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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第8章 契約解除への道

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02 ウィーグミンへの道のり(1)~黒猫とスーパーヒーロー~

 場所:ベルガノン王国

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 ミレーヌの所有者から手紙が届いた翌朝、私、小鳥遊(たかなし)宮子は、ターク様の準備してくれた馬車に乗り込んでいた。


 ターク様は自分で馬を操作するつもりらしく、御者台で出発の準備をしている。


 ウィーグミンへは馬車で一日半はかかるらしい。そんなに長い時間ターク様と二人で居るのは、初めてかも知れない。私は(ひか)えめに言って、結構緊張していた。


 ターク様は基本的には無口だし、会話が続かないのは仕方がないけれど、最近の彼は明らかに私を避けているのだ。


 今日だって、こんなに近くに居るのに、ほとんど目も合わせてくれない。



 ――あんな事があって、気まずいのはわかるけど、ちょっと避けすぎじゃないですか? この空気、何日も耐えられるのかな……。



 そんな事を考えながら、ターク様の背中を眺めていると、私の(ひざ)に一匹の黒猫が飛び乗ってきた。



「わぁ、ライル! 久しぶりだね!」


「えへへ、ミヤコ、おはよう! ウィーグミン、僕も付き合ってあげるよ」


「え、本当?」



 ライルは、前足を揃えて私の(ひざ)の上にちょこんと座ると、「ゴロニャーン」とでも言いそうな顔で私を見上げてきた。


「うんうん」と、黒猫姿で(うなず)くライルが可愛すぎて、彼が少年なのも忘れ、「可愛い!」と、思わず抱きしめてしまう。


 ライルがいれば、ターク様とのこの微妙な空気も、随分(ずいぶん)ましになるだろう。


 これで一安心、と喜んでいると、ターク様は不満いっぱいの顔をして、私からライルを(うば)い取り、ぽいっと馬車の外に放り出してしまった。



「ライル、何を企んでるのか知らないが、今回は大事な用なんだ。邪魔をするな」


「ひどいな、ターク。僕はお魚が食べたいだけだよ。連れて行ってよ。ずっと猫でいるからさ」


「なるほど魚か。ウィーグミンは海の幸が豊富だからな。しかし、何故私達がウィーグミンに行く事を知っているんだ? さては昨日、覗いていたな?」


「えへへ。気付かなかった?」


「魔女の化け猫め」



 ターク様はそう言うと、「しっしっ」と言うように手を振った。けれど、ライルは「えへへ」と笑って、何食わぬ顔で再び馬車に乗り込む。


 ターク様は「ふん」と前を向くと、諦めたのかそれ以上何も言わず馬車を発車させた。


 こうして私達は、二人と一匹でウィーグミンを目指して出発する事となった。



      △



 メルローズの街を囲む砦を潜り、東に向かうと、そこは広い平原だった。一見何もないけれど、時折木や岩の影から魔物が飛び出してきては道をふさぐ。


 図鑑でかなり魔物に詳しくなっていた私だけれど、実際の魔物を見るのは初めてだった。


 見た目は想像していた通りだけれど、鳴き声が不気味だったり、気持ち悪い粘液を吐き出してきたりしてかなり怖い。思わずライルを抱きしめる腕に力が入ってしまった。


 魔物が現れると、ターク様が馬車を止め直ぐに退治してくれる。最初はいちいち怖がっていた私だけれど、ターク様にかかれば、どの魔物も可哀想(かわいそう)なほど弱い、という事に気付くと、だんだんと余裕が出てきた。



「ターク様、かっこいいです!」



 私がターク様の剣技に歓声(かんせい)をあげると、彼は見事なドヤ顔を見せてくれる。



「当然だ、私は不死身の大剣士ターク・メルローズだからな」


 ――それ、久々に聞きました!



 戦っている時の彼は、最近のターク様からは想像もできない程にイキイキとしていた。


 倒せば倒すほど、ターク様に力がみなぎっていくのが分かる。生命力に(あふ)れた彼の戦いぶりは、彼の細身の体から繰り出されているとは思えないくらい、驚くほどパワフルで豪快(ごうかい)だった。


 普通の状態でも十分強いけれど、時折真っ黒な大剣から(まばゆ)い光が溢れ出すと、ターク様の強さはさらに何倍にもなった。


 彼の黒い瞳が金色に光り、重い剣圧と共に剣先から強力な光の刃が飛び出すと、大抵の魔物は近付く事さえ出来ないのだ。


 こんなに強くて、しかも不死身。彼は間違いなく、()()()()だ。戦地に居た彼は、スーパーヒーローだったに違いない。


 今だってターク様が戦う姿を見ると、彼が療養中だと言う事を忘れてしまいそうになる。本当に彼は、どうして戦地から戻ってきたのだろう。


 カミルさんがターク様の治癒に頼りながらも「君はここにいるべきじゃない」と、しつこく言うのも分かる気がしてきた。


 いくら治療ができても、バローナが上手くても、ターク様は剣士で、戦っている時がきっと、一番輝いているのだ。カミルさんはその事を、誰よりもよく分かっているのかも知れない。


