03 ややこしい関係。~達也の要求は勝手すぎる~
場所:王都(訓練所)
語り:ターク・メルローズ
*************
マリルの屋敷からの帰り、私は王都にある訓練所に寄っていた。気分が塞いで真っ直ぐ帰る気分になれなかったのだ。
――どうして怒らせた? なんて言えばよかったんだ……?
自分に質問を繰り返していると、時おりタツヤが相槌を打ったり、ごちゃごちゃ話しかけたりしてくる。
『最後の責めるみたいなのは良くなかったよね』
――うるさい、黙ってろ。
私はタツヤの声が聞こえないように、ブンブンと剣を振り回した。
私だって、マリルを怒らせる気はなかった。彼女は高飛車で怒りっぽいお嬢様ではあるが、長い年月、私を一途に思い、どんな時も励まし側にいてくれた、大切な婚約者なのだ。
伯爵家の一人息子で、不死身の大剣士でもある私に、相応しい自分でいる為にと、努力を惜しまず、魔術を勉強する姿にはとても好感が持てるし、小さくて可愛らしい所も嫌いではない。
――そういえば、前にもマリルがミアにやきもちを焼いて泣いたことがあったな。
まだマリルと出会って間もない頃、私が彼女にミアの話ばかりしたために、彼女が怒って私にファイアーボールを投げつけたことがあった。
当時既に不死身だった私は、服が燃えたぐらいで、特にケガもしなかったが、彼女は自分の仕出かしたことに驚いて泣いてしまった。
あれから私は、彼女の前でミアの話はしないようにと気をつけてきた。
私は確かに、長い間ミアに心を寄せていたし、マリルもそれに気がついていた。
しかしそれは、マリルと過ごすうちに、次第に愛や恋というより、戦いを終わらせ、ゴイムを解放すると言う、志しのようなものに変わっていったのだ。
私の心に、マリルとの結婚への迷いはない。ポルールの戦いが終わり、マリルが卒業すれば、すぐにでも結婚するつもりだ。
だからこそ、ミヤコのことで、マリルに嫌な思いをさせるつもりはなかったし、うまくマリルの気持ちを安心させて帰ってくるつもりだった。
――どうしたらいいんだ……。
『彼女すごく怒ってたね』
ただでさえ混乱しているのに、いちいちタツヤが相槌を打ってくるのが、余計に私を苛立たせる。
カミルと精霊の集会所に行った日から、タツヤの出現頻度は格段に上がってしまった。なんだかとても煩しい。
――お前、なぜ私の中にいる?
『……』
――都合が悪いとだんまりか?
『思い出さない方が良いこともあるよ』
――なんなんだ。私は何を忘れているんだ?
『……』
――いつも勝手に人の心の声を聞いていて、気が向いた時だけダメ出ししに出てくるな。嫌なやつだ……。
『聞こえてるよ』
ここ数日は、心の中のタツヤと、こんなふうに会話ができてしまう。
しかし、厄介なのはそれだけではなかった。タツヤの感情が大きく動くと、その感情の揺れが、あふれるように私に伝わってくるのだが、その頻度や大きさが前より上がっているのだ。
ミヤコの一挙一動に過剰に反応するタツヤの感情の波が、頻繁に私の心を揺り動かしてしまうのは、正直言ってすごく困る。何度も言うが、私はマリルを裏切るつもりはないのだ。
『君、思ったよりマリルちゃんを大切に思ってるんだね』
――当然だ。フィアンセだぞ。
『なら、僕のみやちゃんを気安く触るのはやめてよね。昨日だって、抱き寄せる必要はなかったよね?』
――いや、あれは私のせいじゃないぞ。お前がソワソワするからだ。
『そうかなぁ』
――ミヤコを泣かせるなと言うなら、慰め方にまで文句を言うな。と言うか、お前、なぜそうやって、ミヤコを自分のものみたいに言うんだ? ミヤコにふられたんじゃないのか?
『え、どうして!? 僕はまだふられてないよ』
――ミヤコはお前の告白に、返事はしてないと言っていたぞ。そんなの、ふられたのと同じだろ。
『全然違うよ。僕とみやちゃんは、お互い大切な存在過ぎるだけなんだ』
――ふん、とにかく、私はマリルと結婚する。邪魔はするなよ。
『まぁ……そんなつもりはないけど』
タツヤの要求は、とても勝手なものだ。今まで私の感情を揺さぶって、ミヤコを守らせて来たくせに、私がミヤコに触ると怒る。
やさしくしろと言うくせに、やさしくし過ぎても怒る。冷たくするともっと怒る。いったいどうしろというのか。
タツヤがごちゃごちゃうるさくて、気持ちを落ち着けたくても、一人になることすら出来ない。
私はまた、闇雲に黒い大剣を振り回した。
ターク様の心の声を勝手に聞いては、ごちゃごちゃと話しかけてくる達也に、ターク様はうんざりしてしまいます。大切な婚約者がいると言うのに、達也の宮子への恋心に揺り動かされてしまうターク様。達也の勝手すぎる要望に困り果てているようです。
次回、ターク様はカミルの思わせぶりな発言でさらに混乱してしまいます。




