのない名前にきょとんとして思わずターク様の顔を見る私。


「ウィーグミン伯爵、彼女は過去の記憶がほとんどないのです。出会った時は、自分の名前すら忘れていました」


 ターク様が説明すると、伯爵がおどろいた様子で眉を持ち上げた。鋭かった伯爵の目が垂れた三角のようになる。



「なんと……! 私やピエトナの事を覚えていないと?」


「伯爵様の事は最近断片的(だんぺんてき)に思い出したようです」


「ほうほう……ミレーヌよ、それは大変だったな。ミレーヌを助けてくださった事、感謝しますぞ。ターク卿」



 伯爵は、紅茶を置くと改まった様子でターク様に礼を言った。



「いえいえ。彼女はたまたま、私の屋敷の前に倒れていたのです。しかし、こんなに遠方から彼女が一人でメルローズ領まで来たとは考えにくい。ウィーグミン伯爵、心当たりはごさいませんか?」


「うーむ。私も不思議に思っておりました。なにせミレーヌは急に居なくなってしまったのです」


「そうですか……ではこれはどうですか?」



 ターク様は私に、腕の刻印を伯爵に見せるよう(うなが)した。



「ほうほうほう。これはこれは……」


「彼女の刻印には、所有者を隠すための封印がなされています。それでなかなか伯爵を見つけられず、今まで預かっていたと言うわけなのです。なぜこんな封印がかけられたのか、ご存知ないですか?」


「ふーむ、ふむ。私も手紙をもらった時から不思議に思っていたのです。所有者ならしっかり刻印に刻まれているはずなのに、と。封印に記憶喪失……これはいったい、どういう訳か」



 ウィーグミン伯爵は、全く心当たりがない様子だ。自分の(あご)を指先でつまんだり放したりしながら、ターク様の話を不思議そうに聞いている。



「では、初めて会った時、彼女には鞭で打たれたような無数の傷がありました。それには心当たりありませんか?」



 ターク様がそう言うと、伯爵はどきりとした様子で口に手を当てたまま固まってしまった。



「ウィーグミン伯爵……?」



 ターク様が伯爵の顔をじっと見つめると、伯爵は視線を落とし、震える声で言った。



「あぁ、あぁ、あるとも……ありますとも……。それは私がやったのですから」



 手に持っていた紅茶をテーブルの上のソーサーに戻そうとするウィーグミン伯爵。


 伯爵の手が細かく震えて、カップはカタカタと音を立てていた。



 不死身の大剣士に会えた事を喜ぶウィーグミン伯爵。刻印に施された封印や宮子がタークの屋敷の前に倒れていた理由については知らないと言う彼ですが、宮子の体にできていた無数の傷について質問すると顔色が変わりました。


 次回、ウィーグミン伯爵はミレーヌを虐待した理由を話し始めます。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ライルは本当に魚目当てだけで来たのですかね? 彼の行動目的にも目を光らせておきます。 ウィーグミン伯爵は貴族ですが、初対面から学者然とした印象を受けますね。 口調が研究者といった感じで、…
[一言] ウィーミング卿についにあいましたね! そしてミレーヌを痛めつけた理由。 どうなるのか!? 更に読み進めさせていただきますね! 早く読んで次も読みたいのです:( ˙꒳˙ ): 花車様の作品にハ…
[良い点] 先に謝っておきますね。 「このおやっさん、怪しい……」( *`ω´)ぺっ うさみち「やっちまいなぁ、冤罪だったらそれまでさ」 達也「がってん承知」 って感じです。怪しさ( *`ω´)ぷ…
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