07 ミヤコはどこだ!~ターク様、どうなさったんですの?~[挿絵あり]
場所:マリルの屋敷
語り:ターク・メルローズ
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森の魔物討伐に同行していた私、ターク・メルローズは、残った魔力で何人かのケガ人を治療してまわり、ようやく部屋に戻った。
タツヤは私が出かけてばかりいると、「みやちゃんが心配だから、部屋に居させてよ」と、しばしば文句を言ってくる。
魔物討伐も苦手らしく、とにかく帰りたがって困ってしまう。
私だって本当は帰りたいが、のんびり休んでいると、焦りと不安が胸に押し寄せてくるのだ。
それでも、最近はしっかり眠れているおかげで、まだ気持ちは楽な方だった。
ミヤコが毎晩、私が眠るまで、ツボを押したり、歌を歌ったりしてくれるからだ。
おかげで随分眠りやすくなり、魔力もある程度は回復出来て、私は非常に助かっていた。
最初は「僕のみやちゃんに甘えないでくれる?」と、文句を言っていたタツヤも、私が眠れないと同じように辛いらしく、「早くみやちゃんの歌を聴いて寝ようよ」と言うようになった。
私もそれは大賛成だ。
彼女の美しい歌声は、私の頭の深いところまで心地よく震わせ、魔法のように心を落ち着かせてくれる。
彼女はこんな理不尽な状況で、外にも出られず、酷い目にも遭っているのに、恨み言一つ言わず、私やマリルの心配ばかりしている。
そんな彼女の温かな人柄が、優しい歌声に表れているようだ。私はすっかり、彼女の歌声に魅了されていた。
しかし、帰ってみると、部屋にいるはずのミヤコの姿がない。
「ミヤコはどこだ?」
私はウロウロと、部屋中を探し回った。嫌な予感で頭がクラクラする。タツヤがパニックを起こしたように喚いて、耳鳴りを起こしてくる。
「ミヤコはどうしたんだ!?」
青ざめて声を荒げる私を見て、メイドのサーラが同じように青ざめた。
「ミヤコさんなら、迎えにいらした女性戦士さんとお出かけになられましたよ? ご主人様がお呼びになったのでは……?」
「女性戦士? 誰だそれは!」
「いつもマリル様についておられる、大きな盾を持った方です」
「あぁ、あの変な護衛か……」
いつもマリルに付き従っている、女戦士には私にも見覚えがあった。本人は護衛と言っているが、マリルが好きで付きまとっているだけに見える妙なやつだ。
「大きな声を出してすまなかった」
私はサーラにそう言って、急いで馬車を走らせ、マリルの屋敷に向かった。
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――まさか、勝手に連れ出すとは……。
屋敷に着くと、辺りはすっかり暗くなっていた。入り口でマリルの執事のセバスチャンが驚いた顔で私を出迎える。
「ターク卿、こんな時間に如何なさいましたか?」
「セバスチャン、ミヤコが来ているだろう? 迎えに来た」
「はて? ミヤコさんはここにはいらっしゃってませんが……」
「そんなはずはない。ここの女戦士が迎えに来たと、メイドが言っていたぞ。マリルはどこだ? マリルと一緒じゃないのか?」
「マリル様ならお部屋でお休みです。お一人のはずですよ?」
すっかり血の気が引いた顔の私を、セバスチャンは訝しげに見ている。どうやら本当にミヤコを見ていないようだ。
「……とにかく通せ」
「困ります。マリル様はもうお休みですから……」
セバスチャンの制止を聞かず、私はマリルの部屋に駆け込んだ。
突然扉を開けられたマリルは、驚いた様子も見せず、ゆっくりと私の方に顔を向けた。
いつも通りの華やかなドレスを着こんでいて、休んでいた様子はない。
「あら、ターク様、こんな時間にどうなさったんですの?」
「マリル、ミヤコをどうした?」
「まぁ……。そんなに青ざめて、息を切らせて……」
マリルは私に駆けよると、私の後ろに立って、やさしい手つきで背中をさすってくれた。私への怒りはもう治ったのだろうか。
「唐突に何をおっしゃるんですの? ミヤコさんはターク様のお部屋にいらっしゃるのでは?」
「居なくなったんだ。君から使いが来たと……」
「わたくし、使いなんてよこしていませんわ。ターク様、何か勘違いをされているのでは?」
普段と変わりない、落ち着いた様子で話すマリル。
――そんなはずは……。だが、これ以上マリルを疑う訳にはいかない。
「そうか、すまなかったな。夜遅くに迷惑をかけた。また改めて来るよ」
私はそう言って、いつものようにマリルの額にキスをすると、彼女の部屋を後にした。
パニックを起こす達也を頭に抱えながら、マリルの屋敷に駆けつけたターク様でしたが、あまりに落ち着いたマリルの態度を見て、無闇にマリルを疑うわけにはいかないと彼女の部屋を出てしまいます。ターク様は宮子を見つける事が出来るでしょうか?
次回、マリルの部屋を出たターク様はとある異変に気づきます。




