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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第6章 アーシラの森で

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10 試してみよう3~こじ開けられた記憶~[挿絵あり]

 場所:アーシラの森

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



「試してみたい」



 そう言って、がっしりと私の肩を掴んだターク様は、ますます強い光を全身から放っていた。



「試すってなにを……?」



 彼のあまりに切羽詰まった表情に、なんだか嫌な予感がした私は、少し(ひる)んで後退りした。



「もし、お前に記憶障害があるなら、今ここで治せるはずだ。記憶が戻れば、わかる事もあるだろう」


「ちょ、ちょっと待ってください……」



 そう言って逃げ出そうとする私を、ターク様はグイッと引き寄せた。


 キラキラ十倍増しの顔が間近に迫り、眩しすぎて目を細めずにはいられない。



「いいから、口を開けろ」



 焦る私の顎を、ターク様が指先でグイグイ押しさげる。



 ――あわわ、やっぱりこれ、初日にやられたやつですよね……?



 キラキラ光る吐息を漏らしながら、「ほら、早く」と囁いたターク様は、返事も待たず、私の口に唇を被せた。



 ――あーん、強引すぎる!



 ターク様の指と舌先が、私の唇をこじ開けようとしている。


 だけど、ターク様は今日、いつもの何倍も光っているのだ。このまま口を開けたら、とんでもない量の光が私に入ってくるだろう。



 ――まって、まって、こんなの無理です、ターク様! 唇を舐めないで……!



 私は歯を食いしばったまま、ターク様の腕の中で、ジタバタと抵抗を試みた。


 抵抗すればするほど、身体が仰け反り、結局押し倒されてしまった私。癒しの光に包まれて、ほんわりと体の力が抜けていく。



 ――ほんわりしちゃダメ! 私!



 覆い被さったまま顔をあげ、「観念して口を開けないと……鼻、つまむぞ?」と脅しをかけるターク様。



 ――うがー! そっか、ターク様、最初からそのつもりで、私をここに連れて来たんですね……!?



 どうやら、これ以上抵抗しても無駄らしいということに気付いた私。


 再びターク様の唇が私の口に被さると、私は諦めて、「えーい!」と、口を開けた。


 唇を押し開こうとしていた彼の舌先が口の中に入ってきて、私の舌先にチョンと触れる。



 ――ぎゃー! ディープなやつ!?



 ターク様の口から、いつもの癒しの光とは比べものにならないほど、濃い光の束が溢れ出している。


 それが、つながった口を通じて、ドバドバと私のなかに流れ込んできた。



 ――もうだめ、すごすぎる……。



 光で目の前がチカチカして、意識がどんどん薄らいでいく。


 そのとき、真っ白になった視界に、見たことのない風景が浮かびあがった。



      △



 ――あれ? 私、何してた?



 どこか、ターク様のお部屋とは違う、貴族のお屋敷の一室にいる私。


 目の前には、豪華な貴族の装いをした男が、苛立った様子で歩き回っている。


 追い込まれた気持ちで、恐怖に震えている私の心。手足には(かせ)がはめられ、身体は動かせず、声も出ない。



『役目を果たせ! ミレーヌ!』



 男は叫びながら、うずくまる私に(むち)を振りおろした。


 強烈な痛みが走り、肌が裂け、血があふれ出す。長時間こんな目に遭っていたらしく、すでに身体中が傷だらけだった。


 恐ろしい顔で私を見下ろす男の目は、まるで蛇の目のように冷たい。ひどく釣りあがった逆三角の目の中で、小さい黒目が鋭く光っていた。



『サキュラル、サキュラル、サキュラル、サキュラル! 足りない、全然足りないぞ!』



 男は気が狂ったように、執拗にサキュラルを唱える。


 魔力も体力もなにもない身体から、さらになにかが吸いあげられようとしている。身体中が痛くて重くて、吐きそうに気分が悪い。


 為す術もなく倒れ込むと、また鞭が振りおろされた。



 ――もういや……消えてしまいたい。



 目の前の大きな姿見には、哀れに転がる自分の姿が映し出されている。



 ――これが私……? いやだ……どうして!?



      △



 突然、意識を取り戻した私は、必死になってターク様を押し返した。



「もう、やめてくださいっ! いきなり、ひどいですよ! こんなの、あんまりです!」



 ポロポロと涙を流す私の顔を、ターク様が不安げな顔で覗き込んだ。



「なにか見えたか?」


「ご主人様が……見えましたよ」


「そうか……。よし……まぁ……とりあえず菓子を食おうな」



 ターク様はそう言うと、さっき買ったお菓子の箱を三つとも取り出し、私の前に並べた。



 ――お菓子!? このために!? 私が泣くのも予定どおりですか? ターク様? もう、恨みますからね!



 バツの悪そうなターク様の横で、私は泣きながら、とにかくお菓子を口に詰め込んだ。



 挿絵(By みてみん)



 ターク様に強烈な光を流し込まれ、酷い虐待の記憶を見た宮子。ミレーヌと呼ばれたゴイムは本当に自分なのか。取り乱す宮子に、ターク様はお菓子を差し出しました。


 次回、怒りながらお菓子を口に詰め込む宮子に、ターク様は恐る恐る話しかけますが……。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
恋愛的な意図はなくても、ディープな…(⌒-⌒; ) そのためのお詫びもあって大量のお菓子だったのかな?と。 宮子ちゃん、思う存分たべちゃっていいのよ!!笑 それにしても…宮子ちゃんの過去と、ゴイムとし…
ようやくお互いの事情に踏み込めましたね。 この話をするなら精霊の集会場は絶好のロケーションです。 ……って、ターク様の目論見はそっちでしたか! 確かに、ここはそういった意味でもいろいろ絶好の機会では…
[良い点] ターク様は流石の伊達男ぶりで、こんなにも容易くディープなのを成功させますか。 男として凄いとしか言いようない手腕でございます。 この脳筋&女心博士なターク様の治療は、どうなるかと思いきや…
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