12 衝撃の後に。~達也、声が大きすぎるぞ~
場所:タークの屋敷
語り:小鳥遊宮子
*************
森に出かけた日の夜、私は客室のバルコニーで外の空気を吸いながら、昼間の出来事を思い返していた。
色々あったけれど、やっぱりターク様の中に達也が居たことが、一番の衝撃だった気がする。
ずっと会いたかった達也がこんなに近くに居て、ターク様の中から、私を守ろうとしてくれていたなんて、考えると嬉しくてたまらなかった。
――ずっと心細かったけれど、私は一人じゃなかったんだわ!
――ターク様には申し訳ないけれど、また達也と話したいな。
さっき、達也から受け取ったプレゼントは、青い薔薇の飾りがついた小さな髪飾りだった。それを見た私は、達也が選んだんだと一目で分かった。
だって彼は、私の好みをよく知っていて、私を喜ばせるのが得意な人だから。
私はさっきからずっと、手に持った髪飾りを眺めては一人でニマニマ笑っていた。
「ミヤコ、ここに居たのか」
声が聞こえて振り返ると、私を見つけたターク様が、客室からバルコニーをのぞき込んでいた。
「それ、気に入ったのか?」
そう言って、私のとなりに立ち、髪飾りを指さすターク様。
「すみません、達也に買わされたんですよね」
「いや、気にするな。私もお前に何か買いたいと思っていた……と思う……」
ターク様はそう言って、少し自信がなさそうに顔色を曇らせた。
「分からないんですか? 自分の考えなのかどうか」
「あぁ。だが、その髪飾り、お前に似合いそうだ。青系だからな」
やさしい顔ではにかんだように笑うターク様。私が好きな色を知っていたのは、達也だけじゃなかったようだ。
「ありがとうございます」と、私がお礼を言うと、笑っていたターク様が急に、辛そうに頭を押さえた。
「く……タツヤ、声が大きすぎるぞ」
「わ、達也が何か言ってるんですか?」
「あぁ、今日のことを、もう一度お前に謝れと言われているんだ……。分かったから……もう少し小さい声で話してくれ」
そう言って私に向き直り「ごほん」と咳払いしたターク様は、「今日は……すまなかったな。私は少し、焦っていたようだ」と、決まりが悪そうに私を見た。
――そんな操られ方!? 達也、やめてあげて!
達也に頭の中で騒がれると、抵抗できない様子のターク様。いつも苦しそうに胸や頭を押さえていたのも、達也のせいだったなんて、何だか凄く申し訳なく思う。
「も、もう、大丈夫です。びっくりしましたけど、私も知りたかったことなので」
「そうか……お前は、日本から飛んできて、自分にそっくりのゴイムの体に入り込んだようだな」
「そうみたいですね。全然気が付きませんでした」
達也にそっくりなターク様に入り込んだ達也と、自分にそっくりなミレーヌに入り込んだ私。
どうしてそうなったのかは分からないけれど、状況を考えると、何かそういう現象が起こっているようだった。
「その、ミレーヌは、お前に話しかけては来ないのか?」
「全然、反応はないんですけど、何かさっきから少し、存在を感じると言うか……気配がすると言うか……」
「あー。それだな……その段階の時はまだ良かった。こう大声で四六時中話しかけられるとたまらないぞ」
頭を軽く横に振りながら、ため息混じりにそう言うターク様。
「だけど、私はミレーヌの身体を奪ってしまってるみたいなので……なんだか申し訳なくて」
「ふむ……きっと、ミレーヌは自ら望んで静かにしてるんじゃないか? サキュラル以上の暴力を受けていたゴイムだからな。既に魔力タンクになりかけていたのかもしれないぞ」
「見えた記憶の中では、消えたいって願っていたみたいでした」
「消えたい……か。悲しい願いだな」
そう言って、切なそうに目を伏せたターク様は、ふと、私の手に握られていた髪飾りに目をやった。
「それ、つけて見せてくれないか?」
「えっ! は、はい」
――ん? ターク様の希望? 達也に言わされてる?
――ややこしい二人!
そう思いながらも、後ろに下ろしていた髪をまとめ、髪飾りを刺して見せると、ターク様は一歩後ろに下がり、まじまじと私の後ろ姿を眺めた。
――なんだか二人に見られてるみたいで二倍恥ずかしい!
「思った通り、よく似合うな」
「あ、ありがとうございます!」
「うーん、しかし、やっぱりあの青いドレスは買いたかったな」
そう言って私の髪を触ろうとしたターク様は、突然「痛っ」と言ってその場にしゃがみ込んだ。
「だ、大丈夫ですか!? どうしました?」
「く……ミヤコに触るなだと……?」
「達也、ターク様を苦しめるのはもうやめて……!」
「ぐぅ……前より痛みも強くなってるな」
そう言ってふらふらと立ち上がり、「もう寝る……歌を頼む……」と、ベッドルームに向かうターク様。
――まさか、ターク様……達也のせいで調子が狂って、戦地から帰ってくることになったんじゃ……。
そんな不安に少しもやもやしながら、私はすぐにターク様の後ろを追いかけた。
「はい! 了解です!」




