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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第8章 契約解除への道

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03 ウィーグミンへの道のり(2)~は…早すぎる!~

 場所:ベルガノン王国

 語り:小鳥遊宮子

 *************



「こんなに国中が魔力不足でなければ、この辺りの街や村は転送ゲートで一瞬で移動できるんだがな」


 宿を出発して二時間ほど経った頃、ターク様は馬車を操作しながら、ぽつりと呟いた。


 景色は昨日と打って変わり、ゴツゴツした黄色い岩肌が目立つ、細い谷に差し掛かっていた。



「瞬間移動ですか? 凄いですね、やってみたいです!」


「あぁ、しかし今はゲートに魔力が供給されていない。乗り物での移動は危険だし時間がかかるな」


「ターク様がお強いので、冒険みたいで楽しいです」


呑気(のんき)な事を言うな。この谷の魔物は数が多く知恵もある。お前も少し警戒するんだ」



 あんなに強いターク様が、少し緊張した顔をしている事に気付き、私は改めて目前に迫る谷に目をやった。


 岩山に(はさ)まれた細い一本道は逃げ場もなく、ここで強い魔物に遭遇(そうぐう)したらと思うと確かに身震いがする。


 私達は周囲を警戒しながら、ゆっくりと谷に入った。


 だけど、しばらく進んでみても、これまで頻繁(ひんぱん)に出没していた魔物が、全く姿を見せなかった。


「妙に静かだな……」


 あまりに谷が静まり返っているので、ターク様が馬車を降り、周辺の様子を(うかが)っていると、突然ガラガラと大きな音がして、切り立った崖の上から大量の大きな岩が落ちてきた。


 落石が馬車を潰しそうになると、ターク様は素早く大きなシールドを出して防ぎ、岩と一緒に飛び降りてきた魔物達を黒い大剣でバサバサと切り裂いた。


「数が多いな」


 シールドを切らさないようにしながら片手で大剣を振り回すターク様。


 すばしっこい上に、どんどん増える魔物に、次第に数で押され始めた。



「ライル、加勢してくれ」


「はいはい。報酬はきっちりもらうからね」



 ライルは少年の姿になると、鋭い(カマ)のような武器を取り出して、バッサバッサと魔物達を切り裂き始めた。


 黒いローブのフードを被って、鎌を振り回すその姿は、こう言っていいのか分からないけれど、まるで死神のようだ。


 ぬらりと光るギザギザの歯をむき出しにして、「キキキ」と笑いながら魔物を切り裂くこの姿を見れば、皆がライルを恐れるのも納得が行く。


 魔物達はターク様のひざ下くらいの大きさで、サイズこそ小さかったけれど、その分かなり素早かった。


 これはきっと、図鑑で見た()()()()()だ。


 一見大きいネズミみたいだけど、攻撃的な赤い目と、鋭い爪を持ち、背中は爬虫類(はちゅうるい)のような硬い(うろこ)に覆われている。


 図鑑にも確かに、()()()()()()()()()と、書かれていた気がするけれど、それがこんなに多いなんて……。



 ――ターク様、ライル、頑張って!



 私は怖いのを誤魔化(ごまか)そうと、目をつぶって手を合わせ、心の中で祈るように歌った。



 ――諦めないで マイヒーロ~♪

 信じる力 風に乗って~

 はやる心今は(おさ)えきれない~♪



 とたんに緑に光る風がターク様とライルを包み込んで、彼らの動きが素早くなった。



「なんだ!?……ウィンドクイックか……!? しかしこれは……は、早すぎだっ……!」


「わぁ! 僕、風になったみたい!」



 二人は見えないほどの早業(はやわざ)で次々と魔物を倒していった。


 馬車を守るターク様のシールドに群がっていた魔物達がすっかり倒されて、谷に静寂が戻ると、ターク様はゼーゼーと肩で息をした。



「わぁ、もう倒しちゃったんですか!? すごい数でしたけど」


「ミヤコ……お前何か歌ったか? また術が発動していたぞ」


「えっ!? 歌は声に出してませんが……私何かしたんですか!?」


(うそ)だろ……無自覚な上、詠唱(えいしょう)なしでそれか……?」



 ターク様は驚いた顔をして少し後ずさりした。



(おそろ)ろしいやつだな……」


「私また、何かご迷惑をかけたんですか?」


「いや、良いんだ。助かったよ。だがその歌も、歌うのは頼んだ時だけにしてくれ」


「分かりました!」


「うむ……。今のシールドで魔力を切らしてしまった。次に同じことがあれば危険だ。早く街へ入ろう」



 谷を駆け抜け、その先の丘に上ると、目の前には大きな街と、海が広がっていた。


 私たちはようやく、ミレーヌの主人の屋敷がある、ウィーグミン領に到着したのだった。



 魔物に取り囲まれ苦戦するターク様とライルに宮子は無詠唱で支援魔法を発動しました。その恐ろしいほどの効果と、宮子の無自覚さにたじろぐターク様。二人と一匹はようやくウィーグミンに到着しました。


 次回、目つきの怖いミレーヌの所有者を怖がる宮子。ターク様は宮子をゴイムから開放できるのでしょうか?


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
声に出さなくても詩が効果を発揮するようになってしまいましたか。 使いこなせれば凄い力になりそうですけど、そうでなければ確かに危険かも知れません。 どこかで少し訓練できたらいいですね。
[良い点] 宮子は本当に豪胆ですね。 鍛えれば支援役として戦闘もこなせそう。 普通の女の子なら恐怖の克服から始まり、一向に物語が進みそうに無さそうなくらいでしょう。 ライルは鎌使いですか。 不吉な雰…
[一言] 遂に到着ウィーグミン! そしてミレーヌの所有者のいる場所へ! どうなってしまうのか!? 期待大です.°ʚ(*´꒳`*)ɞ°.
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