 そんな事を考えているうちに、馬車は、草原の長い一本道を過ぎ、小さな村に入った。


 私達はそこで、宿に泊まる事にした。



「一人にするわけにはいかないからな」



 ターク様は当たり前のように二人部屋を取った。ライルは猫なのでカウントしなくていいらしい。


 『ダブルベットだったらどうしよう……』と、心配しつつも部屋に入ると、そこにはシングルベットが少し離して二つ置かれていた。


 少しホッとして隣を見ると、ターク様もどうやらホッとしている様子だった。



「あれ? 今日はミヤコと一緒に寝ないの? てっきりこっちのベッドは僕のかと思ったよ」



 それぞれ別のベッドに入った私とターク様に、ライルが不思議そうな顔をする。



「ライル……私の寝室に忍び込むのはやめろ」


「えへへ」


 ――まさかライルに、私達の添い寝現場を覗かれていたなんて……。



 全く気が付かなかったけれど、いったい、いつ見られていたのだろうと、不思議で仕方がなかった。ターク様ですら気付かない程に、ライルは本当に気配がない。


 私が顔を赤くしてベッドに潜り込むと、「じゃぁ、僕はミヤコと一緒に寝よっ」と、ライルが胸元に入ってきた。



 ――黒猫ちゃんと一緒に寝るなんて、ちょっと幸せ!



 私がライルをムギュッと抱きしめると、途端にライルがポンっと猫耳少年の姿になって、私を見上げギザギザの歯を見せてニカっと笑った。



「ひゃ、ライル、寝る時はそっちの姿なの?」


「こっちの方が抱きしめがいがあるかなと思って」


 ――うーん、これは逆に抱きしめにくいかな……。



 私が苦笑いしていると、ターク様が苛立った顔でライルをヒョイっとつまみ上げた。



「猫に戻って床で寝ろ」


「ひどいよ。せめてベッドの端で寝かせてよ」



 ライルはポンっと猫になると、()ねたように私の足元に丸くなった。



 ――ごめんね、ライル……。


「明日は少しやっかいな魔物が出る谷を行かなくてはいけない。念のため少しでも魔力を回復しておきたいからな。さっさと寝るぞ」


「は、はい」



 ターク様は最近、あんなに喜んでくれていた()()()()()を歌わせてくれない。


 表情は日増しに硬くなっているし、絶対寝不足の(はず)だけれど、(うつろ)な顔でふらついているいつもの寝不足とは違い、なんだか瞳がギラギラしている。



 ――ターク様、大丈夫かな……。



 断られると知りつつ、「歌を歌いましょうか?」と、ターク様に声をかけると、彼はやはり首を横に振った。



「いや……。また術が発動したら困る。お前もゆっくり寝るんだ」


「じゃぁ、ツボはどうですか?」


「……今日は必要ない」



 ターク様は私に背を向けると、そのままじっと動かなくなってしまった。



 ――せっかく、ターク様のお役に立てたと喜んでいたのに。どうして少しも頼ってくれないのかな……。


 ――私が迷惑ばかりかけるからですか? というか、これ、絶対寝たふりですよね……。



 また寂しい気持ちになって、ターク様の背中をじっと眺めていたけれど、慣れない旅の疲れもあって、私は知らない間に眠ってしまっていた。



      △



 翌朝、ターク様はかなり(けわ)しい顔で起きてきて、宿屋の朝食にも手をつけず、ほとんど喋らなかった。顔色はずいぶん悪いし、目つきが益々ギラギラしている。



 ――タ、ターク様……。本当に大丈夫ですか?



 魔力残量を確認したいけれど、ターク様は最近ずっとステータスをロックしている。


 何か見られて困る事でもあるのだろうか。そして今日も、私と目を合わそうとしない。



 ――いいもん、ライルが居るもん……。



 私はライルを抱きしめて馬車に乗り込み、馬車は再びウィーグミンを目指して出発した。


 ターク様は御者台に座り、ずっと前を向いたままだった。



 ライルを連れウィーグミンへ向け出発した二人。ターク様は興奮状態の影響か、何日も寝ていないにも関わらず剣技がさえ渡っています。そんなターク様をスーパーヒーローだ! と思いながら見ている宮子。ターク様に避けられるのが寂しくて仕方ないようです。


 次回、魔物に襲われ苦戦するターク様に異変が起きます。


挿絵(By みてみん)

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[良い点] ウィーグミンにはライルも何か目的があるのでしょうか? 彼の利益になることが待っているのでしょうが、何故それを知っているのか。 ライルも油断できない存在です。 オルフェル達の頃は純粋無垢に見…
[一言] ライルの久しぶりの登場! 3人度ならまだなんとかいけそうですね! でもこれからどうなるのか!? 楽しませていただきますね.°ʚ(*´꒳`*)ɞ°.
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