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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第7章 私はどうかしている

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02 夕暮れのティールームで2~異世界ってなんなんです?~

 場所:マリルの屋敷

 語り:ターク・メルローズ

 *************



「ターク様……そ……それは……っ」


「ま、待ってくれ。マリル、落ち着いて、一度座ろう、な?」



 戸惑いに震えながら立ち上がった彼女に、私は両の手のひらをひらひらと上下させ、座るように促した。


 彼女は、納得が行かないと言う顔をしながらも、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。



「確かに、私はミヤコが居ないと眠れない……だが、これは、断じて私のミヤコへの感情からくるものではないのだ」


「はぁ……? どう言うことですの?」



 マリルは不安と苛立ちの入り混じった瞳で、私を見つめた。今更ながら、本当のことなんて言わない方が平和だった気がしてくる。



 ――だが、もうマリルに嘘はつかない……。



 婚約者である彼女に、今まで自分の気持ちを何も話さずにきた。真剣に向き合わず、怒らせないようにといつもごまかしてきた。


 これまでも、こんな風に誠心誠意話をしてきていれば、こんな困った事態にはならなかったかもしれない。


 後悔の渦に飲み込まれそうになりながらも、私は話の続きを進めた。



「実を言うと、私の中には、もう一人、異世界から来たタツヤという男が入り込んでいるのだ」


「……はい?」


 キョトンとした顔で首をかしげるマリル。当然だ。こんな話、私だってなかなか信じられたものではなかった。


 だが、これをマリルに信じてもらわない訳にはいかない……。


 とは言え、自分でもよく分かっていないだけに、うまく説明できそうな気はしなかった。


「その、タツヤが……なぜかミヤコと知り合いでな……どうも、幼なじみらしいんだが……」


「ターク様、何をおっしゃってるのか、わたくし、分かりませんわ……?」


「だからな、その、異世界から来たタツヤが、頭の中に……」


「ターク様、もういいです」



 マリルは呆れた顔で私の言葉をピシャリと遮った。彼女の小さな顔が、怒りに震えている。



「ターク様、異世界、異世界って、一体なんなんですの? その男が、実在するかも分からない異世界へのゲートを通ってきたとでも? 異世界なんて、そんなの、古の伝説じゃありませんか!」


 唇を噛みしめた私に、勢い付いたマリルがまくし立てる。


 ――うぐ……もう心が折れそうだ。こうなるともう、私の手には負えない。よく頑張ったが、私に出来るのはここまでだ……。



 諦めの気持ちが思考を埋め尽くし、私はボンヤリと彼女の怒りの声を聞いていた。しかし、ミヤコとの約束もある。今日はこのまま帰るわけにはいかない。



「ま、マリル、聞いてくれ。タツヤがどうやって来たかは知らないが、とにかくそいつは私の中にいるのだ。そして、ミヤコを守れと私を操って……」


「いい加減になさって下さい。そんな突拍子もない話でわたくしをからかって!」


「違う、そんなつもりは……」


「そんなバカな言い訳をして、本当にミヤコさんのご主人を見つけるつもりはあるんですの? ターク様にやる気がないんでしたら、わたくしが今度こそ、ミヤコさんの封印を解除して差し上げます」



 この時、私の胸から、ポキリと心の折れる音が聞こえた。



 ――誠心誠意作戦はもう限界だ。だが、これだけは伝えておかなくては……。



 私はマリルの目をまっすぐに見つめた。私の真剣な眼差しに、マリルが一瞬黙り込む。その隙を突き、私は言葉を発した。



「……ミヤコは、主人の元へは返さない」


「なんですって!?」



 凍りついたマリルの顔を見ても、私にはもう出来ることが無かった。


 とにかく、こんなに怒っている彼女に、危険な封印を抱えたミヤコを預けることは出来ない。



「マリル、ミヤコの所有者はサキュラルで弱った彼女を鞭で打ち、虐待していた男だ。その上、彼女がいたぶられるのを承知で、ゴイム印を付けたまま外に放り出した。そんなやつの元にミヤコを返すことは、私には……」



 私の話が終わらないうちに、マリルはテーブルに、バーン! と両手を叩きつけながら立ち上がった。


 ティーカップがガチャンと音を立て、マリルの座っていた椅子が後ろに倒れると、ティールームにガターンと大きな音が鳴り響く。



「返さないでどうするおつもりですか!」



 怒りに顔を赤くし、大声を張り上げるマリル。その瞳には、涙がたまっている。私は目を見開いたまま、震える彼女を見上げていた。



「どうしてあなたは……。珍しく自分からこちらにいらしてくださったかと思えば、わたくしより、ミヤコさんが大切だと、そう言いにいらっしゃったんですのね?」


「違う、そういうことじゃ……」


「何が違うんですの!?  今の話でいったい、何を信じろって言うんです!」



 マリルの声がキンキンと私の頭に響いて、私は頭を抱え込んだ。正直に話したつもりだったが、私の言葉は全て、嘘になってしまったようだ。



「……マリル、君は彼女がどうなってもいいと……そう思っているのか?」



 絶望が胸に押し寄せる中、思わず発した私の言葉に、マリルはわなわなと震えた。


 夕暮れに染まるティールームは静まり返り、彼女のヒュッと息を呑む音が大きく響く。



「……マリル、君はいつも私を元気づけ、励ましてくれたじゃないか? そのやさしさを少しだけ、彼女に向けてもらえないか?」


「冗談はやめてください! わたくしはあなたとは違います! もう、今日はお帰りください」



 最後に私は、マリルの同情心に期待した。しかし、マリルはますます怒った顔をして、ドカドカと音を立て、部屋に帰ってしまった。



 ――こんなはずじゃなかったのだが……。



 痛む頭を抑えながら、私はすごすごとティールームを後にした。


 しかし、考えようによっては、彼女の怒りの矛先を、私に向けることくらいは出来たのかもしれない。


 そんな私の甘い考えが、この先の事件を引き起こした。



真実を正直に伝えようと頑張ってみたターク様でしたが、マリルさんは話の途中で怒って出て行ってしまいました。とりあえず怒りの矛先が自分なら問題ない、と思ってしまうターク様。やっぱりかなり、無頓着のようです。


次回、ターク様は達也にごちゃごちゃ言われながらマリルを想います。


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― 新着の感想 ―
マリルさん正論すぎてぐうの音も出ませんね…。 タークさま…(⌒-⌒; ) マリルさんの気持ちを考えると…やっぱり辛いですね。 二人の行先も気になります。
せめて、やましいことは何もないと信じてもらいたかったですね。 ターク様が諦めずもうちょっと頑張って、マリル嬢も最後まで話を聞いてくれていたら……いや、難しかったでしょうか。 いっそのこと、三人でなか…
[良い点] 色々な面で追い詰められているターク様に、これ以上を求めるのも酷な話ですが…… マリルは哀れとしか言いようもございません。 多くの人間がどちらの立場に立ったとしても、まぁこうなるなって感じで…
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